67. 実験という名の休暇 #3
いつも使っているレストランで作ってもらった昼食をとったあと、みんなは各自の行動に移った。
といっても、基本的に俺とリーサが代わる代わる森に入ってはシカやウサギを狩っているだけだったが。
イルク先輩、マーリィ先輩、エルジュは涼しい馬車で魔法陣研究に励み、シルヴィはその横でぐっすりと寝ていた。曰く、夜中の見張りに備えているらしい。
俺とリーサが同時に行動しなかったのは、戦闘要員である2人のうちどちらかが不測の事態に備えるためである。
「戻ってきたよー」
「おー、でっかいの捕まえたね。大変だったでしょ」
「まぁね」
何度か出撃して、日も傾き始めた頃。
俺は仕留めたアルスレージカを引っ張って戻ってきた。
討伐証明部位を得るための解体はまだ俺にはできないため、リーサに頼りきりだ。
「せっかくだからこのシカも食べよっか。ちょっとくらいならステーキとかにできると思う。このシカ、普通に健康そうなシカだった?」
「病気とかなら大丈夫だと思うけど、マジで?できるの?」
「短剣も持ってきてるしね、冒険者の先輩に聞いたからやりかたは知ってるし!」
組んだ手を掲げて祈りを捧げたあと、リーサはロープやら何やらを馬車から持ってきて、手際よく血抜きやら解体やらを始めた。…狭かったの、アレのせいでは?
近くの池からバケツで水を汲んだりと重労働そうだが、本人はケロッとしている。
なんなら「焚き火起こして、あと肉焼く用の金網とか用意しといて」と指示を飛ばしていた。
…リーサ、多才だなぁ。
「すごいですわね、あの子」
「全くだ」
隣にいたシルヴィが同じことを言った。
エルジュも頷く。
「実は、少し憧れていますの。あのような、放り出されたとしても生きていくことができる能力を持つことに」
「突然の告白だな」
「こういったときでなければ言う機会もなさそうでしたので」
これを言わないと普通の貴族のように扱われてしまって少し窮屈ですわ、なんて理由を後付けしてシルヴィは言う。
「それでも、やはり貴族は貴族なのですわ。お父様お母様には自由にさせていただいておりますが、このような仲間内の場以外では貴族らしい立ち居振る舞いを要求されますの」
先日、シルヴィを『お嬢様らしくない』と評した俺だったが、改めて(不審がられない程度に)観察してみると、一つ一つの所作が丁寧で上品…という感じがある。
高級界隈など何もわからない俺がそう感じるのだから、実際丁寧で上品な動きなんだろう。
向こうで豪快にシカを捌き続けるリーサが下品というわけではないのだが、2人の動作は対角線上にある感じはする。
「わたくしがリーサのことを羨ましいと言ってしまえば嫌味か皮肉にしか聞こえないでしょうが、ああいった技術を身に着けてみたいと思ったこともあるのは事実ですの。もちろん、貴族としてのお金持ちの生活も悪いわけではないのですけどね。空腹で倒れることはありませんし」
なんとなくシルヴィの言いたいことがわかった気がする。
彼女にとって、リーサのような冒険者は憧れだったのだろう。だが実際冒険者になっても、あそこまでのサバイバルスキルを身につけることは許されなかった。
戦闘能力は高くても、それがサバイバルスキルに結びつくわけではない。
そして、その憧れのリーサは、実は貧困にあえぎつつもなんとか暮らしている少女だった。
多分、あのスキルも必要に迫られて身につけたものだろう。
そうして、シルヴィはリーサに憧れればいいのか、それともリーサを憐れめばいいのかわからなくなってしまった。
…という状態なんだろう、と推測する。
であるならば。
「とりあえずリーサのとこ行ってみたら?教えてくれるかもよ」
「え、でも迷惑に…それに護衛が…」
「リーサはそんな奴じゃないと思うぞ」
「もし護衛の人たち来たら適当に言いくるめておくよ」
俺とエルジュが、背中を押してやれば。
「…それなら…そ、その、えっと、リーサ…?」
案外簡単に解決するのかもしれなかった。
シルヴィのほうに若干他人行儀感があるが、まあ、やり取りの中で自然にどうにかなっていくだろう。
俺たちはそれを見届けて、既に灯った焚き火の方へ歩いていった。
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