廃太子、そして
人見の瞳
第93話 安らぎの後にやってくるもの
ますます女狂いに近づいている僕のことはさておいて、狩りに向かっているサガラの各
今までよりも
これで日帰りにしなければ相当下の階層に潜ることだって可能だろう。
そして僕はと言えば、
最後の割合がかなり高いが、そのお陰で女性陣の魂位や能力値がぐんぐん上昇しているので立派な仕事だろう。元々の魂位が低い為か、娼婦達の上昇具合が凄まじいが見ないことにした。
さてそんな時間のお陰で悩んでいた連盟拠点防衛用の
それを語る前に、少し
複製体には魔石が二つ使われている。肉体を構成する為の魔石と、僕の記憶を受け入れる為の魔石。二つ目の魔石には新しい記憶も宿るようにしているので、いつも僕はこの魔石から記憶を取り出している。
肉体は戦闘能力を失くす代わりに知能や判断力を付加させ、食事や排泄などを可能としている。
防衛用の人形体もこれを参考にして改めて作ってみることにした。
知能や判断力用の魔石を一つと肉体を構成する為の魔石を一つ。ただこれでもやはり難航した。戦闘力は根本的に魔石の質が足りない。知能や判断力は生まれたのだが、問題は何を敵として設定するかだった。
下手な設定をすれば客や連盟員を唐突に襲うかも知れない。敵味方を識別する条件を詳細に付けようとしたら、やはり魔石の質が足りないのか上手くいかなかった。
これに関して悩んだ結果、
敵味方の識別条件を、僕の
つまり、僕や『ミミリラの猫耳』の関係者以外が近づいた時点で攻撃するという形だ。これなら複雑な条件付けは不要だし、敵味方を間違えることもないだろう。
現在連盟拠点で最も警護しなければいけない筆頭は娼館だ。
よってきちんと検証をし、確かに敵味方の識別が可能となった人形体を数体作り、娼館の入口と周囲に配置した。
娼館に入るのは原則僕か娼婦、そしてサガラの女衆だけ。
サガラの男衆はそもそも近づかないし、客だって邸宅の裏手に回ることは先ず無い。ならば娼館に勝手に近づいた奴は例え誰であろうと敵認定で構わないだろう。
娼婦達には僕の冒険者複製証明証を普段から決して手放さないように言っているので、間違って攻撃されることは無いと信じたい。
ただやはり魔石の質が悪いせいで、戦闘能力はそこまで高くすることは出来なかった。それでも一応冒険者の実力第4等級までなら倒せる筈だ。
一瞬だけ、ジャルナールに譲った『
そしてこれは余談的な話になるのだが、実はこの人形体について娼婦達に説明している時、不思議なものを発見してしまった。
娼婦達が持っている僕の冒険者複製証明証にきちんと僕の魂の波動が宿っているのか【
不思議に思い他の娼婦を見るとほぼ全員が混じっているようで、疑問に思いながらミミリラを見るとかなり濃く僕の魂の波動が混ざっているのが分かった。ニャムリやピピリもまた同様だ。
後でサガラも確かめてみたが、女衆は全員に混じっていて、男衆と使用人組には全く混じって居なかった。
ここから推測出来るのは、僕と交わったことがある女性だけに混じっているということだろう。聞いたこともない現象に暫く悩んでいたが、幾ら考えても答えが出ないので保留しておくことにした。
軽く言っているが実際かなり気にはなっている。人の構造上有り得ない現象なのだから。
そんな感じで日々を過ごしていたある日、ジャルナールから連絡が入った。
※
『とうとう王城からそれが出立したと?』
ジャルナールと会話をしながら、僕は目の前に浮かぶ羊皮紙を見ていた。
これは王城から正式に送られてきた先触れの文書で、使者を送るのでよしなに、という内容のものだ。
『ああ。向こうは馬車。多少出発の誤差はあれどこちらの方が早く報告が来たと言う訳だ。あと二日くらいかの』
『今から逃げたら怒られるかな?』
『どちらにせよ登城せよというお達しは下るであろうな』
『だろうなぁ』
『ミミリラの猫耳』の連盟拠点に向けて王城から使者が出立した、という情報を手に入れたジャルナールから連絡があったのは朝、サガラ女衆と娼婦達に埋もれている時のことだった。
