66. 実験という名の休暇 #2
ホウミィちゃんが嘶いて、エルディラット市外の申し訳程度に整備された道を駆けていく。
この世界においては、日本やその他国家のように都市が敷き詰められているわけではなく、地方の中に点々と存在するようになっている。
揉め事を避けるために都市の境界線は設けられているのだが、少なくとも都市そのものの面積は定められた面積の2分の1から3分の1程度であることが多いらしい。
今走っているところは、行政的には『
とはいえ、主要な交易路とかでもないのでまともに整備はされていない。
そんなわけでさっきから車輪がガッタンガッタンと音を立てているのだが、音に反して客車の揺れは目論見通り抑えられていた。
「いやー、こりゃ思った以上に快適だな」
「わかる。快適」
イルク先輩の言葉に、マーリィ先輩が頷く。
この間作ったエアコン魔法陣も、天井で赤く光って涼しさを提供している。
「キャンプの道具があるとさすがにちょっと狭いな…本来の定員は4人くらいか?」
「帰りはもしかしたら獲物を載せて帰るかもしれないから、もっと狭くなるね。まぁ、無理はしないようにしようね」
「そうだな、そこらへんは臨機応変に行こう。あくまでついでだしな」
「食べ物を積んでいるのを忘れていますの?6人分という量の食べ物がなくなれば場所は取れるはずですわ」
一応、リーサの資産的にもまだ俺のあげた5万が残っているはずだから、無理して依頼を受ける必要はない。
ただ、最近は
そんなわけで、キャンプ道具には例の初心者用杖…を魔科研でちょっと改造したものも持ってきている。
「…もうそろそろ、設営かな。あんまり離れすぎても良くないし。ホウミィ、止まってくれるか」
ヒヒンと鳴いて、ホウミィちゃんは道の脇にある木の生えていない空地へと入っていった。
地球の科学も黙りこくるほどの自動運転であった。
「よし!設営するぞ!」
「「「おー!」」」
イルク先輩の号令に従って俺たちは客車から飛び出した。
木に囲まれた、風通しの良い涼しい土地だった。
「そこの木とかいいんじゃね?」
「いいね、布ひっかけちゃおう」
ボロボロになった布を木に引っ掛けたり地面に固定したりして、よくある三角形が組み上がってきた。
「よし、テントはもう1つだな」
ちょうどもう一枚の布をリーサが持ってきてくれたので、俺はまた適当に木を探してテントを形作った。
「完成だな!じゃあ次は焚き火の準備だ」
俺たちは森の中へと入っていって、小枝を探して回る。
さすがに枝だけではどうしようもないので、多少はノコギリで木の枝を拝借したりもした。
木を切る上での許可はちゃんと市に対して取ってあるらしい。
「ふう…準備できたな。これで、いつでも火をつけられる」
「あれ、今やるんじゃないんですか?」
「こんな日も高いうちから火を起こす必要は無いだろう?日が暮れてからでは薪を集めるのは難しいから昼間に集めるんだ」
「キャンプ…というか野宿の基本だぞ?まあもっとも、普通はこんな場所でキャンプなんてやらないがな。危険すぎるし」
「今回はそもそも安全な場所を見繕った上で来ていますから基本的には大丈夫なはずですわ。それでも、冒険者としてはこういった野宿は訓練になると思いますの」
キャンプと訳される娯楽目的の野宿はこちらでも存在しているらしいが、それはちゃんと整備され安全が確保されたキャンプ場があるということなのだろう。
そうなると、これはどちらかといえば野宿ということらしい。
…一応これ、休暇の娯楽だったはずなんだけど…
「いや、元はと言えば実験だからね?」
「そうだったわ」
客車浮遊式馬車の実証実験というメインの目的をすっかり忘れていたことに、リーサの言葉で気付かされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます