105. 悪即斬 #2
騎士団から俺たちに課せられた課題は、拠点内にいる奴らの制圧だった。
いくら敵の数が3人とはいえ子供に任せるのは無茶が過ぎるのではないかとも思ったが、よく考えれば俺は新入生対抗戦で優勝候補だったシルヴィを抑えて優勝してしまったし、リーサは『赤い剣姫』の名を捨ててなお、かなり有力な冒険者としてガルゼ一行とともに知られつつある。
つまり、俺たちは下手な騎士団員より強いと認識されているようだし、実際そうなのだろう。
「着いたね…ここが裏口」
「向こうで部下が音を立てて動く。こちらで音を立てなければ、慌てて出てきてくれるだろうよ」
騎士団にいくつかあるらしい部隊の一つ――おそらくSATとかSWATみたいな機動部隊だろう――の隊長が一人だけ、俺たちについてきていた。
そこそこ年を食っているように見えるし実際髭を蓄えているが、音を立てないよう配慮した軽装備の下にはかなりがっしりとした体があるように見える。
俺とリーサは棒や盾だったり銃だったりを持ってきてはいるが、冒険者として依頼をこなすうちに音を立てずに動くことができるようになっていた。
もっとも、リーサは前からできたみたいだけど。
「相手が魔法を使うようだったら俺が、物理的に来そうだったらリーサが棒でぶん殴る。それでいいんだよな?」
「うん、合ってる。間違ってアリスたちを斬りたくないしね」
殴るくらいなら脳震盪で済むから、なんて現実的な考えが脳裏を走ったところで、そもそも二人に被害が及ばぬように気をつけねばと気を引き締め直す。
「…そろそろだな。私は基本的には見ているだけだ、危ないと思ったら手を出すが可能な限り二人で制圧してみせろ」
これはきっと、騎士団の入団試験というか訓練というか、そういうものを兼ねているのだろう。
…一応、マジモンの誘拐事件なんだけどな。上層部はそんなに危険視してないってことなんだろうか。ダメだ、上の考えることなんて会社員時代から何もわからん。
というか、成り行きで騎士団に入らされるのでは、これ。
(ま、それくらいで二人を助けられるなら、安いもんか)
思索していると、建物の向こうから金属の擦れる音がする。
着込んだ鎧がガチャガチャと、存在を知らせている。
そして、中で何やら騒ぎ声がして…
ドアが、乱暴に開けられた。
「はやく逃げっ…え?」
すかさずリーサが手に持った棒…魔科研隣の廃材置き場にあった鉄パイプを振りかぶり、男の横っ面をぶん殴った。
カァンと、空洞のある金属に特有の音が響き渡ると同時に、男がばったり倒れた。
よくて脳震盪ってところだろうか。
「コイツは私が処理しておこう。中へ行け」
包帯をどこからともなく取り出した隊長がヤツの頭に包帯を巻き、ついでに縛り上げた。
「…こんな策に、簡単に引っかからないでよ」
「マジでうまくいきやがった…」
俺たちは独り言を呟きながら中に入る。
縛られたアリスたちと、男が二人。
「…っ、この野郎!!」
その声の主は、
そうだ、赤魔法使いがいるんだった!
何が飛んでくるのか、避けられるか。
思考が走り、体がフリーズしたその瞬間、襟元をグイと引かれ、後ろに倒れ込む。
俺たちの上を、いくつかの氷の欠片が飛んでいった。
「ぼさっとしない!」
「悪い!」
リーサの対応がなければ、俺は氷の銃弾に穿たれていただろう。
油断は禁物だ、と思いながら俺は手に持っていた銃を男に向け、指先から魔子を放出した。
銃口のプレートから魔法陣が飛び出し、男に当たる。
新入生対抗戦以来の、魔法無効化銃(仮)だ。当然、魔法唱板も無効化される。
男の動揺を見逃さず、すかさずリーサが飛び出して棒を振り上げる。
「んぐぉっ!!」
顎を下からぶっ叩かれて、男は魔法唱板をばら撒きながら地に倒れ伏した。
…何枚持ってたんだコイツ。
一瞬割り込んだ思考を捨て去り、俺とリーサは同時に己の得物を残る一人に向ける。
「動くな!!」
奴が持っていたのは、短剣。
アリスの首に当てられたそれが、鈍い金属光沢を放っている。
「武器を捨てろ。そうすりゃこの二人は無事に返してやるよ」
「保証がないな。そっちが先に捨てるべきだろ」
「ならば、俺たち3人が街の外まで安全に移動できることは保証するんだな」
想像していたより要求のレベルが低いな…
それだけ自分たちの無事が大事なんだろうか。まあ、普通はそうか。
俺はパッと手を開いた。銃型魔道具が床にゴトリと音を立てて落ちる。
同時に、俺の指先から赤いレーザー光線のようなものが発射され、男を貫く。
「うっ…ぇ…」
妙なうめき声をあげて、男は倒れた。
制圧完了だ。やはり、体内魔素乱しは人間相手には効果覿面らしい。
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