112. ミーティング

「このパーティのかしらを務めているガルゼ・タングレーだ。よろしく」

「『魔法と科学の融合思想研究室』、魔科研エルヴォクロット室長のイルク・ハウジリッドです。よろしくお願いします」


 顔合わせとスケジュールの確認は魔科研の研究室で行われた。


「私達が行くのは、エルディラットの隣の都市、オーチェルンだ」


 壁に貼られた地図を指しながら、アルナシュ先生が説明する。


「オーチェルンの主な産業は観光。まあもちろんそれだけじゃないが、収入の多くは外から来る貴族とかが落とすお金だ」


 この時代、この世界観で観光産業が成り立つというのはすごいことだ。


「特に、海。ここにはこの世界でも珍しい海水浴場がある。訓練はあるが、ここで遊ぶ時間も取れる」


 誰も特に声に出したりはしないが、そわそわとした雰囲気を感じる。

 実際俺も結構テンションが上がっていた。


「ちなみに、海水浴の際には水着という専用の服を着る。濡れても大丈夫なように加工してあるが、その分値段も高いから下着ほどの面積くらいしかない。異性の前では少し抵抗があるだろうが、まあすぐ慣れる」


 …というかこれ、アルナシュ先生もテンションが上がってだんだん海水浴イントロダクションになってないか?


「…話を戻そう。オーチェルンは文化やルールがだいぶエルディラットと違う。そもそもエルディラットがかなり特殊なのだがな…一番大きいのは」


 先生は人差し指をぴんと立てた。


「オーチェルンは国内でも広く信仰されている宗教、『グロシーザ教』の本拠地だ。外側は観光地だが、内側に行くにつれ宗教施設が増える。信者も増える。つまり何が言いたいかというと…現地の宗教に対するリスペクトを忘れるな、ということだ。宗教が禁じられているエルディラットだと、意識する機会はなかなかないだろうからな」


 禁止されているとはいえ、ある程度歴史を勉強する中でグロシーザ教の名前は目にする。

 そのあたりは理解しているし、ガルゼたちはそもそもエルディラットの外の出だ。問題はないだろう。


「ま、他にも色々とあるが…宗教と、あとは貴族を軽んじたりしないことだな。ここでの貴族との接し方は普通ではないからな。…マジで気をつけろよ?そもそも貴族と接するかどうか自体わからないけど。他にわからないことがあったら、各自調べるか質問するかしてほしい」


 オーチェルンの説明を終え、先生は手元の資料をめくった。


「よし、スケジュールのチェックだ。出発は7月28日、五曜日。三日かけてオーチェルンの北東まで移動して、訓練は翌日からスタートする。期間は8月15日、七曜日までだ」

「まるっと夏休み半分ですか…」

「これでも短縮されたほうだぞ?私が可能な限りスケジュールを切り詰めさせたんだ、お前らの夏休みのために」

「ありがとうございます」


 俺たちは素直に頭を下げた。


「よし、あと質問は…ないな?解散だ。必要なモノはだいたい騎士団側が用意してくれる、こっちは自分の得物を持っていけばいい。良いな?」

「「はい」」


 皆が了承の意を示し、ミーティングはお開きとなった。

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