65. カウンセリング

 部屋のドアが、音を立てて閉まる。


「…さて、本題に入ろうか。最近はどうだい?」


 わたしの表情を読み取るためか、エーシェンさんはじっとこちらを見つめる。


「まあまあでしょうか…」

「あんまり具体的じゃないね」

「『最近はどう』、というのも具体的ではないと思います…」

「まぁ、それもそうだね」


 出されたお茶をぐいっと傾けて、エーシェンさんは口を開く。


3?」


 3級。

 その、何もおかしくはない言葉が、頭の奥へと入り込んでいく。


「…無理そうだね」

「…ですね」


 小さく肯定の言葉を返す。

 …やっぱり、顔に出てしまっていたらしい。


「そうか…まぁ、無理もないか。4級だって、ここ半年でようやく受けられるようになったばかりだもんね」

「はい。3級を受けないといけないのは、自分でも分かっているんですが…」

「無理にする必要はないんだよ。…とはいえ、この調子で間に合うかい?」

「…間に合わないです。この調子だと、お金が貯まる前に…倒れると思います」


 視線が落ちる。

 手が自然と制服のスカートを握っていた。


「大学の研究区画内の寮も、そこそこするからなぁ」

「それに、大学の寮だと戸籍が分けられないので…わたしの目的に合わないんです」

「そうだよなぁ…」


 エーシェンさんは深くため息をついた。

 責められているわけではないと分かっていても、少し縮んでしまう。


「あ、ごめんごめん!怖がらせるつもりはなかったんだ」


 目敏くこちらの感情を見抜いてきたエーシェンさんが慌てて謝った。

 わたしはただ頷いて、大丈夫だと示した。


「そういえば、こないだ間違って3級の依頼を受けてきたよね。あのときは大丈夫だったの?」

「3級と知らなければ、大丈夫でした。ただ…最後はヒロキに助けてもらったので、やっぱり力が落ちてると思います」


 視線を上げる気になれなくて、自分の足を見つめたままになっている。

 前よりも細い気がした。


「昼食、抜いてるでしょ。前より痩せてるよ」

「うっ…」


 言い当てられてしまった。


「やっぱり、昼抜きで毎日学校行って週末は2日とも冒険者やるなんて、流石に無理があるよ」


 現実を突きつけられる。

 もっとも、わかりきっていたことではあった。

 わたしがずっと目を背け続けていただけのことだった。


「ほんと、ご両親も困ったものだね…ヒロキ君に助けてもらう、という選択肢はどうだい?」

「できれば…取りたくないです。ヒロキには恩がありすぎて、ずっと助けられっぱなしで…本当なら、もっと大変なはずのヒロキを助けるべきなのに」

「そうは言うけどねぇ…このままじゃ倒れるどころか、死んでしまうよ。返せる恩も返せなくなってしまうんじゃないかな」

「それは…」


 言葉に詰まったわたしを見て、エーシェンさんはため息をひとつついた。


「今日はこれくらいにしておこうか。また来月、話を聞こう。彼に頼ることも考えておいてね」


 エーシェンさんは、ドアを開けて戻っていった。

 考えに耽りたかったが、外でヒロキを待たせていることを思い出して、椅子から立ち上がった。

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