女の匂いと感触に満たされる中、その報告を聞いた僕はつい苦笑を浮かべてしまった。
王城から使者が来るなんて、間違いなくザルード領の
それに向かって来ているのは使者と護衛の騎士や兵士のみだと言う。本気で僕を裁判などで王城に連行したければ軍の一つは連れて来るだろう。
『誰が来るの?』
『宮廷貴族はマーシェル伯爵じゃの』
『ああ、あの歩く帳簿の』
『商人からすれば最高の賛辞じゃの。羨ましいことじゃ』
『まぁこの国で戦士から内政官に職を変えて、伯爵まで上り詰める人は居ないと思う』
マーシェル伯爵は、元は武門で生きる子爵家の嫡子として生まれ育ったと言う。
後に戦や紛争時の兵站だけではなく、平時の国王直轄領内に於ける税や財を運用する財政官に任官された。これは税や財の管理だけをする財務官とは違う。
そして彼は周囲がぐぅの音も出ない程の優秀な結果を見せつけ、武門の出でありながら内政官として伯爵位を授与されたある種の化物だ。
付いた二つ名が『歩く帳簿』。例え大臣や官職に就く者、その他の宮廷貴族ですら王城内ではこの伯爵に頭が上がらないと言う。
ちなみにこの伯爵、実際に戦わせても相当強いという真偽定かでない情報もある。生まれた子爵家が生粋の武闘派であることからこう言われている。
来た時には是非
『それにしても、勲章だけなら良いけど爵位もあったらどうしよう。ジャルナール要る?』
『そんな恐れ多い。わしは気楽に商人をしておるよ。それより貴族になったらほれ、御用達にしてくれ』
『お前もう王室御用達、今は王太子御用達だろうに』
『なに、一つも二つも構うまい。どうせ今は『ミミリラの猫耳』御用達じゃ』
『何も変わらんな』
二人して笑う。
まぁ先程も述べたように、今回の王城呼び出しに関しては先ず間違いなく大発生を鎮めたことに対する勲章授与だ。傭兵として戦で凄まじい戦果を上げたと言うなら話は変わるが、今回の行いからして爵位の授与は無いだろう。ジャルナールも僕もそれが分かった上での
でも、絶対に無いと言えないところが悩みものだ。
『しかし、実際爵位が含まれていたら困るな。準男爵なら問題無いが、五爵は名前だけとしても貴族は貴族。
『恐らく無いであろう。栄達を望む冒険者なら既に貴族に仕えておる。お主程の力を持ちながら冒険者を続けておるのなら、自由を望んでおるとは国王陛下もご理解なさっておられるだろう』
『確かにな。爵位の押しつけは冒険者の反感を買うか』
『左様』
僕は動く手の範囲で女の身体を弄びながら、浮かべていた羊皮紙を【
『ま、中身がばれるでもなし。大人しく行ってさっさと帰って来るかな。ついでに何かでかい魔獣狩ってくるか。最近金を出させてばっかりだからな。連盟員含めて軽く三万枚は飛んだだろ?』
『聞いておる限りでは四万枚程度じゃの、ほっほ』
『笑って済まして良いのかそれ』
領地持ち伯爵級でも頬がヒクつく金額なんだが。
『何の何の。長年に渡って王室をお世話続けた商会じゃからの。それに商会長の時に稼ぎに稼いだ。問題はない』
『お前さん色々やってたって聞くよな。まぁ聞かないけどさ』
『とある御方の忠実なる臣下。お主とは蜜月の冒険者と商人。ただそれだけの男じゃよ』
『違いない』
何やら手元の女が動き出したので逃がさないようにがっちり掴む。
張りがあるのに柔らかすぎて掴みづらい。
『まぁいいや。実際価値のある魔獣の素材って時価でもあるんだろ? 図鑑にはある程度の希少性は載ってたが』
『素材や材料と言うものは実際のところ、需要が切れることはない。欲するのは冒険者達だけで無く兵士や市民、幅広くおる。武器防具だけではなく、日用品にも用いるでな。あればあるだけ持って来ればよいよ。価値が低いものこそあれど、不要なものは殆ど無い。例え不要でも砕いて処理すれば肥料になる』
『じゃあ冗談抜きで危険度第5段階でも狩ってくるか。良い値段するだろ』
『あっさり言うがな。危険度第5段階の素材ならお主がここ最近使った金額なぞすぐに埋まるからの』
