137. 実戦のやりかた

「な、なぁ…最初って、花を摘んだりするんじゃなかったのかよ…」


 エルジュが怯えた声を後ろからかけてくる。


「まあ、俺らは特例らしいしな」

「なんでだよ!オレたち未経験者なのに…」

「エルジュ、諦めろ。そのために後ろでガルゼ氏たちがついてきてくれるんだから」


 俺たちから数メートルほど離れてついてくるのはガルゼ一行。

 彼らは「パーティ『魔科研エルヴォクロット』の護衛」という依頼を受けて行動している。

 そんな俺たちが受けた依頼は、アルスレーウサギの討伐。

 エルディラットと同じく、ここオーチェルンにおいても奴らは害獣らしい。

 一応まだ整備された道を歩いているのだが、森を覗くと木のあちこちに齧られた跡があり、ひどいものだとそれが原因で倒れてしまっているものすらある。


「あんなに力ある奴らだぞ!?オレたちも齧られて終わりだって…」

「安心しろ。アルスレーウサギが人間を齧った例は、魔物化したものを含めても存在しないそうだ」


 横から訂正を入れたのはイルク先輩だ。

 さすが、ちゃんと調べていたらしい。


「それでも、まあ心配なのはわかる。そこでだ、リーサ君とヒロキ君が先に手本を見せるというのはどうだろうか?」

「わかりました」


 俺たちは頷いて、獲物を探す。


「あっ、あそこ!ウサギの群れが木を齧ってる」

「えっ、どこ?」


 リーサが指差した先は森の中。


「…すまん、どこだ?オレも見えねえ」

「とりあえず行ってみるか。そいつら、もう逃げそうか?」

「ううん、まだ木を齧りはじめてそんなに経ってないっぽいから大丈夫だと思う」


 後ろをついてくるガルゼたちにも合図してから道を外れ、森の中を進む。

 整備された道とは違うからか、冒険初心者組は多少足を取られたりして大変そうだったが、なんとか着いてきていた。


「止まって。あれがアルスレーウサギ」

「すげえ、マジで木を齧ってやがる」

「それじゃヒロキ、わたしは逆側行くからよろしくね」

「おう」


 リーサはアルスレーウサギを中心に半円を描くように進み、俺たちの逆側に陣取った。


「んじゃ、行くぞ」


 俺は腰の銃を抜いて、構えた。

 そして、魔素を流す。

 火の玉が発射され、アルスレーウサギの手前で爆発した。

 ウサギたちはビクッと跳ね上がったあと、逆側――リーサのいる方へ一目散に駆けていく。

 さらに二発、奴らの左右に火の玉を撃ち込んで直進する以外の選択肢をなくす。

 そこにリーサは思い切り横薙ぎにした。

 鮮血が飛び散る。


「うぉっ」


 イルク先輩が思わず声を上げる。

 エルジュとマーリィ先輩は、ぽかんと口を開けて突っ立っていた。


「終わったよ!」

「おう、おつかれ」


 リーサはどういうわけかほとんど血しぶきを受けずに戻ってきた。

 ウサギの死体を見ると、的確に首筋が切られている。


「…すごいですわね。でも、さすがに初心者に見せる手本ではありませんわ」

「やっぱ…すごいんだ?オレあれできる気がしないけど」

「わたくしだってできる気がしませんわ…特にリーサは、あれだけ一度にウサギを斬ることができるのもおかしいですし、それでいて血を浴びていないこともおかしいですのよ」

「あはは、まあそこらへんは練習したからねえ」


 軽く笑ってみせるリーサに、俺たちは決して勝てないことを悟った。

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