99. 作戦結果
「さて、次は例の作戦についての説明をしましょうか」
崩れ落ちたアリスを尻目に、エーシェンさんは資料の紙束をめくりながら次の話題へと話を進めた。
皆の視線が彼に集まる。
「最初に申し上げておきますと、良い知らせと悪い知らせがあります。まず、良い知らせ…賊の拠点の襲撃についてですが、成功です。構成員12名を捕らえました。おそらく他に構成員はいないと思われます」
部屋にいた人たちから、おぉ、と歓声が上がった。
「悪い知らせの方ですが…この組織が一番上ではありませんでした。催眠術を併用した取り調べの結果、もう一つ上に組織があることが判明しました。そして、その組織はどうやらエルディラット内に拠点を構えているようです」
「組織がもう一つ…」
「首謀者が捕まらないよう、組織を三層構造にした上で、構成員に催眠をかけて徹底的に隠蔽していたということのようです」
「なんだそりゃ…手が込みすぎだろ…」
俺はぼやいた。
「例の強盗事件で盗まれた品はほとんど戻ってきませんでした。日用品はほとんど消費されたと見られていますが、一部…
「つまり敵はわたくしたちの武器を持っている、というわけですのね」
「残念ながら。…しかも、赤魔法使いもいるという話です」
「それで、奴らはエルディラット内のどこにいるんですか?」
「不明です。現在探してはいるのですが…」
さっきとは打って変わって、部屋の雰囲気は沈んでいた。
「爆破予告自体は今回捕らえた組織によるものだそうですが、上にさらに組織がいる以上爆破の危険がなくなったとは言えません。技術発表会はこのまま中止でしょうね」
なにか言おうとしてみるものの、何も言葉が出ない。
捕まえたと思ったらさらに上がいたというぬか喜びをさせられて、みんな気落ちしている。
そんな状況を変えようとしてか、エーシェンさんは明るい声を出した。
「そこまで悲観することではありません。さすがに組織がさらに多層構造を取っているとは考えづらい。さらに、エルディラット内にいることまでは判明していますから、この事件ももうすぐ終わるはずです」
「そうですね…今は吉報を待ちましょう」
アリスの母親がそう言ったことで、なんとなく一段落した空気が出来上がった。
また進展があったら招集します、とエーシェンさんは解散を宣言した。
例によって、帰り道は途中までアリスと同じである。
だが、今日はアリスの家族に加え、亜紀改めサンもいる。
俺とサンは、前を歩く一行から少し後ろを着いていく形で歩いていった。
「良い知らせと悪い知らせって、人生で一回は言ってみたいセリフだよね」
「そんなこと言ってる場合じゃないけどな…」
呑気なサンのセリフに、俺は若干呆れを返した。
「しかし、『良いニュースと悪いニュース』じゃないんだね。全部日本語に訳されてた。翻訳スキルとやらは英語が嫌いなのかな」
「じゃあギルドとかパーティーはどうなんだ?パーティー、こっちの言葉だと"
「それはほら、日本語に訳しづらいからじゃない?」
「…まぁ、一理あるか」
ギルドというシステムは、地球ではドイツあたりにあったシステムだ。
職業別組合なんて日本語を当てると冗長になってしまうし、そもそもギルドという言葉が日本語に浸透している以上ギルドと言ったほうが簡潔で良い。
パーティーも同じだ。
翻訳スキルは基本的に日本語を好み、自然な場合のみ外来語を採用するのだろうか。
「でも、やっぱりあそこは『ニュース』のほうがしっくり来るなぁ」
「翻訳スキル作った人に言ってくれ」
「あれ?ヒロキ君が作ったんじゃないの?」
「俺が作ったのは魔法理論だけ。言語は専門外だよ」
「魔法で翻訳とかできないの?」
「物理現象でしかない魔法に期待しすぎ。魔法ってそんなすごいもんじゃないよ」
「それは君の作った魔法に夢がないだけじゃない?」
「物事って結局突き詰めるとつまんないものしか残らないんだよ」
「わかりきったようなこと言いおって。若人のくせに」
自分の元の年齢は明かさないままに、サンは笑った。
「でも、魔法を実際に使うのはこの世界の人だしね。もしかしたら面白い使い方をする人もいるかもよ」
「…そうだな」
戦闘に使われていたであろう魔法陣を馬車のサスペンションに流用した魔科研の先輩二人の姿が思い浮かんだ。
「技術発表会の中止で失われたモノは、デカかったんだな…」
どこか他人事だったそれが、今更身近に感じられた気がした。
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