37. 望まざる邂逅
「は?」
声をかけてきた男を始めとして、周りの人間がみんなそんな顔をした。
「しかもたくさん言葉も覚えられてえらい!でもね、そーんな下品な言葉は使っちゃだーめ。お兄さん悲しいよ?」
ギャラリーの一人が堪えきれずに笑いを漏らす。
男はぐるんと勢いよく首を回して、ギャラリーを睨みつけた。
「…この、バカにしてんのか?」
「こらこら、はしゃがないの。あとね、ここは高校っていうお兄さんお姉さんたちが難しい勉強をするところなんだ」
そして、俺は声色を変える。
子供に優しく接する声から、思い切り相手をバカにする声へと。
「ほら、はやく幼稚園に戻ろ?」
「こんの、やろう…ッ!!!」
案の定、男はブチギレた。
そのまま大きく振りかぶってきたので、俺は横にステップして避ける。
ついでに男に触れて、ちょっとだけ魔素を流し込んでやる。
「うっ…ぐ、ごぁ、ぼっ、おぇ…!?」
男はうずくまって、地面に昼メシをリバースした。
…どうしよう、これ気持ちいい。バカにしてきた相手をバカにした上でぶっ倒すのめちゃくちゃ気持ちいい。
そりゃ異世界チートモノもざまぁモノも流行るわけだわ。気持ちいいもん。
実際周りのギャラリーにも指差して笑っている奴がいる。そりゃこんな奴が一緒の学校にいたらクラスが40離れていても鬱憤が溜まるもんな。
「よし、行こうか」
「え、あ、うん…」
面倒事になる前にと、困惑するリーサを引っ張って、その場を離れようとしたその時。
「…これは、どういうことかね…?」
初老の男性らしき声。
おそらくは男性教師が駆けつけたであろうことに、俺は落胆せざるを得なかった。
「…だから、こいつがリーサに『媚び売ってる』とか『男に胸触らせた』とか侮辱してきたんですよ!周りの生徒もそれを見ています!」
「おうおう、じゃあこっちが言ってたのを見たやついるかよ!いねえよなあ!?」
男が周りに呼びかける。
さっきまで見ていたギャラリーはしんと静まり返る。
指差して笑っていた奴すら、沈痛な表情で下を向いていた。
「おい、お前俺がそんなこと言ったか?言ってねえよなあ!?」
哀れにも、最前列にいた女子が胸ぐらを掴まれた。
「い…言って、ないです…」
「…だそうだ」
男性教師は不本意そうな、申し訳無さそうな表情でそう言った。
…これはアレだ。みんなこっちに味方したいけど、コイツの権力がそれを許さないのだ。一体何者なのだろうかと考えを巡らせたが、その答えは本人の口からツバと一緒に飛び出た。
「当然だろう!!俺様はエルディラット唯一の赤魔法使いにして魔族、ジュルペ・アリーカー様だ!!そんな俺様がそんなことをするはずがないだろう!!!」
「ということだ。…アリーカー君に謝りなさい」
リーサが唇を噛み締めながら、頭を下げようとしたその時。
「おいおいおい、頭下げるだけで許すとでも思ってんのか?そこのゲロに顔面擦りつけて謝罪しろよ、なぁ?それが誠意ってもんだろ?あぁ?」
あまりにも横暴なその発言に、周りのギャラリーからは悲鳴が上がった。
「あぁ!?文句あるやつがいるのか!?俺は200万人に1人の赤魔法使いにして魔族だぞ!?いいのか俺様の機嫌を損ねたりして?お前らはこの学校にいたくないのか?」
俺は男性教師を睨みつけたが、顔を逸らされた。
スカッとしたと思ったら、今度はこれかよ。
「ほら!!さっさと顔面を擦りつけろよ、あぁ!?」
脚を震わせながら、リーサが膝を折ろうとする。
俺はそんなリーサの襟元を引っ掴んで止めた。
「やるわけ無いだろ。常識的に考えろ」
「んだとこの野郎!!!死にてえのか!?」
「まぁまぁ落ち着けって。突然だが宣言させてもらう。俺は新入生対抗戦にエントリーする。そこで勝敗を決めようぜ。勝ったほうがなんでも言うことを聞く、って条件でな」
「…ほう。おもしれぇじゃねえか」
乗ってきた!
こういうタイプは自分が有利だと思っている条件を出せば食らいついてくるタイプだと思っていたが、実際そうだった。
仕事での経験が活きた。
「そして、俺が勝った暁には、お前が二度とエルディラットの土を踏まないことを要求する。…端的な話、この街から出ていけってこった」
「ふん、いいだろう。それじゃ、俺様はお前をエルディラットから追放した上で…そうだな、そこのリーサとかいう女を俺様のモノにしてやろう。胸は無ぇしいけ好かない性格をしてるが、なかなかどうして顔も身体も良さそうだからな」
リーサは俺の後ろに回って、身を隠すようにしてしまった。
「…対戦相手は俺だぞ、ゲス野郎」
「対象がお前だけとは一言も言って無ぇよなぁ?それが無理なら今すぐにでもお前を追放してそいつを俺様の奴隷にしてやるんだがなぁ。わからんなら教えてやる、これは俺様の譲歩だ。お前が負けるまでは猶予を与えてやる、と言っているんだ」
最早ギャラリーは言葉を失っていた。
一体どうすればいい?いっそここでコイツを殺してしまえばいいのでは?
そんな最終手段が頭をよぎった、その時。
「…わかった」
後ろから、声が聞こえた。
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