95. 転生者同士 #2

「に、2130年って、み、未来じゃん!」

「まあ、そうなるな」

「え、未来ってどうなってんの!?」

「それは抽象的すぎて答えづらいな…」


 俺が未来人だと知ると、亜紀は身を乗り出してきた。


「ほら、例えばなんかどっかの国が消えたりできたりしてない?」

「多少名前が変わったりちっちゃい国が合併したりはあったけどそれくらいだな」

「えー、世界情勢が大きく変わったりはしてないの?つまんないな」

「つまんないってお前なぁ…」

「だってどうせ、地球にいたって僕は2130年には死んでるからね」


 飄々とした態度の亜紀。まあ、俺だって自分が死んだ頃の地球なんてどうなっていてもいいが。


「そういえば人口とかどうなってたの?2050年頃には人口が100億人突破とか言われてたけど…それどころか200億くらい行ったりしない?」

「2130年の人口は、たしか130億くらいだったな。一度アフリカでかなりヤバい飢饉が起こって、人口が半分になったはずだ」

「そ、それは…酷いな」

「食糧問題は相変わらずだよ。まあ、人工肉が普及したおかげでなんとかなったけど」

「人工肉!SFの世界の産物だと思ってたよ」

「俺の世代にもなるとほとんど人工肉で育ってきたよ。普通の肉も食ったことあるけど、正直違いがよくわからなかったから安い方でいいかな」

「おー…未来人らしい発言が聞けて満足したよ」


 亜紀は乗り出した身を再びソファに落ち着けた。


「あとはそうだな…オリンピックとかどうなった?2020年のやつ」

「東京に決まったよ。ただ、2020年はパンデミックが起きて結局2021年に延期されたけど」

「そんなことあったんだ!?えー、想像できないなぁ…」

「未来なんて誰もわからんからな」


 二人で未来や過去の話をしていると、不意にドアがノックされた。

 職員の一人が顔を覗かせた。


「失礼します。そろそろお時間でございます」

「そうでしたか。待たせてしまってすみません」

「いえいえ、同郷の方との話ですから盛り上がるのも仕方のないことでしょう」


 俺たちが部屋を出ると、皆待ってくれていた。

 リーサたちはもちろん、アリスとその両親までいた。


「待たせてごめん、先に帰ってもよかったのに」

「何も言わずに帰るのもちょっと良くないかなって思ったから。アリスとも仲良くなれたし」

「うんうん。まったく問題ないよー」


 リーサの言葉に、アリスも頷いた。


「じゃあね、ヒロキ君。また話せるかな」

「釈放されたら、多分」


 亜紀は手をひらひらと振って、それから素直に腕を縛られて拘置所かどっかへ帰っていった。

 姿が見えなくなってから、シルヴィが疑問を呈する。


「彼女、今後どこに住むことになるのでしょう?エルディラットの孤児院でしょうか?それとも…」

「シルヴィーナ様。そのことなのですが…」


 声をかけたのは、アリスの父親だった。


「可能であれば、我がプラシュテーク家が引き取りたいと考えております」

「…なるほど。承知しました、そのように連絡しておきましょう」

「ありがとうございます」


 彼はシルヴィに対して慇懃に頭を下げた。

 こういった場面を見ると、貴族というものがたしかに存在していることを実感する。


「あいつもいきなり引き取られるとは思わないだろうな。でも、こんな短い時間で決められることなのか?」

「プラシュテーク家は我がアルティスト家の派閥に属する家で、新しいものや習慣を積極的に取り入れていくことで有名なのですわ」

「そうそう。うちが使って有用だーってなったらアルティスト様とか他のところでも使われるようになったりするんだよ」


 俺の浮かべた疑問に、シルヴィとアリスが答えを並べた。


名無しサンズヴァッシュちゃん…言いにくいからサンでいっか。あの子は違う世界の知識を持ってるから、きっと新しい価値観とかももたらしてくれると思う。お父さんもそれを期待して引き取ったんじゃないかな?」

「その通りだ、アリス」


 後ろから現れたアリスの父親が、彼女の推測を肯定した。


「もっとも、そういう意味では私達は君のことも気になっているんだがね。どうだいヒロキ君、婿としてうちに来ないかね?」

「「…へぇっ!?」」


 俺とアリスは同時に素っ頓狂な声を上げた。


「そ、そそそ、それはつまり、あた、あたしとヒロキが、け、結婚を…!?」

「そういうことだ。ヒロキ君さえよければ、と思ったのだが」


(え!?え、これ断っていいの!?断ったら機嫌悪くするとかある!?俺に拒否権ある!?)


 思考が大混乱に陥って声が出なくなってしまった。

 そこに、シルヴィが闖入してくる。


「さすがにそれは許可できませんわ。違う世界から来たという特殊な人物を二人も家に入れるのは、力や知識の均衡という面で不安がありますので。…それに、あまり冗談でからかうのは良くないですわ」

「…そのとおりですな。さすがにこれは冗談です」


 彼は小さく笑い、俺たちから離れていった。


「あーびっくりした…いきなり結婚相手が決まるかと思った…」


 アリスが胸を押さえて安堵したように息を吐いた。かと思うと、次の瞬間にはいたずらっぽい笑みを浮かべてこっちを向いた。


「ちなみにヒロキ的にはどう?あたしってアリ?」

「アリでもナシでも角が立つ質問やめてくれませんかねぇ!?」


 俺の悲鳴に、周りから笑いが巻き起こった。

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