7. 一筋縄ではいかない

「どうです?なかなか綺麗な街でしょう?街全体が壁で囲まれてることもあって、治安も結構いいんですよ」

「治安ね…」


 ついさっきガラの悪そうな男に絡まれた俺としては、ハイそうですかと言えるわけもなかった。


「ヒロキさんの服装を見る限り、多分このへんの生まれではないと思うので、最初は困惑することもあると思います。でもきっと気にいると思いますよ!」

「だといいんだけど…」

「…浮かない顔ですね?」

「まあ、慣れない地で心配になってるのかな」


 事実ではある。

 そもそも今まで俺は日本の一般的な住宅街に住んでいたわけだしな。


「そういえば、俺はどこに住めばいいんだ?」

「そういえば言っていませんでしたね。よければうちに来ませんか?」

「え!?リーサの…」

「うち、ちっちゃな宿やってるんですよ。どうせお金は国から出るんですし、お父さんもお母さんも1年間お客さんが泊まるなんて言ったら喜ぶと思います」

「…俺、こんな恵まれてていいのかな」

「うーん、記憶喪失になる時点で恵まれてなかったので、これでおあいこじゃないですか?」

「優しさが沁みる…」


 若干泣きそうだった。

 こんな美少女にいろいろ助けてもらえる時点で俺は恵まれている。

 そんなことを考えながらリーサのあとを追っていると、裏路地に入った。


「リーサ、市役所はこっちで合ってるのか?」

「はい、こっちが近道なんですよ」


 リーサは迷わずどんどん進んでいく。

 そうして何度か角を曲がったところで、


「よう、また会ったな」

「なっ…」


 咄嗟に身構える。

 さっき大学の前で因縁をつけてきた男だった。

 振り返ってみれば、後ろにも仲間がいる。


「…何が目的だ?」

「なぁに、ちっとついてきてもらおうと思ってな。お前の服は質がいいから、どうせいいところの生まれだろう。さっき下見しといてよかったぜ」

「なるほど、俺は最初から狙われてたってわけだ」


 俺は冷静を装い、やれやれと首を振った。


「…で、俺が着いていくのが嫌だと言ったら?」

「どうなると思う?」


 後ろから手が伸びてくる気配があったので、俺は男に向かって歩を進めそれを回避した。


「こうなるかな」


 そのまま目の前の男に触れ、手のひらから魔子を流し込む。

 体内の魔素の流れを勝手に弄るということは、神経に直接干渉するようなもの。


「ぐぉ…えっ…」

 

 凄まじい気持ち悪さに襲われ、どんな丈夫な人間でも立っていられなくなるのだ。

 眼の前の男も例外ではなく、口からよだれをだらしなく垂らしながらぶっ倒れた。

 魔学的手法ではあるが、魔法陣もクソもない護身術。この世界ではおそらく広まっていない。


「なにしやがった!?」


 仲間たちが印を結び、詠唱をし、魔法陣に手を置く。

 まさに自分の夢見た魔法戦闘だが、今は巻き込まれるのはごめんだ。

 こちらに来たときにも使った脳内魔法陣展開の印を結び、仲間たちに指を向ける。

 刹那、俺の指から赤いレーザー光のようなものが発射されて、彼らを貫いた。

 彼らは同時に、崩れ落ちるように倒れた。

 魔素の流れを魔法陣として解釈すれば、指先に魔素の流れを作って離れた人間の体内の魔素に干渉することも可能である。


「よし、片付いたな」


 俺は奴らが使おうとしていた縄を奪って適当に縛り上げた。とりあえず逃げられはしまい。


「さて、警察があればそこに届けるのが楽なんだけど…その前に聞かないといけないことがあるな」


 俺は呆然と立ち尽くす彼女に向き直った。


「どういうことだ、リーサ?」

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