116. 街の中へ

 列に近づいていくと、降りて談笑していた人たちが一斉にこちらを向いた。


「おや、王立騎士団の方々だ」

「こっちの馬車には子供も乗っていますな。…ということは、もしかして赤魔法使いの魔族の訓練ですかな?」

「まあ、そんなところだ」

「「おお!」」


 アルナシュ先生が答えると、周囲からは歓声が上がった。


「こりゃありがたい!しかもこんなにいるなんて!」

「ああ、この国の未来も明るいな!」

「そいつぁいいぜ!南蛮シェーゴ共をブッ倒して俺のオヤジの仇を…」

「あーあ、まーた始まったよ」

「ほら、落ち着けフェルク。仮にも将来国を預かる方々の前で恥ずかしいぞ」

「…悪かったよ」


 フェルクと呼ばれた男は、視線を逸らして頭を掻きながら小さく吐き捨て、馬車の中へと戻っていった。


「悪いな。アイツ、親父をシェードゴールズの奴に殺されてるんだわ。それ以来ああいう感じになっちまって…気を悪くしないでくれよ、青髪の嬢ちゃん」

「…嬢ちゃんって、一応私は教鞭を取る立場なんだがな」

「マ、マジか!そりゃ重ね重ね失礼!」


 気の良さそうな男は慌ててペコペコと頭を下げた。


「それにしても、なんで私なんだ?」

「ん?だって、嬢…じゃなかった、アンタは南の出身だろ?これでも商人としてあちこち回ってるんだ、顔立ちを見りゃなんとなくは分かるぜ」

「あー…申し訳ない、私は孤児でね。生まれは知らないが育ちはコースヴァイトだよ。ルーツが南にあるのかもしれないけどな」

「…もしかして、また俺失礼を重ねちゃった?どうしよう、返済しきれねえよこいつは…」


 妙に深刻そうな表情をして頭を抱える彼の姿に、俺たちは思わず頬を緩めた。



「それじゃあな!またいずれ会おう!」


 入境審査で彼らとは別れ、オーチェルン市に入る。


「意外と賑わってるね」

「入り口近くは商人たちがいるからな。中央の方に行ったらもう少し空いてるはずだ。特に、今は観光客が減少しているからな」

「世知辛いですね」


 世間話をしつつ、馬車は順調に進んでいく。

 整備された大きめの道は、地球で言うところの高速道路みたいなものだろう。


「今日は順調ですわね。この調子なら、もう少しすれば到着しますわね」

「これも道が空いてるお陰だな。皮肉だが」


 普段の様子を知る先生とシルヴィがそんな話をする。

 ここまで普段と違うと言われると、だんだんその普段の様子とやらが気になってくる。

 まあ、この世界にいればいずれは見られるかもしれない。

 そんなことを考えていると、不意に先生が手で庇を作って遠くを眺めた。


「おっ、見えてきたぞ。海岸線だ」


 その言葉に、皆が一斉に馬車の前の方に集まる。


「どれっスか!?」

「海、見たい」

「わたしも気になる!」

「こらこら、落ち着け。ここの坂を上りきったらもっと景色も良くなるだろ」


 言っている間に、坂は上りから下りに転じた。

 道で遮られていた視界が、一気に開ける。


「…わぁ…!」


 リーサがそう零した以外に、言葉を発するものはいなかった。

 雲ひとつない青空のもとに、どこまで続いているかもわからない海岸線と水平線が広がっている。


「すごいな。これだけ天気が良いなんて、運が良い」

「そうなんですか?」

「海に近いせいか、このあたりは雨が振りがちらしいからな。まあ、本格的に降る時期はもう過ぎたか…さぁ、もう少しで海岸線に出るぞ」


 少しでも早く着こうと思ってくれたのか、ホゥミィちゃんが速度をわずかに上げた。

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