131. 座学

「――そして、二つの時間単位が作られた。一つは1分を100秒、1時間を100分、1日を10時間とする十進数に基づいた時間単位、もう一つは1分を60秒、1時間を60分、1日を24時間とする十二進数に基づいた時間単位。結局、分数で扱う際の利便性などの理由で後者の時間単位が採用された」


 そこまで言い切ってから、講師は懐中時計をちらりと見やった。


「時間だな。今日はここまで」


 さっさと資料をまとめて、部屋を出ていく。

 俺たち6人の間に、弛緩した空気が流れた。


「難しいなー…」

「理解はできますけど、進行が早すぎますわ」


 エルジュとシルヴィがそろって愚痴を零した。


「騎士団の入団試験つったら剣とか魔法とかだろ。なんて時間単位の歴史的経緯なんか覚えなきゃいけないんだ…」

「俺たちは特殊だからなぁ。6人ワンセットで活動するんだったら文武どっちもいけなきゃいけないってことなんだろうな」


 ちなみに、イルク先輩とマーリィ先輩は、運動こそからっきしだが魔科研エルヴォクロットを立ち上げたり魔法陣の融合に挑戦したりするほどには頭が良いようで、それなりに難しい授業も苦にしていない様子だった。

 俺も、大魔法理論を書き上げるために散々勉強を積み重ねたので、勉強自体に抵抗感はない。

 リーサはリーサで頭がメチャクチャに良いので、何の問題もなさそうだった。

 多分、総合的に見て魔科研最強はリーサだろう。


「でも、わたしたちって本当に6人の集まりで活動するのかな?まだパーティも組んでないのに」

「そのパーティの件だが、伝言があるぞ」


 背後から声をかけてきたのはアルナシュ先生だ。

 授業が終わったのを確認して、部屋の後ろから入ってきたらしい。


「数日後、近くの街のギルドに登録しに行くそうだ。曰く、『冒険者としての活動も経験し、成長を積んでほしい』とのことだ。そもそも冒険者を経験していない赤魔法使いというのが稀らしい」

「そうなんすか?皆が皆冒険者をやるわけないと思ってたんすけど」

「エルジュの言うことも尤もだ。普通はそうだが、赤魔法使いは基本的に青魔法しか使えない人より強い。そうなると、大抵強さがそのまま金になりやすい冒険者という職に走るんだ。あのジュルペも例外ではない。…まぁ、大抵の赤魔法使いは騎士団の訓練と称して冒険者の職からは外されるんだけどな」

「なぜですか?」

「そんぐらい増長した性格破綻者が多いんだよ。冒険者として民間人に関わらせるより騎士団に閉じ込めておいたほうがいいってな」

「…赤魔法使いって、そんなヤバいんですか…?」


 俺はおそるおそる質問を投げかけた。


「騎士団関係者としていろいろ見てきたが…まあ、ヤバいのが多いな。周りからヨイショされまくってるから自分が強いという自信に溢れてるし、実際強いから厄介なんだ。騎士団では、無理に性格を矯正するよりも、その性格をうまいこと利用して働かせているらしいが。合理的だな」

「でも今って別に戦争起こってませんよね?何の仕事をやってるんですか?」

「まあ例えば、多くの冒険者には手に負えないような魔物への対処だとか、犯罪者の捕縛だとか。あとは南北和平のための交流戦とかだな」

「交流戦?」

「そう。戦争を起こさないための策の一つだな。ちなみにヒロキ、多分お前も出ることになるぞ」

「へぇ…は!?」


 一瞬聞き逃しそうになった俺は、間抜けな声を発しながら聞き返す羽目になった。

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