63. 実験という名の休暇
「よし、じゃあ下ろすぞ!1、2、3!」
イルク先輩の号令に従って、客車を台ヘと下ろす。
ふわりとした独特の抵抗とともに、客車が拳一つ分くらい浮かび上がった。
「よーし、成功だ!」
「ふぅ…」
額に浮かんだ汗を拭って、俺は息を吐き出した。
「これの持続時間は1ヶ月くらいあるんだよな?」
「はい、そのはずです」
「まあ万が一切れても赤魔法使いがいれば復旧できるがな…とりあえず、これで技術発表会に出せるものができた。礼を言う」
「先輩のアイデアがなければそもそも存在しないものですから」
むしろホバークラフトみたいなものを作る魔法を考えたことはあったが、それが盾に使えるという発想をしたことはなかった。
「さて、完成した以上動かしてみたいが、どうしようか…前はリーサに頼んだが、今度は僕も出てみるべきか」
「あの時は一人で、なんて言いましたけど、正直ちょっと怖かったですね。多いほうがいいと思います」
そうなのか。
誘拐対象でも探して目を爛々と光らせてたわけじゃなかったんだ。
俺はそんな言葉を胸の奥にしまった。
「それじゃあ、次の週末にみんなで出かけるのはどうですか?予定さえ合えばですけど」
「賛成ですわ。たまには身体を動かすのも良いものですの。許可はあとで使者をお父様とお母様に出して取っておきますわ。最近は冒険者もやっていませんでしたしね」
俺の言葉に、真っ先にシルヴィが賛成した。
貴族の娘とは思えないほどフットワークが軽い。というか、跡を継がなければ冒険者業をやっても問題ないのだろうか。
まあ冒険者業をやってないとあそこまで強くはならないか…
「んじゃ、オレも賛成。いっそ泊まり込みでキャンプとかどうだ?」
「…エルディラットの外に出るの?少し危ないけど…動物とかがいないところの情報、探してくる」
「一応戦えるメンツが俺、リーサ、シルヴィって感じで3人いるからその辺は大丈夫だと思うぞ」
「あ!それなら、ついでだから依頼を受けちゃおう!」
どんどん話が勝手に進み、決まっていく。
やれ何時集合だ持ち物はなんだと、キャンプに浮かれた様子だ。
イルク先輩がメモを取っていく。
「よし、19日七曜日から20日一曜日にかけてエルディラット外で宿泊…よし、申請してくる」
イルク先輩が車庫を飛び出していった。
「私も今日は帰る。ギルドに行って情報集めてくる」
マーリィ先輩もとことこと出ていった。
残された俺たちは顔を見合わせる。
「皆行動早すぎねえ?」
「オレたちは娯楽に飢えてるってことよ」
「お金と時間の両方が揃わなければ、楽しむことは難しいですからね。わたくしも、こう見えて夏休みにはいろいろと遊ぶ計画を立てていますのよ」
シルヴィ、言葉遣いとビジュアル以外お嬢様っぽくない。
大陸共通語はそこまで口調でキャラができそうな言語ではなかったので、翻訳スキルがなかったら多分普通の女の子にしか見えなかっただろう。
「んじゃ、俺たちも帰るか。もう夕方だしな」
「そうだね。明日から放課後に依頼探しに行こっか」
エルジュとシルヴィに手を振って、俺たちは車庫をあとにした。
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