38. 宣言
「わたしは、あんたのその条件を受け入れる」
リーサは震える声で、そう言った。
「ほう、わかった。そうしてやろう。おい、俺様とそこの男の試合は最初に持って来い。最初にぶちのめして力量差をわからせてやる」
男性教師がコクコクと頷く。
「…間違っても試合前に俺らに手を出そうとか考えるんじゃねえぞ?いくら自分が弱いからって約束を破るのはクソダセェからな」
「ほざいてろ。んじゃそういうことで、俺様は帰るぜ。あぁそうだ、リーサ。処女は取っておけよ」
何から何まで最悪なワードを残して、そいつは去っていった。
ギャラリーが散り始める。
「…ごめん、俺のせいで…クソみたいなことに巻き込んでしまった」
ハッキリ言って、今の俺は後悔と自己嫌悪の中にいた。
数分前の俺をぶん殴りたい。
何がスカッとだ!何が快感だ!!
後先考えずにブチギレたままに行動して決定を下す奴のことを、世間一般じゃバカと呼ぶんだ。
あんなことに快感を感じるべきじゃなかった。何を言われようと無視を貫いておくべきだった。
「…大丈夫。わたしは、ヒロキが負けるとは全く思ってない、から」
そうは言いつつも、顔は青白い。
膝も笑っている。
目には涙を浮かべている。
当然だ、あんなグロテスクな性欲を剥き出しにして向かってくる大の男が怖くないわけがない。
一人でたくましく冒険者をやっていても、男たちと組んで誘拐を実行する胆力があっても、リーサはか弱い少女なのだ。
「…あんなことを言った手前、絶対に負けることはしない。戦闘系魔法のストックも防御の手段もある。必ずあの…名前忘れたが、とにかくクソ野郎をぶっ倒す」
「うん…信じる」
俺とリーサはまた歩き出した。
握ったリーサの手は、まだ少し震えていた。
10分ほど歩いたところで、俺は質問を忘れていたことに気がついた。
「ところで、俺はどこへ連れて行かれるんだ?」
「あ、そういえば言ってなかった。わたしたちの研究室を紹介するために、そこに向かってる」
「へぇ、研究室か…どんなところなんだ?」
「『魔法と科学の融合思想研究室』…略して
「めちゃくちゃある」
「ま、科学と魔法は別モノって考えが主流だから、今はまだ3人しかいないんだけどね」
「難儀だな。その研究室ってのは俺でも入れるのか?」
「うん、技術大学か附属に在籍していれば基本的には誰でも入れるよ。研究室によっては独自の入室試験を設けてるところもあるらしいけど」
さらに数分歩いて、ようやくお目当ての建物に到着したようだ。
「着いた。ここが
「なるほどね」
看板を見て納得した。
『
リーサが扉をノックすると、中から「入りたまえ」と声が聞こえてきた。
「こんにちは」
「おぉリーサ君!聞いたぞ、ジュルペとかいうクソ野郎に戦いをふっかけられたって…おっと、お客人かな?これは失礼」
まくし立ててきたメガネのイケメンが、俺を見つけて頭を下げる。
やたら動作が画になる人だった。
「僕はイルク・ハウジリッド。大学の2年生で、この
「ヒロキ・アモンです。今日高校に入りました。リーサの…まぁ、友達です。よろしくお願いします」
「あぁ、あの記憶喪失の人か!」
どうやらリーサから俺の話はすでに伝わっていたらしい。
「それで、リーサ君。ジュルペの件、本当かい?」
「その件に関しては俺から言わせてください。半分は本当ですが…戦うのは俺です」
そうして、俺はさっきあったこと全てをイルク先輩に話した。
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