118. 水着

「お待たせしましたわ」


 シルヴィの声に、男三人衆はバッと振り向いた。


「お、おぉ…」


 エルジュの口から、感嘆の声が漏れ出した。

 確かに、そこには眼福としか言いようのない光景が広がっていた。

 女子三人プラス先生の合計四人が、ビキニを纏って立っている。

 シルヴィと先生は堂々と立っていて、マーリィ先輩とリーサはちょっと恥ずかしそうだ。

 似合っている。


「や、やっぱり恥ずかしー…」


 リーサの困ったような照れた笑顔が、心臓を高鳴らせる。

 少し目をそらしてしまった。


「ほれ男子組、もうちょいそっち行け。パラソルはそんな狭くないんだから」


 先生に言われるがままに、俺たちはずりずりと移動した。

 …というか、デカすぎてテントの一歩手前みたいなサイズだ。

 どうやって作ったんだこんなもの…


「し、失礼します」


 リーサがゆっくり腰を下ろして、俺の方へ来た。

 俺もイルク先輩とエルジュの後ろに位置をずらした。

 結果的に、パラソルの後ろの方で二人で寄り添うみたいな形になった。


「んじゃ、海で遊ぶときの注意をするからよく聞いとけ。まず…」


 話が始まるが、正直まともに耳に入らない。

 すぐ隣に、水着のリーサがいるのだ。仕方ないと思いたい。

 現代日本人なので海での注意点をだいたい知っているということが救いだった。


「…ってわけで、行ってこい!」

「よっしゃあ!」


 エルジュが飛び出して、イルク先輩はゆっくりと立ち上がって歩いていった。マーリィ先輩もそれに着いていき、先生も監視のためか海の方へ行ってしまった。

 残っているのは俺とリーサ、そしてシルヴィだ。


「行かないのか?」

「そうがっつくものでもありませんわ。そう言うお二人はどうなんですの?」

「わたしは、ちょっと恥ずかしくて…シルヴィはすごいね、堂々としてて」

「…女性のパーティードレスは、結構露出があるんですの。視線も慣れっこですわ」


 確かに、シルヴィは…有り体に言ってしまえば、巨乳である。

 視線をもらうことも多々あるだろう。


「見ましたわね?」

「見てない」

「いいえ、見ていましたわ」

「…悪かったよ、話の中身のせいで目が向いた」

「よろしい」


 そう言うと、シルヴィは先生が持ってきたカゴの中から瓶を取り出して、中身を呷った。

 そしてスッと立ち上がる。


「二人も、せっかく海に来たんだから楽しまないと損ですわよ」

「まぁ、追々行くよ」


 俺が適当な返事を返すと、シルヴィは一応納得したといった様子で去っていった。

 あとには俺とリーサだけが残される。


「…行かないのか?」

「さすがに、ちょっと暑すぎるから、もうちょっと慣れてから…と思って」

「俺も、だいたい同じだ」


 そんな言葉でお茶を濁しつつ、次の言葉を探す。

 だが、先に口を開いたのはリーサの方だった。


「ねぇ、あのさ」

「ん?」

「…その、わたしの水着、似合ってる?初めてだから、よくわからなくて」

「…じろじろ見てよければ」


 少し下心を含ませたことは否定できない。

 リーサは少々逡巡してから、脚を伸ばして腕を後ろについた。


「これで見える…よね」


 それを許可と捉えて、俺はリーサの体に視線を滑らせた。

 ほっそりした、冒険者業というゴツい仕事をしているとは思えないような綺麗な脚。

 引き締まった腹。

 そして、全体的に程よくついた筋肉。

 正直、女性の理想ってこんな感じなんじゃないだろうか。

 あんな生活をしているのにこんな健康な身体になるのは正直わからないけども。


「えっと…どうかな」

「――っ」


 ヤバい。

 身体に見惚れていたなんてさすがに言えない。


「すごく、似合ってると思う」


 口から言葉をなんとか絞り出した。

 実際、彼女の白いチューブトップはよく似合っていると思う。


「恥ずかしかったから、一番面積の大きそうなものを選んだんだけど…やっぱり、お腹とかは全部出ちゃうし…脚も…」

「ちゃんとしてるから大丈夫だと思うよ、その…身体も引き締まってるし、変じゃないから」

「み、見るのは水着との相性だけでいいの!」


 そんな無茶な、と一瞬思ったものの、リーサもそれは思っていたらしく、「いや無理か…」とノリツッコミみたいなことをしていた。


「…っ、ヒロキも!」

「えっ」

「ヒロキも、水着似合ってるから!身体も引き締まってるし」


 全く同じセリフを返されたが、これは確かに恥ずかしい。

 顔が熱くなるのを感じながら、自分の体を見下ろすと、確かに腹の肉が若干減っている。

 数ヶ月の異世界生活を通して、割とマジで痩せて筋肉がついたらしい。


「…本当に引き締まってるな」

「それ、自分で言う…?」

「いや、まぁ…向こうの世界に居たときなんて、お世辞にも健康とは言えない生活してたからなぁ…一日中座りっぱなしでパソコン…本のすごい版みたいな奴にずっとかじりついてたから。座りっぱなしだと寿命が縮むって、いろんな科学者が言ってたのにそれだから」


 やっぱり、俺は座り過ぎで死んで転生したのかもしれないな、と改めて思う。


「そっか…うん、座りっぱなしは良くないね!海行こう!」


 リーサは少々強引に、微妙になった空気を払った。

 せっかくなので俺もそれに便乗して、リーサと一緒に海へと繰り出すことにした。

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