113. 出発
「ふぁ…ねむ…」
「遅刻したら怒られるよ、さすがに」
「そりゃ分かってるけどさ」
必要なものはだいたい向こうで用意してもらえるとはいえ、『自分の得物は持っていってもいい』と言われると、何か新しいものを持って行きたくなる。
その結果、俺は昨日延々と武器屋をまわり、結局無難そうな腕につけるタイプの盾を一帖買って持っていくことにしたのだが、エルディラットを一日中歩き回った疲れは一度の睡眠では取れなかった。
「馬車の中で眠れるかな…」
「いくら揺れないからって、そんなに快適じゃないと思うけどね」
リーサは苦笑した。
「ていうか、その銃でいいんじゃないの?」
「これ?まあ、それも考えたけどな」
リーサが、俺がいつも腰から下げている銃型魔道具を指した。
確かに、こいつはいつの間にか俺のいつもの武器というポジションに収まっている。
「でも、防御する手段がないんだよな、今の俺…だからとりあえず盾があったらいいかなーって」
「なるほどねぇ。でもこれ最初は結構疲れるよ」
リーサが自分の使い込まれた盾をひょいと持ち上げた。
彼女が持っている分には特にそうは見えないのだが、実際のところ腕につけてみると結構重かった。
時代が進んでもこれが現役だったらカーボン繊維とかジュラルミン合金とかで作るんだろうが、生憎これは鉄と木でできている。
「まぁ、そのへんも指導してもらえるだろうと信じるよ。んじゃ、行きますか」
「そうだね」
俺たちはマルティルート・ヴェラードを出て、馬車の待つ学校へと向かった。
「来たか」
馬車の御者台に乗っているのはアルナシュ先生だ。
「今日は私が御者を務める。よろしく」
「あれ、ホゥミィちゃんが行ってくれるんじゃないんですか?」
「コイツにとっても今から行く場所は初めてのところだぞ?それに、今回はかなりスピードを出すからな。さすがに人間がついてやらないと危ない」
説明を挟んで、先生は荷物の積み方をてきぱきと指示していく。
俺たちはそれに従って、荷物用馬車へと箱を積み上げていった。
「おう、もう結構準備できてんな」
「ガルゼ、おはよう」
ガルゼにビスティー、アンセヴァスにピーゼンが揃ってやってきた。
「そっちの荷物もこっちの荷物用馬車に積んでくれ」
「了解」
ガルゼたちもてきぱきと荷物を積んでいく。
「手際が良いな」
「一応、そこそこ冒険者をやってるんでね。こういう作業は慣れっこなのさ」
アンセヴァスが得意気に言った直後には、すべての荷物が積まれていた。
「馬車の護衛のついでに積荷を上げ下ろしするのはよくあることだ、お前らも慣れとけ」
「わかった、練習しとくよ」
俺はそう返事して、馬車の床に腰を落ち着けた。
「では、全隊の準備が整ったため出発する!我々の馬車に続け!」
ガルゼ一行と騎士団の人が乗った馬車に続いて荷物用馬車が走り出し、そして俺たちの乗った馬車が動き出した。
揺れはあるが、やっぱりちゃんと抑えられている。
「実質耐久テストだな。1週間連続で使ってボロが出なければ上等だが、これはどこまでいけるかな」
「そんなすぐ壊れるような設計はしてませんよ」
楽しそうな先生の言葉に、イルク先輩が自信満々に答えた。
その光景を見てから、俺は壁にもたれかかって目を閉じた。
すると、さっきまでの睡魔が再び俺の中に蘇ってきて、俺はそれに体を任せることとした。
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