132. 交流戦

「知っての通りだが、我々北側の3カ国と南側の3カ国は仲が悪くてな。国交は樹立されてこそいるが、200年も前の南北戦争の結果を未だ互いにズルズルと引きずっている」


 呆れた調子で、アルナシュ先生は話しだした。

 言わば冷戦状態といったところか。地球では2020年代くらいからアメリカと中国がたっぷり100年以上もバチバチしていたはずだが、どうやらこちらはさらに長いことやっているらしい。


「今に至るまで第二次南北戦争が起きていないのは奇跡みたいなものだが、まあとにかく、それではまずいと思った人々がいたわけだ。そこで、交流戦――正しくは『南北友好記念和平交流戦』なんだが…とにかく、そういうイベントを行うことになった」

「名前長っ」


 エルジュがぼそっと独り言を漏らした。

 俺も同感だ。大陸共通語ではどうなっているのか知らないが、『友好記念和平』の部分の無理やり捩じ込んだ感がすごい。


「その交流戦では、全6カ国が互いに戦うんだ。始まったばかりの頃は南側代表と北側代表って形だったんだが、『戦争でないとはいえ南北が戦うという構図はマズい』という意見が出てな。建前上は全国家が対等に戦うということになっている」


 世界あれば、そこに歴史あり。

 たかだか300年かそこらでも、この世界はなかなか複雑な歴史を辿ってきたらしい。


「…ま、実際に出場する者はそこまで意識しておく必要もないがな」

「それで、俺はいろんな国の選手と戦わないといけなくなるんですか」

「そういうことだ。試合自体は他にも通常の陸上競技やら水泳やらといろいろあるが、君は魔法を使った戦闘が一番得意だろう?」

「得意というわけではないですが…まあ、それが一番できますけど」


 俺は理解した。

 これは要するに、この世界におけるオリンピックなのだ。


「とはいえ、それだったらリーサとかシルヴィの方が適任じゃないですか?」

「君が魔法も魔道具のアイデアも考案できることは知っている。他人が使う魔道具を考えて作るより、自分が自分でやりやすいように作る方がいいだろう?」

「そうは言いますけどね…例えばリーサみたいなのが相手だったとして、魔法をちょこまか避けつつ懐に潜り込まれたら、俺じゃ対処できないですよ」


 自分でも度々思っていた問題点。

 それは、近づかれると弱いということだ。

 俺は、魔法を何らかの方法で飛ばすのが得意だ。

 だが、その分近づかれた時の対処が難しい。

 冒険者をやっているときも、俺は必ず近接攻撃・防御が強いリーサと一緒に行動するようにしている。


「でも、わたくしと戦ったときには銃で威嚇したり魔法で弾き飛ばしたりと、いろいろやってくれたではないですの?」

「ありゃ、あそこまで力を温存していたからできたことだ。最初くらいはそれでも行けるかもしれないが、勝ち上がっていくとなると厳しい。国の代表として選ばれるような人が、俺みたいな素人をのうのうと勝ち上がらせてくれるとは思えない」

「ぬぐうっ」


 シルヴィが苦虫を噛み潰したような顔になった。


「…ヒロキ。言い忘れていたが、シルヴィは昨年度大会の魔法戦闘個人部門優勝者だぞ」

「えっ…」

「…負けた以上、文句は言いませんわよ…っ」

「えーと…申し訳ない…?」


 謙遜のしすぎは、身を滅ぼすらしい。

 それにしたって、あまりにも罠という感じだが…。


「…アルナシュ先生、そういう大事なことは早く言ってくださいよ」

「すまんすまん。次から気をつける」


 軽く笑みすら浮かべながら、先生はそう言った。


(…どうしてくれるんですか、この気まずさを…!)


 俺は内心で唸ることしかできなかった。

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