91. 相談

「ふぅ、今日も好調だな」


 アンセヴァスは額の汗を拭い去り呟いた。

 このペースなら、今日も安定した稼ぎが見込めるだろう。

 家を買うというリーサの目標にはまだまだ遠いが、エルディラットでそこそこの暮らしを営むには十分だ。


「そういえば、リーサにヒロキさぁ。例の事件どうなってんの?」

「あー、それ気になってたわ。あのあとなんかあったりした?」


 討伐が一段落したところで、アンセヴァスとピーゼンが俺たちに振り返る。


「そういや言ってなかったか。あったよ、賊の構成員が一人捕まったんだけど、それが…」


 俺たちは起こったことを説明した。

 構成員だった名無しの少女サンズヴァッシュの登場。

 彼女が例のスリだったこと。

 彼女は切り捨てられてしまったらしいこと。

 彼女が記憶を失っていること、その他諸々…

 そうして話し終えると、ビスティーが首を傾げていた。


「なぁ…ボクの個人的な感想ではあるんだけどさ」


 ビスティーらしく、控えめに切り出す。


「その子、人為的に記憶をいじられてない?」

「…マジ?」

「記憶というか認識というか…催眠術だとできるかもしれないって話だけど」


 そう言って、少女の話をなぞる。


「最初に貴族に啖呵を切ったにしては、その後の勢いが削がれすぎていると思うんだ。もしかしたら貴族への認識が歪められたのが、最初のそのやり取りで戻ってたのかもしれない。もちろん、それだけで戻った証拠はないけど。…ボクが診れば、なにかわかったりするかもしれない」

「…交渉、してみるか」


 俺は銃型魔道具を腰に戻した。



「なるほどね…ガルゼさんとこの催眠術師か」

「なんかわかったらいいと思うんですけど…」

「うーん…確かに催眠術系をやる部署は騎士団の方にはないよな…」


 一通り唸ってから、エーシェンさんは頷いた。


「わかった。本当は良くないんだけど…今回は連絡してお願いしてみる。わりと権力濫用ギリギリのところだから、多分次は無理だからね」

「ありがとうございます!」

「一応言っておくけど、今回もちょっと怪しいからね?」


 何度も釘を刺して、エーシェンさんは去っていった。


「…これでとりあえずは、ってところかなぁ」

「エーシェンさんに頼るしかないからねぇ」


 リーサの言う通りだ。


「ま、頼れる人には頼れるうちに頼っておく方が得だからな」

「感謝は忘れないようにね…?」

「わかってるよ」


 軽く笑って、俺たちはギルドを出た。

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