103. 彼女たちは何処へ

 心当たりのある場所を駆けずり回る。

 魔科研の方には来てないか?

 高級住宅街の方は?

 ギルド、市役所は?

 …いない。どこにも、いない。


「こっちもいなかったよ」


 別所を探していたエーシェンさんが言う。

 これだけ人を巻き込んでも、彼女たちは見つからない。


 ――行方不明。そう結論づけるしかなかった。


「すみませんでした。俺が目を離してしまったがために起きたことです」

「休ませようとしてくれたことだろう、君を責められはしないよ」


 アリスとサンの両親は庇ってはくれたが、一番辛いのは彼らだろう。

 申し訳無さで胸がいっぱいになった。


「一応、事件と事故の両方の可能性を探っているが…奴らの仕業だろうな」


 エーシェンさんは断定しない言葉を選んだものの…言葉の調子は、実質断定しているようなものだった。


「先日から捜索は続けているから、そう遠くないうちに見つかる。エルディラットの出入り口における馬車の検査も、普段の何倍も厳しくしている。もし連れ出すつもりがなければ、きっと誘拐したという声明が出るだろうしね」


 過剰な後悔は不要だ、という言外の意味を含ませたその言葉。

 しかし…俺は。


「もし、無事に見つかったら…制圧するんですよね」

「そうだね」

「…そのときは、俺も参加させてくれませんか」

「なるほど。交渉しておくよ」

「すみません。ありがとうございます」


 リーサが、俺を見つめていた…ような気がした。



 控えめなノックの音とともに、ドアが開いた。

 リーサがそっと入ってきて、机の魔法陣に手を置く。

 魔法陣に魔素を流せば、中央のロウソクに光が灯る。

 部屋がぼんやりとオレンジに照らされ、ベッドに座っている俺の影が揺らいでいるのが見えた。


「…明かり、つけなよ。夜ご飯は?ちゃんと水浴びた?」

「そんな母親みたいなこと言われたの、久々だな…お察しの通り、どっちもまだだよ」

「そう」


 ゆっくりと、音を立てないように、リーサは俺の隣に腰掛けた。


「…わたしもね、後悔してるんだ」

「リーサが?」

「あのとき、アリスたちと一緒に残ってればよかったなって。興味があるからって行かなければよかったなって。…狙われてる立場なのに、油断しすぎたなって」


 リーサがシーツを握るその手に、わずかに力を込めた。


「だから…一人だけで後悔しないで。一人だけで抱え込まないで。…少しは、楽になるでしょ」

「傷の舐め合いだな」


 つい漏らしてしまった慣用句が伝わるかどうか少し気になったが、どうやら通じたらしい。

 リーサが自嘲気味に微笑んだ。


「だが…そうだな。大人っていうかエーシェンさんには頼ってばっかだけど…無理言ってでも、けじめは俺の手でつけさせてもらうよ」

「『俺たち』だよ。わたしもやるから」

「そうだな。…また、エーシェンさんに無理を言うことになるな」


 全くもって、よくある異世界モノのようにスマートには解決できない。

 力はあるのに、結局他人に頼ってばかりだ。

 それでも、自らの抱えた罪を滅ぼすくらいはしてもいいだろう。


「飯も水浴びも明日の朝でいい。今日はもう寝てしまおう」

「うん。おやすみ」


 部屋からリーサが立ち去ったところで、俺はロウソクを吹き消した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る