104. 悪即斬
朝起きたら、顔を洗って、体を流して、飯を食う。
朝のルーティーンをこなし、部屋に戻ったら俺の武器である銃型魔道具のメンテナンスを行う。
この週末、俺とリーサは勝手に落ち込んで勝手に反省し、勝手に準備を進めた。
エーシェンさん曰く、騎士団に俺とリーサがついていく許可は取れたらしい。
むしろ戦闘力が増えると歓迎されたと聞いたときは驚いたが。
そういえば、いずれ俺たちは騎士団にスカウトされる、なんてアルナシュ先生が言っていたような気がする。
その時期が早まるだけか。
…まぁ、何でもいいか。
今日、7月12日は二曜日。地球で言えば月曜日にあたる日だ。
本来ならば学校があったのだが、例の爆破予告のせいで17日までは休校期間となっている。
今のところ、アリスとサンがエルディラットから運び出された形跡はない。
端から端まで素早く丁寧に調べ上げているから、もうすぐ見つかるはずだという。
なんなら今日にでも――
「失礼する!ヒロキ・アモン及びリーサ・マルティルートはいるか!」
――どうやら、お呼び出しのようだ。
失敗した分を、取り戻しに行こう。
「クソがっ、話が違うじゃねえか!!」
男が部屋の壁を乱暴に叩く。
あたしとサンの体は、勝手にびくりと跳ねてしまう。
猿轡を噛まされていて、満足に声を上げることもできない。外されるのは一日三回、食事のときだけ。
腕も後ろ手に縛られたままだ。
「隊長、落ち着いてくださ」
「落ち着いていられるか!!俺らは裏切られたんだぞ!!覚えてねえのか、こいつらを攫って、エルヴェスタに売り払う手筈だったのが、すぐそこまで騎士団が迫ってる!!それになんだ、リーサ・マルティルートとかいうのもかなり実力のある冒険者じゃねえか!迂闊に手を出してりゃ…あぁ、ああ、畜生!!」
怒鳴り声を上げながら発狂したかのように振る舞う、この隊長と呼ばれている男は、あたしたちを攫った3人の中ではまだ冷静な人間だった。
『奴隷としての商品価値が下がる』と、あたしたちに手を出そうとした仲間を咎めるようなヤツだった。
男は一通り暴れたあと、唐突に動きを止めた。
「もういいか」
先程までとは打って変わって、ゾッとするほどの冷たい目をした男は、ゆっくりとこちらににじり寄ってきた。
「犯そう。どうせ奴隷なんて嘘なんだ」
「うぅっ…!」
自分の身をよじって、せめてもの抵抗を表す。
それがどれだけ無駄なことかは、心の奥ではわかっていた。
奴らはあたしたちの服に手をかけ、乱暴に脱がせようとする。
「おら、とっととケツ貸せや――っと?」
玄関の方から、ドタドタガチャガチャと音がする。
「――騎士団、もう来たのか…ッ!?」
「嘘だろ…早すぎる!!たった数日で見つけられるような場所じゃないはずだ!!」
連れ去られるときに目を隠されていたあたしたちにはわからないが、多分相当に入り組んだ路地裏のどこかの建物の中なのだろう。
「そ、そうだ、裏口!あっちからは音がしないから、今のうちに…っ」
男の言葉に、仲間の一人が突然駆け出した。
「待て、そんなに音を立てたら!」
注意も虚しく、ドガッ!と乱暴にドアを開ける音。
同時に、ガァンと鉄が響くような音がした。
「…こんな策に、簡単に引っかからないでよ」
「マジでうまくいきやがった…」
数日ぶりの、リーサとヒロキの声だった。
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