75. 男子会

「上がったよー!」


 リーサの声がした方を向くと、女子3人組が森の中から出てくるところだった。


「おー、おかえり」

「うん。ヒロキ、それ何作ってるの?」

「これか?ほら、冷蔵庫だよ。狼の頭が腐らないようにさ」


 言いながら、ちょうど彫っていた魔法陣を指す。

 リーサなら、これがエアコン魔法陣と似たようなものだとすぐに分かるだろう。


「イルク先輩のようにはいかないけど、わりといい感じに彫れてると思うんだ」

「まあまあできてはいるが、まだまだだな」


 イルク先輩が腕を組んで偉そうに言った。


「結構出来てるんだね、わたしたちが水浴びに行ってから彫り始めたなら早い方じゃない?」

「早い方だと思う。結構手先が器用」


 マーリィ先輩が俺の肩を持った。

 勝機がないと悟ったイルク先輩は「さて、俺たちも水浴びに行くか」なんて話題を逸らした。

 ちょうど作業も一段落したタイミングだったので、エルジュに声をかけて池に向かうことにした。



「おー、結構広いのな」


 エルジュが感想を端的に述べた。

 昨日も水を汲みには来たが、あれはわりと重労働で池全体を見渡している余裕はなかった。

 朝日が木漏れ日となって幻想的な風景を演出している。

 鳥の鳴き声も聞こえてくる。スマホがあれば動画を撮っていたかもしれない。


「空気も水も澄んでいるな。エルディラットのごちゃごちゃした感じは嫌いではないが…たまにはこういうのも良い」


 イルク先輩がいかにも都会人っぽい発言をする。

 東京のような現代の大都市に住んでいた俺からしたら、エルディラットはどちらかといえば田舎感があるのだが…とはいえ、抱く感想はイルク先輩と大差なかったのでとりあえず頷いておいた。


「よし、じゃあ脱ぐか!」

「「おうっす!!」」


 先輩の号令と同時に服を脱ぎ捨てる。

 この世界に来てから初めての裸の付き合いだ。

 異性とは…リーサの赤魔法開発の件は、まぁノーカンでいいだろう…。

 向こうも別に気にしていないっぽいし。



 思春期近い男子3人(俺も一応身体がそうだし思春期に含めていいだろう)のプライベート空間が出来上がれば、話されるのは当然…恋の話である。


「なあヒロキ、お前リーサと一緒のとこ住んでるんだろ?実際どうなのよ」

「お前そんなノリのキャラだっけ?」


 やけにノリノリなエルジュに思わずツッコむ。

 しかし、よく考えれば俺はエルジュのキャラを完全に掴んでいたわけじゃないし、これが本来のエルジュなんだろう。知らんけど。


「正直、僕も気になっているんだ。とはいえ、リーサ君のところは宿だろう?同じ部屋というわけではないんじゃないか」

「そうですよ。特に浮かれた話はありません。他になんかゴツい冒険者も間借りしてますからね、あそこ」


 言うまでもなくガルゼ一行のことである。

 彼らとは、今は廊下で合ったら挨拶するくらいの関係にあるが、機会があればまた一緒に冒険者をやってみたいものだ。


「えー、でもなんかこう…間違って裸を見ちゃったとか逆に見られちゃったとか無いの?」

「…無いな」

「お?ヒロキ君、その間は怪しいぞ」

「自白してるようなもんだよな」


 ノーカンノーカンと脳内で唱えてはみるが、二人の興味はこちらに向いてしまった。


「…わーったわーった白状しますって。あいつが赤魔法使えるようにしてやったんですよ」

「え!?リーサって後天的に赤魔法が使えるようになったタイプなのか!?」

「あれ、言ってなかったっけ」

「多分エルジュとシルヴィが魔科研エルヴォクロットに来る前に話したんじゃないか?僕は知ってたし」

「まあそういうことだ。そして自然に使えるようになったんじゃなくて、俺が使えるようにしてやった」

「なぁ…そのだな、赤魔法ってオレでも使えるようになるのか?」


 いい感じにリーサの裸から話が逸れたので、俺はこの流れに乗ることにした。


「できるぞ。ってか俺が赤魔法を使えるようにできることに関しては驚かないんだな」

「驚いてはいるんだが…こないだ散々オレたちの知らない魔法理論を講義してたヤツならそんぐらいできてもおかしくはないかなーと」

「そういうものか?」

「そういうものなんだよ。それで、できればオレも赤魔法を使えるようにしてほしいんだが…頼めるか?」


 急に真剣になって頼むエルジュ。表情筋が忙しそうだ。


「お代100万ガットな」

「なぁっ!?」


 一瞬で絶望に染まったエルジュに思わず吹き出し、「冗談だよ」と付け加える。


「ついでですし、イルク先輩も使えるようになります?赤魔法」

「そりゃ使えるようにはなりたいが…いいのか?」

「いいですよ、別に減るものでもないですし。ただコツを掴んでもらうだけですから。よしエルジュ、俺に背中を向けてじっとしろ」


 こうして、俺はまた赤魔法使いを増やすことになった。

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