100. 初心者冒険者

『じゃあ、しばらくさよならだね。またいつか会おう』


 昨日、そんなエモーショナルな別れを告げたサンと、俺たちはギルドで再会していた。


「…まさか即再会とは…」

「今会わなくても、どうせまた報告会で会うだろうに…というか、今日はなんで来てるんだ」

「ギルドへの冒険者登録だって。ほら」


 サンが指した先には、アリスの姿があった。

 アリスはこちらに気づいて、ひらひらと手を振った。


「てっきり、君たちは例の魔科研エルヴォクロットだっけ?そこにいると思ってたよ」

「別に毎日行くわけじゃないんだ。お金も稼がないといけないしね」


 隣のリーサが答えた。


「というかサン、ギルドへの登録は初等学校の卒業年齢に達しないとダメだぞ」

「知ってるよ。でも僕13歳だからセーフセーフ。ほら、昨日誕生日だったし」

「そうだったの!?」

「真に受けなくていいぞ、リーサ…どうせアレだろ、戸籍を作ったんだろ」

「ちぇー、御名答。そうだよ、今日から正式にサン・プラシュテークだ。計算上は大陸暦290年7月9日生まれってことになるらしいよ」

「そうだねー」


 いつの間にかこちらに歩いてきたアリスが話に入った。


「はいこれ身分証。なくさないようにねー」

「ありがとー、お姉ちゃん!」

「うっ」


 またもや謎のダメージを受けているアリスをよそに、俺は話を続ける。


「今日来てるってことは、何か依頼を受けてみるつもりなのか?」

「うん。何かオススメある?」

「オススメ聞きたい!せっかくだからあたしもギルドに登録したんだー」


 アリスは身分証を取り出して言う。

 確かに、普通の身分証よりも項目が多いギルド登録者仕様になっている。


「体力に自信は?」

「ある!」

「剣とかなんか武器は持ってる?」

「…ない」


 俺とリーサは顔を見合わせた。



「いやー、懐かしいなコレ」


 ガルゼがシカをぶっ飛ばしながら言う。

 狩りを進める俺たちの横で、アリスとサンは紫色の花を摘んでいた。


「こうやって守りながら狩りをする感覚、久々だな」

「守る側になるとこんな感じなんだな」


 俺はクマの顔面に火球を撃ちつつ呟いた。


「ところで、アリスもサンもシェロイ集めは順調か?」

「「順調なわけないでしょ!!」」


 二人して全く同じタイミングで全く同じツッコミをかましてきた。こいつら姉妹みたいだな。いや姉妹ではあるんだけども。


「あのね、いつこっちにクマやらシカやらウサギやらが突進してくるかわからない状況で平然とお花摘みできるわけないんだよ?」

「大丈夫だって、俺たちが全部ブッ倒すから」

「わかっていても不安なものだよ…」


 アリスとサンは揃ってため息をついた。


「ヒロキー、またクマ来たよ!」

「了解、すぐ行く!んじゃ、頑張って続けてな」

「え、ちょ!えぇ…」


 アリスがこちらに手を伸ばしかけて、諦めてその手を地面に向けた。

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