第3話 魔法の理論
曇天がどこまでも続いている。
その中で俺はうつむいたままとぼとぼと歩いていた。
先程までは気分よく歩いていたが、改めて考えると心細さが勝ってしまう。
これが孤独ということだろうかと歩きながらひしひしと感じる。あんな家族でも俺にとっては心の支えだったのだ。
しかしこれ以上感傷に耽っても何もいいことは無いことは分かっていた。
「うわっ! 」
うつむて歩いていたせいか目の前に人がいることに気づかずにぶつかってしまう。
目の前には男が立っており、黒いローブが波打つ。
その男は俺に気がつくや否や振り向くと口を開いた。
「おっと、誰かと思えばデュークじゃないか」
聞き覚えのある爽やかな声と率直な言い回しに思わず俺の心拍数が跳ね上がった。
「シ、シェード先生!? 」
ぶつかったのは俺が通っている学校で俺のいるクラスを担任している魔法学の先生だった。
この世界に魔法があったことを知ったのはこの学校に入ってからだった。
最初のうちは魔法が使えると誰もが目を輝かせていたが、実際学んでみると理論と想像力で成り立っている事実を知って熱が冷めたことを覚えている。
「キミ、こんな時間に……どうしたんだ? 」
先生は
「実は先生を探していたんです。確か俺だけ水を氷に変える課題ができていませんでしたよね」
先生は俺が言い終わるや否や何かの本を開くとページをめくり始めた。
「ふむ、そうだな。でもそれは必ずでもな――」
「お願いします。俺にその課題をできるまで受けさせてください! 」
少しでも理由をつけて家族から離れれば良いと思いながら俺は先生の言葉を遮るように頭を下げる。
街の人達が歩く音や談笑だけが聞こえる。まるで俺と先生だけ時が止まっているように感じた。
「はぁ……分かった。とりあえずついてきてくれ」
「はい!!! 」
かなり間を置いて彼は呆れた表情を浮かべながら歩いていく。
それに対して俺はあまりの嬉しさに大きな声で返すと彼について行った。
「さぁ、ついたぞ」
先生は満足気な笑みを浮かべると歩みを止める。
町外れまで歩くとは正直思っていなかったので俺の足はガクガクと震えていた。
目の前にはレンガ調の家があり、俺のいる家に負けず劣らずの大きさに感嘆を覚えながら先生と共に家の中に入る。
先生は迷いなく家の中を歩いている感じからこの家は先生の家ではないかと感じていた。
「デューク、ここで課題をしようか」
しばらく歩いていると大きな広間に着く。
先生が言うにはここは魔法を実践する部屋らしい。
様々な道具が所狭しと並んでいる中で俺はテーブルの前に立たされる。
「はい。まず先生、水を生成する魔法からですよね」
俺の質問に対して先生は軽く頷くと目の前にコップを置いてくれた。
確か水を作り出す理論は目的の地点にある空気に対して周りの冷気を集めていくというのは覚えている。イメージはこの空間だけではなく周りに放っている冷気を利用する感じだっただろうか。
「
しばらくの間、そのイメージを保っているとコップの中に水が集まっていた。
「ふむ、純度がかなり悪いな。もう一度やってくれないか? 」
先生はそう言いながらコップの中に入っている水をまじまじと見つめる。
純度を言い出したのは不純物が混じると今度は氷に変える魔法が出来なくなることは授業で習っていた。
「は、はい」
俺は再びイメージを構築しながら水を作り出す。
「
何故か水が透明ではなく少し赤みがかかっている水としてコップに集まっていく。
確か最初に課題を出された時はかなり透明で先生からも高得点を出してくれたはずだ。
しかし何故純度が落ちてしまったのだろうか。
不純物ができるメカニズムをまだ学んではいないため原因については検討もつかなかった。
「うーん、ダメだ」
先生は目の前のコップを見つめながらぽつりと呟いた。
「シ、シェード先生。ど、どうすればいいのでしょうか? 」
アドバイスを求めるように俺は先生の方を向く。
いつもは明るい彼の表情も今はかなり曇っている。
「キミ、もう今日はやめた方がいい」
「えっ?どうしてですか? 」
「キミも疲れているだろうし……なにより外が真っ暗だ」
先生に言われて俺は窓から外を見る。
確かに先生の言った通り外は真っ暗で月明かりだけが街を照らしていた。
「こうなったのもオレのせいだな。キミの家まで送るよ。ところで家は――」
その刹那、先生の言葉を邪魔するかのように扉を壊さんばかりに叩く音が聞こえる。
そして先生が扉を開けると目の前には1人の兵士が立っていた。
「デューク坊っちゃま。父親の命で貴方を探していましたよ」
先生の後ろで震えている僕を見つけた兵士が声高らかに言い放つ。
しかしその瞳にはどこか怒りをはらんでいた。
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