40. 魔法陣解析
「これだ。客室の底面に魔法陣を彫ってある。これが完璧にさえなれば、僕たちは第二のアーヴェニル・オングスティートになれるんだが」
「アーヴェ…ってなんですか?」
「知らないのか…って、記憶喪失か…アーヴェニル・オングスティート。あの汎用魔道具の魔法陣を生み出した天才だよ」
「ああ、あの120年前の!リーサから聞きました」
しかし、オングスティートってどっかで聞いたような…
まあいい。とりあえず、それは後回しだ。
今はこの魔法陣を解析してしまおう。
「主陣は7環構成、F環3時と7.5時に副陣、G環12時に自己保持…6時にも…」
「…何を言ってるんだ?」
「いえ、気にしないでください。それより、なんで1日で落ちてしまうか原因がわかりました」
「この一瞬でか!?…よろしい、その原因とやらを聞かせてもらおう」
メガネを指で押し上げながら、イルク先輩は言った。
…この動作、本当にやる人いるんだ。
「一番外側にあるこの2つの魔法陣が何をやってるかはわかりますよね?」
「無論だ。魔力を吸い込み続ける魔法陣、これで大きい方に魔力を供給し続ける。だが1つだと動かなかったため、2つにしている」
「そこです。実は、2つだと多すぎるんです」
「は?でも、1つじゃ動かなかったが…」
「時間がかかるんですよ。1つでも2時間ほど待てば浮くはずです。その後は、1ヶ月は保つでしょう」
「1ヶ月!?…確かに2時間待ってはいなかったが…しかし、なぜ多すぎるとダメなんだ?」
「魔法陣は魔素…魔力の流れでできています。供給が多すぎるといっぱいになって流れがなくなってしまうんです。そして何秒かかけて魔法陣の外へ溢れていく。この客室が落ちるの、ゆっくりじゃなくて急にガタンとでしょう」
「完璧だ…本当に言い当てられてしまうとは思わなかった」
イルク先輩はぽりぽりと後頭部を掻いた。
「魔法陣はそれ一つで完成されたものではありません。魔力の流れが生み出す力を組み合わせて作るものです。魔力の流れという意味では手を組んで発動させるのも詠唱するのも同じことです」
「そんなの…聞いたことないぞ。一体どこでそんな知識を得たんだ…?君も百名家に連なる者なのか?いや、いくら百名家でもこんなことは…」
「わかりません。俺は記憶喪失ですから」
俺は適当にごまかした。
しかし、百名家か…また気になるワードが出てきたものだ。
「マーリィ、どう思う?」
「わからない」
「うおっ!?」
突然脇に現れたマーリィ先輩に、俺は驚いて飛びずさってしまった。
この先輩、存在感が希薄すぎる…!
「わからない、というのは?」
「彼が…ヒロキが言っていたことがわからないということ。魔法陣には意味があって、うまくいけば意味同士を組み合わせることができるのはアーヴェニルや私達が証明している。意味同士を組み合わせて新しく意味を作れるなら、その逆で分解も可能だろうとは考えられているけど…ヒロキの説は、意味の合成や分解といった定説を全部覆すことになる」
なるほど、間違いではあるが、正解への道を辿ろうとしている。
といっても、元素で言えば四元素説レベルのようだが。
せっかくだし、もう少し知っておこう。
「先輩、魔法陣の『意味』って何ですか?」
「『魔法陣言語説』…今の魔法学では、魔法陣は神のような超常的な存在が用いていた言語の一種だと考えられている。神の使った言語だから、この世界に介入するような力を持っている」
「…エルディラットでは宗教は禁止されているんじゃなかったんですか?」
「崇拝しなければ問題ないよ。神の力でも人間が使えるなら使いたい人が多いんじゃないかな」
「それはすごい考え方ですね…でも、魔法に神は関係ありませんよ。この世界の物理法則の元で起こる現象でしかありません」
言い切った俺に、先輩2人はぽかんと口を開けていた。
「ヒロキ…あなた、何者?」
「わかりません。俺は記憶喪失ですから」
やっぱ便利だな、この言い訳。
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