79. 突然の出来事 #2
「「「中止!?」」」
全員の声がハモった。
「なぜですの?今までは毎年普通に開催されて…」
「なんでも、脅迫状が届いたらしい。『技術発表会を中止しろ、さもなくば会場の講堂を爆破する』とな…」
「爆破予告、ですか」
その単語に、俺は妙な懐かしさを覚えた。
現代日本でも、爆破予告は結構あった。
爆破予告で大学が休みになって沸く学生をSNSで何度か見たことがある。
仕掛けた爆弾の数がネットミームで見るような数字だったりして悪ふざけであることが明らかでも、予告された側としては対応しないわけにはいかないから大変だな、と他人事のように思っていた。
まさか異世界に来てから爆破予告の当事者になるとは全く思っていなかったが。
「仕方ないよな…」
イルク先輩は力なく床に座り込んだ。
…めちゃくちゃ楽しみにしてたからなぁ…。
とはいえ、自分たち素人には犯人探しなどできない。
警察に…この世界だったら騎士団に任せるしかないだろう。
「…今日は帰ろうか」
こんなとき、よくある異世界モノの主人公なら解決してしまうんだろうか。
立ち上がりながら、そんな考えが頭をよぎった。
「おや、ヒロキ君にリーサ君。もう帰るのか?」
「はい、今日はやることもなかったので…」
前から歩いてきたのは、俺のいる1年35組の担任であるヨークリー・アルナシュ先生だ。
「それにしても偶然ですね」
「偶然ではないぞ。ちょうど
「魔科研に?なんか用事でもあるんですか?」
「用事もなにも、私は魔科研の顧問だぞ」
「え!?」
「なんだ、知らなかったのか」
全くの初耳である。
研究室に来た先生を見たことがない。
「というか、研究室に顧問なんているんですか」
「本来はいない。実を言えば、あそこは正式な研究室じゃないんだよ。元々はイルクも普通に研究室扱いで申請していたんだが、頭の固いお偉方に『荒唐無稽だ』って突き返されたんだ。魔法と科学は同じモンだ、って考え方はメジャーじゃないからな。で、私はあいつの考えが面白いと思ったから、一つのサークルとして立ち上げさせて顧問を請け負わせてもらったというわけだ」
「まさかサークル扱いだったとは…」
そして魔科研がそんな厳しい立場にあったとは。
荒唐無稽で突き返すのは科学を研究する学園都市の学校としてどうなんだ。
「…あぁ、だからイルク先輩あんなに張り切ってたんだ」
変な考えの変なサークルから、れっきとした一つの研究室に成り上がるためのその手段こそが、あの技術発表会だったというわけだ。
「あれ、ヒロキとリーサ…あとアルナシュ先生」
「奇遇ですわね」
後ろからエルジュとシルヴィがやってきた。
「お前らも出てきたのか」
「いやー…だってさ…」
「あの落胆した空気の中で淡々と作業を続けるのは…難しいですわ」
「それもなんか申し訳ないしな。急ぎの作業があるわけじゃないし」
結局、俺たちと同じ理由で出てきたということだった。
アルナシュ先生が口を開く。
「イルクとマーリィ以外の全員が揃ったならちょうどいい、さっき追加の会議で決まったことを伝えておこう。来週の二曜日、つまり7月12日から本来技術発表会のあった17日…七曜日までは大学も高校も立ち入り禁止になる。万が一なんか仕掛けられたらたまったもんじゃないからな。それじゃそういうことで」
一言発して、アルナシュ先生は魔科研の研究室の方へと歩いていった。
「…このあとどうする?暇になっちゃったけど」
「せっかく四人いるし、喫茶店でも行くか?」
俺のその一言が、俺たちの午後の予定を決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます