24. 勉強タイム
美少女と2人きり、甘い勉強会。
そう思っていた時期が俺にもあった。
だがこれは、一つの言語を最初から学ぶことに他ならなかった。
異世界チートの一種である言語翻訳スキル(仮にあるとすれば)は耳から入ってくる情報と口から出ていく情報にしか機能せず、文字はよくわからない図形として目に映る。もちろん、日本語を書いたところで誰にも伝わることはない。。
ということで、文字と文法、そして単語に絞って教えてもらうことになった。
「この文は『私はりんごを食べる』。単語ごとだと『私』、『食べる』、『りんご』。…ねえ、これでいいの?わたし、単に文章をゆっくり読んでるだけなんだけど」
「大丈夫、ちゃんとわかる」
リーサが文章として読めば普通に文章として聞こえるし、単語ごとに区切って読めば文章としての翻訳はなされず単語ごとに聞こえる。
時間はかかるが、声のみが翻訳されるというこの特殊な状況においてはこれが一番だろう。
日本語の対訳を書きつつ文法を把握していると、リーサが不思議そうな顔をして覗き込んできた。
「…それが、あなたの使っていた文字?というか、あなたの国の文字?」
「俺がいた国の文字だよ。この世界には無いけど」
「この世界?」
「俺がいた世界にはこんな国はなかったからね。確実に違う星だろう」
「つまり…異世界ね。にわかには信じられないけど」
「俺も信じてなかったよ。異世界なんて、物語の中の話だと思ってた」
しばしの間、ペンの音だけが響いた。
ペンのインクが切れたタイミングを見計らってか、リーサが声をかけてきた。
「あなたの…ヒロキの世界は、良い世界だった?」
「そりゃまた、難しい質問だな」
ペン先にインクをつけ、書きながら考える。
「世界はともかく、悪い国ではなかったと思う。教育は行き届いていて、識字率はほぼ100%。だいたいどこも清潔。最近は戦争もなくて、生活保障もある。ただ…それでも、救いから漏れてしまう人はいる」
「確実に、この世界よりは進んでるね」
「そうだな」
再びペンをインクに浸しながら、俺は口を開いた。
「逆に聞いていいか?こっちの世界は…こっちの国は、どうだ?」
「…きっと、この国は悪い国ではないんだと思う。ヒロキみたいに何にも縛られなくて、しかも赤魔法使いの魔族なら、幸せになれると思う」
「そうか…リーサは?」
「まだわからない。赤魔法使いになれたからって、すぐに何かが変わるってわけでもないしね」
「そういうもんなの?」
「そういうもんなの。とりあえず、今週末に身分証の書き換えかな」
リーサは、幸せになれるのだろうか。
なんとなく、それが気にかかった。
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