117. 海辺

 海岸線には、ひたすらに長く白い砂浜が横たわり、太陽の光をこれでもかというほど反射していた。

 泳いでいる人もちらほらと見受けられる。人が少ないことを除けば、海岸の光景は現代日本とよく似ていた。

 懐かしさと眩しさに目を細める。サングラスが欲しい。

 さて、女性陣は別の方に目線が行っていた。


「…布、少なくない?」

「工事現場で男が上半身裸になってるのくらい見たことあるでしょ?」

「いや男はそうかもしれないけど!アレ下着じゃん!」


 リーサが浜辺の人々を指しながら、顔を真っ赤にして言った。


「言ったろ、そうだって。それに大丈夫だ、すぐ慣れるぞ」

「あ、あれに、慣れ…?」


 アルナシュ先生の言葉に、リーサは怪訝な顔をしていた。



「到着だ。長旅お疲れ様」


 先生のその言葉と同時に、馬車が止まった。

 降りてみると、唯一陽の光を遮っていた屋根さえも消え去り、俺たちは直射日光に晒された。


「まぶしっ」


 マーリィ先輩がサッと手で庇を作って目を細めた。


「ほらほら、海もいいけど泊まるところも見ておけよ。こっちだ、着いてこい」


 先生に言われて、俺たちは建物の方へと歩いてきた。

 砂浜から少しだけ離れたところに建つ、木造の建物。

 古い旅館のようにも見える。


「ちょっと古いが、中は綺麗だぞ」

「本当ですね」


 部屋の中も、きちんと手入れが行き届いている感じだった。

 泊めてもらっている手前言うのもなんだが…マルティルート・ヴェラードと比べるのは、酷だ。


「うちとはぜんぜん違うね」

「…言いやがった」


 配慮が無駄になってしまった。



 運び込んだ荷物を整頓して、滞在の準備をする。

 男子組の部屋の中がいい感じに整ってきたところで、扉をノックする音が響いた。


「海に出ないか?せっかく時間もあることだし」

「先生、到着してまだ数分ですよ…少しくらい休ませてくださいよ」

「そう言うなって。女子の水着姿が見れるぞ?」


 俺の文句に、先生とは思えない台詞と悪戯好きそうな表情で返してくる。


「じゃあ先生も水着っスか?」

「…そういうことは言うもんじゃないよ」


 おもいっきりブーメランが突き刺さっていた。



 まさかの水着支給という太っ腹な事情もあり、俺たちは海に出ることを決めた。

 驚くことに、素材こそ若干安っぽいものの、縫製はしっかりしており、水もちゃんとはじかれるようになっている。


「すごいな、この素材。どんな魔法を使っているんだ」


 イルク先輩が、水着をまじまじと見つめながら呟く。

 ここでの魔法は無論超常的な何かではなく、単純な科学技術の話である。

 ちなみに触ってみた感じでは、縫製工程はともかくこの水着そのものには魔法は使われていない。魔法陣もないし。

 純粋にちゃんとした素材でできているのだろう。


「はやく着替えないと時間なくなっちゃいますよ」

「それもそうだな。行くか」


 男三人衆は、更衣室の扉を開けて外へと出た。


「うわっ、あっちち!」

「クソッ、履物でも持ってくるんだった!」

「お前らー、向こうにパラソルとシート用意してあるからそこに座ってろ!飲み物とか色々持ってくから」

「先生、ありがとうございます――」


 俺たちは声のした方に振り返って――三人とも動きを止めた。

 アルナシュ先生が水着を着て立っていたからだ。

 二十何歳という年齢を自称する割には幼く見えるその体に、髪色と同じ濃い青のビキニを付けている。


「ん?どうしたジロジロ見て…って、他人をあんま凝視するもんじゃないぞ。嫌われるぞ」

「はーい」


 俺は適当に返事をしてまた歩きはじめた。

 二人もついてはきたが、心なしか動きがぎこちなかった。

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