「センパイ、覚えてますか?」


「あ、の…猿投クン…、この量は…?」


「俺、食べ盛りざかりなんで!!」


「にしてもこの量は多いんじゃないかな…?」


私はやや苦笑いを浮かべながら机の上に置いてあるドーナッツの山を見る。猿投クンはドーナッツ屋さんに入ったかと思えば驚く量のドーナッツをトレーに乗せてあれよあれよとお会計を済ませたのだ。

そして空いている席に向かい合わせに座り、今に至る。


「優良さんも好きなのがあればどうぞ!」


「あ、じゃ…この新作いただくね」


私はそう言って一番手前にあった新作のドーナッツを手に取る(実は気になっていたのだ)。


「どうぞどうぞ!」


「…ん。美味しいね」


「はいっ!」


猿投クンはまた太陽のような笑顔を浮かべてそう言う。

最初はグイグイ迫ってきて少し慌てていたが、それにも慣れてきた。

猿投クンは少し距離が近いだけで案外いい子なのかもしれない。でもセンパイには悪いからこのドーナッツを食べたらすぐに帰ろう。そう思っていた時だった。


「優良さん。先輩って誰ですか?」


少し真剣な眼差しで猿投クンがそう言い、私の事をじっと見てきた。そういえば猿投クンはセンパイの事を詳しく聞きたいとか言ってたっけ…、なんて思いながら私はドーナッツの最後の一口を食べる。


「センパイはね、私の彼氏なの」


「いつからお付き合いしてるんですか?」


「金曜日からだよ」


「イケメンですか?」


「センパイはイケメンだよ」


「顔で選んだんですか?」


「センパイはかっこいいけど、やっぱり性格が素敵だったんだ」


「………先輩の事、好きですか?」


「うん。大好き」


猿投クンのその質問に私は間髪入れずにそう答える。センパイの事を考えていると自然と笑みが溢れてきた。そういえばセンパイは用事は終わったのだろうか。もし終わっているなら一緒に帰りたいものである。


「ならワンチャンありますね!」


「………はい?」


「カッコイイとか、性格とか関係なしに、まだ付き合ったばっかりなんですよね? ならまだ俺にもチャンスがあるってもんですよ!!」


「いや?! チャンスないですけど?!」


「優良さん! 他にもそいつの事教えてください!!」


猿投クンは勢いよくそう言うとこちらにグイッ、と体を近づけてきた。机がなかったら私にぶつかっていたのではないだろうか…?なんて内心焦りながら私は口を開く。


「話聞いても面白くないよ…っ」


「いえ! 聞きたいです! 年上って何歳年上なんですか? どんな風なんですか? デート行きました?」


次から次へと出てくる猿投クンの質問に私は慌てふためきながらも「分かった! 分かったから!」と彼を落ち着かせる。


「分かった! 答えられる範囲で答えるから…!」


「はいっ!」


とはいえ、センパイと私の事について質問してくるのはなんだか新鮮である。えみや部活のみんなは「やっとか。遅すぎる」といった感じで今更質問する事などないようだ。


「それじゃ、最初に出会った日の事を教えてください!!」


「うん、いいよ。センパイとはね、高校の見学会で出会ったんだ」


私はそう言い、猿投クンが頼んでくれていたジュース(りんごジュース)を飲みながらセンパイと出会った日の事を思い出した。



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