81. まさかの事態
素人四人の爆破予告犯考察が大陸南北の国家間対立に関わる陰謀論へと展開する前に、頼んでいたケーキやコーヒーが席に届けられた。
すぐに、話題はきな臭いものから目の前に並んだスイーツへと移り変わる。
「やっぱたまにはこういう洒落た所もいいな」
俺はコーヒーを傾け、ケーキの甘味を口から流し去った。
口の中に残るのは甘味より苦味のほうがいいと、個人的には思う。
「んー…おいひい…」
リーサがフォークを咥えたまま恍惚とした表情になっている。
傍から見るとちょっとヤバそう。
シルヴィは上品にゆっくりとケーキを切り分けて口へと運び、エルジュはコーヒーの苦味に顔をしかめている。
文字通りの三者三様であった。
「シルヴィ以外は喫茶店慣れてなさそうだな」
「そりゃ当たり前だろ。そんな頻繁に来るところじゃないし…そういうヒロキは慣れてそうだな。何か経験があるのか?」
「さぁな。記憶喪失だ」
俺はいつもどおり誤魔化した。
「わたくしも、特にこのような店に慣れているというわけではありませんの。ただ、家ではこういった間食も嗜んでいまして…」
「…住む世界が違ったわ」
エルジュが感心したような呆れたような声色で呻いた。
ドアが開き、鈴が鳴った。
その音色に見送られて、俺たちは店を出た。
「やっぱ慣れねぇー…」
エルジュの素直な感想に、俺たちは笑い声を漏らした。
「シルヴィとヒロキはなんか慣れてる感じでリーサは純粋に楽しんでたけど…俺だけなんか疲れた気がする…」
「まぁ、無理に慣れないといけない場所でもないだろうし、いいんじゃね?」
「そうそう、慣れなくても大丈夫だよ。…高いし…」
リーサが小声で付け足した。
やはり、コーヒーもケーキも日本の喫茶店のようには安くはなかった。
3級依頼を受けられるようになって財布が潤い始めたとはいえ、家を建てるための貯金をしているリーサにとってはちょっと辛かったようだ。
「別に行ってみたかったからいいんだけどね」
そう言ってリーサは話を終えた。
ちょうど、俺たちは大学の近くまで戻ってきていた。
ここからは帰り道が別になる。
「じゃあまた…明日、あんのかな」
「どうなんだろ…とりあえず俺たちは行くと思うよ。じゃあな」
そんな曖昧な挨拶をして、俺とリーサは踵を返した。
その時だった。
「うわっ!?」
俺に誰かがぶつかってきた。
「あっ、ごめんなさい」
帽子を目深に被った少年だった。
少年は一言詫びて足早に去っていった。
「大丈夫?」
「うん、別にお互い走ってたわけじゃないしな」
俺はそう言って歩き始めた。
…そして、すぐに足を止めた。
「…なんか変だな」
「どっか怪我した?本当に大丈夫?」
「いや、怪我じゃないんだが…」
俺はポケットに手を突っ込んで、違和感の正体に気づいた。
「…財布取られた!!」
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