94. 転生者同士
面談室からは、俺と少女を除き全員がいなくなった。
「さて、まず…ヒロキ君は、日本出身で合ってる?それ本名だよね?」
「そうだ。そっちもか?」
「うん。僕は、前世での名前を
「そりゃすごい…改めて、俺は亜門 弘樹。もとはただのサラリーマンで、その傍らで創作活動をやってた」
「へえ、どんなの?」
「魔法を科学的に構築してた。まず魔子っていう素粒子があって…」
「あーストップストップ。悪いけど、僕多分理解できないから。でもすごいね、それ。まるでこの世界みたいだ」
「…実はそうなんだよ、って言ったら信じるか?」
「え?どういうこと?」
まるで理解できないといった表情で、少女…亜紀は首を傾げる。
「俺が作ってた魔法が、この世界にあるんだよ。何故かな」
「…なにそれ、すごいな。わけわかんない。でもいいな、それまさしくチートってやつじゃん」
「本当だよな。この世界、あんまり魔法技術が発達してないからやろうと思えばいくらでもチートし放題なんだよ。まあ、あんまりやりすぎると命とか狙われそうだから控えめにしてるけど」
「いいなー…僕もそういうチート欲しかったよ。せめて読み書きはさせてほしかった」
ため息をついて、亜紀は憂鬱そうに言った。
「僕さ、一応賊に拉致られてたみたいな扱いになっててさ。今でこそ収監されてるけど釈放される予定ではあるんだよ」
「よかったじゃん」
「よくないよ!こんなよくわからん世界に肉体年齢12歳の可憐な少女が放り出されるんだぞ?どうやって食い扶持を稼げばいいのか、ずっと迷ってるんだよ…最悪、娼館にでも自分を売らなきゃいけないかもしれないんだぞ」
「一応言っとくけど法的には働く方も客も16超えてないとダメだからな?」
「なっ!中世ヨーロッパもどきのくせにちゃんとしやがって…」
亜紀は頭を抱えたかと思うと、バッと顔を上げた。
「そうだ、生活保護あるじゃん!あれっていくらくらいなの?」
「月に3万ガット…日本円でだいたい9万くらいを1年間もらえる」
「ヒロキ君は生活保護受けてるって言ってたよね?」
「受けてる。ただ、冒険者やってわりといい感じに稼げてるから、この調子で行くと半年くらいでもらえなくなるかもって話だった」
「まあ働ける人が生活保護受けてたらダメだもんねぇ…ってか、ヒロキ君はまだクラヴィナに来てから半年も経ってないんだね」
「そっちはどれくらい経ったんだ?」
「4年かな。転生したら見た目8歳くらいで、水色の髪だったからびっくりしたよ」
「俺は歳こそ半分になったけど、姿は俺のままだな」
転生時の年齢もバラバラ。転生してくるタイミングもバラバラ。
そして職業も性別も違う。まるで共通点が見いだせない。
「しっかし、まさか同じ日本人に僕が知られてないとはねー。ぶっちゃけショックだよ」
「そりゃまあ、登山とかには興味ないしな…」
「でも僕、結構テレビに出てたよ。なんなら流行語大賞とか狙ってたし」
「流行語大賞って狙うものなのか…?」
「なんか名言っぽいもの言ったら結構いいところまで行ったんだけどね。どっかのメディアに大炎上させられたから外されたのかもね」
亜紀は怒ったように言って、腕を組んだ。
…しかし、俺にはまるで記憶がない。
流行語を逐一チェックするような人間ではないが、ネットで炎上した記事くらいは見ているはずだ。
俺の頭の中に、一つの仮説が浮かんだ。
「一応訊くけど、それ西暦でいつの話だ?」
「西暦で?2013年だけど」
「なるほど、やっぱりな」
果たして、正解だったようだ。
――転生元の時期もバラバラだという仮説は。
「俺は2130年から来た」
「にせんひゃく…えぇーっ!?」
亜紀の驚いた声が俺の鼓膜を激しく揺さぶって、俺は思わず耳を押さえた。
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