4. 異世界には女神がつきもの
「ええと、助けていただいてありがとうございました。俺は、…私は
助けてもらった手前、何も言わないわけにはいかず、とりあえず俺は自己紹介をした。
「名前は覚えていらっしゃったのですね…それにしても、姓と名が逆とは珍しいですね?大陸の外の出でしょうか」
「すみません、よくわからなくて…」
「いえいえ…こちらも申し遅れました、わたしはリーサ・マルティルートと申します」
「リーサさん、ありがとうございます。本当に助かりました」
俺は深々と頭を下げる。
もっとも、頭を下げることが礼儀正しいかどうかは若干賭けだったが。
「そそ、そんなかしこまらなくていいですよ!わたしは当たり前のことをしただけなので…敬語も大丈夫ですよ、ほんとに、無理をなさらなくていいんです」
リーサと名乗った少女は胸の前で両手を忙しく動かしながらそう言った。
…どうしよう。あまりの育ちの良さにおじさん泣いてしまいそう。
「…本当にありがとう。こんな俺みたいなおっさんに優しくしてくれた人は、記憶の限りではあまりいなくて」
「おっさん…?わたしと同じくらいの年齢に見えますけど…」
「うん、俺は今年で30…」
そこまで言って、俺は自分の体をぺたぺたとまさぐってみる。
なんか、何もかものスケールが小さい。
そしてどうだろう。今の今までだいたい自分と同じくらいだと思っていた美少女はよく見れば中学生か高校生といった容貌だ。
「あれ…俺、やっぱまだ、記憶がおかしくて…」
「落ち着いてください。大丈夫ですよ、きっといつか思い出せます」
「…ありがとう」
何度目かわからない感謝の言葉を口にする。
俺は…精神まで彼女と同じくらいの年齢に戻っていたのか。
わけがわからない。
異世界転生やら転移やらするなら、最初に女神様が出てきていろいろ説明してついでにチートをつけてくれるのが常識だろうに。
まぁでも、こうして助けてもらったことを考えると、リーサは俺にとっての女神様だったのかもしれない。
…自分で考えてて小っ恥ずかしくなってきた。おっさん故の思考か、中二病故の思考かはわからなかった。
思考を逸らすため、俺はさっきから気になっていたことを口にした。
「それにしても、この馬車、揺れませんね」
「おお!ヒロキさん、お目が高いですね!さすがです!魔法を部分的に覚えていたのもそういうことでしょうか」
「魔法?いや、普通にサスペンションかと…」
「さす…?この馬車が揺れないのは最新の魔法技術によるものですよ」
「魔法技術?」
「はい。この客室を台車から少し浮かせています。赤魔法の、それも持続する魔法陣が客室に刻まれているんです」
赤魔法…おそらく窒素ベースの魔素を流す魔法陣。そして持続するということは、空気中から窒素を回収する自己保持術式が刻まれているのだろう。
ぶっちゃけ、大魔法理論が現実の世界で、自己保持術式がここまで実用化されている想定はしていなかった。
自分の作り上げた理論が思わぬ方向に作用しているのかもしれない。
「すごいな。加えて自動運転とは、すごい技術だ…」
「自動運転??」
「だって、リーサさん…」
「敬語は結構ですよ」
「…リーサは、御者台にいないだろ?御者台に人がいないということは、あれは馬の形をした魔法の道具みたいなものなんでしょ?」
「あー…この子はホゥミィちゃんと言いましてね、御者台に人がいなくても周りをみてちゃんと動いてくれる賢い子なんですよ」
「え…そうなの…?」
呼ばれたと認識したのか、ホゥミィちゃんがヒヒーンと声を上げた。
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