64. 依頼選び #3

「あ」

「あっ」


 俺とリーサは、ギルドでマーリィ先輩と鉢合わせした。


「君たちも…ここだったんだね」

「まあ近いですからね」

「私もそう。それに、やっぱりここがエルディラットのギルド本部だからね。情報も、他の支部より早いんだ」

「支部なんてあったんだ」

「うん。それじゃ、私は安全そうな場所とか訊いてくる」


 マーリィ先輩はギルドのインフォメーションセンターみたいなところへ駆けていった。


「さて、どの依頼を受けようかな」


 掲示板には今日もそこそこの枚数の依頼が貼られていた。

 見た感じ個人からの依頼は少ないが、よく考えてみれば個人が依頼するようなことはあまりないのかもしれない。そんなにお金がある人もそういないのだろう。


「どうせなら帰り際に受けられるやつがいいよな…討伐ついでに素材を持って帰れるのもアリかもな、馬車あるんだし」

「そうだね…」


 掲示板を舐めるように見ていくと、一つの依頼が目に留まった。


「なんだ、あれ…?」


 そこに描かれているイラストは、見た目は普通のアルスレージカと同じように見える。だが、デカデカと書かれた報酬がどう見てもおかしかった。

 その額、なんと12万ガット。アレを倒したらだいぶ良いパソコンが買える…などと、つい日本円に換算して考えてしまった。

 よく見たら、その依頼は2級依頼だった。

 何も考えずに見ていたらいつの間にか上級依頼の方まで視線が行っていたらしい。


「何見てるの?気になるやつあった?」

「あのアルスレーシカのやつ。なんで2級なのかなーって」


 依頼書は上の方にあり、説明文が小さくてよく見えない。

 二人して目を凝らしていると、不意に肩を叩かれた。


「やぁ、お二人さん」


 振り向くと、ふわっとした金髪のイケメンがいた。


「えっと、エーシェンさん…でしたっけ」

「覚えててくれて嬉しいよ、ヒロキ君」


 エーシェンさんはニコリと笑みを浮かべた。



 テーブルの上に、お茶菓子が並べられる。


「本当はリーサ君に用事があったんだけど、折角だからね。なんか依頼が気になってそうな顔してたけど」

「2級のところにあったアルスレージカの依頼がちょっと気になってました。絵は普通のやつなのに何が違うのかなー、と」

「あー…あれはね…」


 急にエーシェンさんは難しそうな顔をして腕を組んだ。


「変異種、って言えばわかるかな。突然やたら強いアルスレージカが現れたらしい」

「やたら強い…ですか」

「そう。今の所魔物化してるかどうかすらわからなくてね…怪我人が出てるから存在は確実なんだけど、見分けられてないんだ」

「それは…怖いですね…」

「その怪我人ってのも、7人が重傷で28人が軽傷。いつ死者が出るかわからなくてね…」


 エーシェンさんは肩を落とした。


「あと、これもあんまり良くない話なんだけど…最近、そのアルスレージカを新入生対抗戦優勝者のヒロキ君が討伐してくれるんじゃないかとかみたいな噂が流れつつあってね…さすがにこっちも、いくら赤魔法使いの魔族とはいえ記憶喪失で冒険者始めてまだ一ヶ月ちょいの人に2級依頼なんて頼めないから、噂は抑えてるけど…」

「マジですか…格好とか変えたほうがいいのかな」

「そんなことがないようにこっちでも注意はしとくよ。それに、この依頼はもうすぐ1級に上がる予定なんだ。エルディラットは2級を受けてくれる人は少ないけど、1級なら動いてくれる人もいるだろうし」


 この状況だと、キャンプは避けたほうがいいんだろうか?


「そういえば、さっきマーリィとかいう子が野宿に安全そうな場所を訊いてきたけど、あの子多分君たちのお仲間だよね」

「そうですね。…よくわかりましたね」


 一応先輩だけどな。


「彼女にも言ったけど、この変異種が出現するのは城壁外の南東部だ。そこらへんを避ければ問題はないよ」

「じゃあ北西部あたりとかですかね」

「別にそこまで正反対にする必要はないよ。南東部に行かなければ大丈夫」

「わかりました。ありがとうございます」


 俺は頭を下げた。


「それじゃあ、僕はリーサちゃんに話があるから、先出ていてくれるかい?あ、ギルド内には留まらないほうがいいと思うよ。噂の件もあるし」

「そうさせてもらいます」


 俺はドアを開け、部屋を出た。

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