「センパイ、一目惚れしました!」
「すみません」
センパイに出会ったのは高校の見学会。私が中学3年生の時だった。
その日、母のすすめで行っただけであまり気乗りではなかった私は一通り説明を受けた後、特設されたベンチに座っていた。
そしてあ〜〜、時間までどうやって暇を潰そうかな…、なんて空を見上げながら思っていた時だ。
当時高校一年生のセンパイに声をかけられたんだ。
「……はい?」
今思えば物凄く態度が悪かったと思う。
ベンチの背もたれに両腕をかけ、足を組んでいたのだから。それでも態度を崩さなかったセンパイはさすがというか、なんというか…感服である。
「急にお声掛けして申し訳ありません。あなたが退屈そうにしていたようなので」
「…“退屈そう”…。……そうですね、退屈です」
「理由を聞いても?」
「母のすすめで来たんで、私自体あまり気乗りじゃないんです」
「そうでしたか。隣に座ってもよろしいでしょうか?」
センパイはそう言って以前態度が悪い私に丁寧に接した。そんなセンパイを見て呆気にとられながらも「はい」と答えた。
「失礼します」
センパイの丁寧な口調、洗礼されたような動き。私はじっ、とセンパイを見てしまっていた。
「僕の名前は長瀬 栄一といいます。あなたは?」
「……結城 優良です」
「結城さんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「お好きにどうぞ…」
「ありがとうございます」
それからセンパイは高校の事を話し出した。
春には部活動勧誘があり、自身は美術部に所属している事。
中間試験を終えれば体育祭がある事。その体育祭では部活動対抗借り物競争がとても面白い事。
センパイは去年代表で走ったところ、お題が“わたあめの看板”という限定的なもので焦ったという事。体育祭は出店も出ているため難なく入手できたのは幸いだったという事。
夏休みが終わり、秋になれば文化部メインの文化祭があるという事。美術部はいつも絵を展示して他は好きに回っていいくらい緩い事。3年生は修学旅行もある事。
冬は雪が積もると先生の計らいで雪合戦や雪だるま作りが行われる事。
他にも沢山、楽しい行事がある事を教えてくれた。
「僕ばかり話してしまいましたね」
「いえ」
確かにセンパイばかり話していた。最初こそはいつ終わるかな…?と内心げんなりしていたが自分の高校のいい所を話すセンパイはとてもキラキラしていてなんだか、好きだと思えた。
今思えば、私はこの時から少しずつセンパイに好意を持ってきたのではないだろうか。
「すみません」
そう言って眉をひそめ、謝るセンパイの顔をまともに見られないくらいには、緊張していた。
「いえ…」
「我が校の事、少しでも気になっていただけましたか?」
「そう、ですね…」
「……元気ないですね、大丈夫ですか?」
センパイはさっきとは打って変わって弱々しく返事をする私を心配して下から顔を覗き込んだ。
センパイと視線が合う。その時だった。
「………………好き…」
「はい?」
「す、好きです…!」
「え?」
私はバッ、と顔を上げてセンパイを見た。驚いた顔。それすらも愛おしく思えたのだ。
「私…っ!」
私はじっ、とセンパイの目を見てハッキリとこう言った。
「私!あなたに一目惚れしました!」
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