『……本気で忘れてた。ザルード領で入手した万を超える魔獣の毛皮とか骨とか丸々残ってるぞ。危険度第5段階だけでも二千体分はあった筈だ』
『あとで素材取引場に持って来てくれ。わしも行く』
ジャルナールが真面目な声を届けてくる。これは本当に金になる。
って待てよ。と言うことは、危険度段階の4から5の魔獣から稀に出ると言う魔石、もしかしたら大量にあるのか? この後すぐにでも確認しよう。
『了解。昼過ぎに行く。出る時にまた連絡入れるさ』
『了解した。ではまた後での』
『ああ、報告助かった』
『何の』
完全に連絡が切れたことを確認して息を吐く。
そして、思わず呟いた。
「王城か」
《王城に向かわれるのですか?》
いきなり声が届いたので見ると、ミミリラが綺麗な瞳と可愛い小顔を向けてきていた。こいつ本当に美少女だよな。交われば交わるほどに綺麗になっていくって本当にずるい。この間の件からどれだけ求めても足りない。
と言うか心の声が来たことで気が付いた。周りにはアンネ達が寝ているんだったな。迂闊だった。
《ああ。今使者が向かってるってさ。間違いなく王都お呼び出しだろうな》
《お供をしても大丈夫でしょうか?》
《王城の中は難しいが、王都なら問題ないな。どっかの宿で待機になるが》
《私はそれでも嬉しいです》
《じゃあそうするか》
《はい》
と、ここで他の女衆も会話に参加してくる。
《王都は初めてですね》
《美味しいもの食べるのん》
《楽しみですねぇ》
《ですです》
《と言うか皆初めてなのでは?》
《男衆の誰かなら居るかも知れないですね》
《お前達起きてたのか》
この場に寝ていたジャスパー集合体全員の声が入り混じる。
人数増えると凄いな
《これ便利ですねー。ジャスパーさんの考えてることや感情が薄ら伝わって来ますし。今まで三人で独占してたのがずるいですねぇ?》
《ほんとです》
《ずるいですね》
《気づいてはいましたけど、やっぱり良いですね》
それを聞いたミミリラが、ほくそ笑むような感情を全員に伝えながら言う。
《まだ甘い。本当に繋がると王太子殿下のお考えが鮮明に伝わってくる。王太子殿下が自らお声を発せられなくても全部分かる。だから王太子殿下が何を望んでるのか無意識の次元で理解出来るようになる》
《すっごく気持ち良いですよ》
《心が満たされるよ?》
ピピリの喋り方が真面目だ。この時のピピリってかなり病んでる感じなんだよな。
もちろん本気で褒め言葉だ。
《やったのん》
《え、今ジャスパーさん何か思ったんですか?》
《やっぱり甘い》
《ジャスパーさんの情婦を名乗るには程遠いですね》
《本当に羨ましいです》
ミミリラ達三人以外の獣娘達が不満気な声を上げるが、心の声を読み取れないのはこっちもだし、お互い様だと思うんだけどな。
「さて、全員起こして飯でも食おうか。おいアンネ起きろよ。お前達も娼館での飯があるだろ」
余程に疲れているのか、アンネは揺らしても起きる様子を見せない。
仕方無いので敏感なところを弄り続けていると、ようやく気だるそうに身体を起こし始めた。そんな姿ですら妖艶に映るのだから凄いと思う。
「ジャス……貴方本当に底無しよね。娼婦って普通殿方より早く起きてお世話するのが当然なんだけど」
「違うところで世話してくれれば良いさ。一緒に寝るだけでも世話になる」
「そう言ってくれて助かるわ」
そう言うと、アンネは軽い口付けをしてから他の娼婦達を起こし始めた。
その光景を見ながら、僕もこの後の予定を考える。
「飯食ったらちょっと運動するか。戦闘訓練って要るだろ。俺もそうだけど、俺を仮想敵にしてお前達七人での
「ジャスパー。私達は危険度第7段階を相手にすることは無い」
「ええ。戦闘訓練ではなく生存訓練になりますよ」
「走る訓練なのん」
「せめてヒムルルとかにしませんか? あれなら思いっきりやれます」
「ですねぇ」
「ジャスパーさんと寝るようになって増したこの力を発揮する時ですです」
「私も良いところ見せたいな」
何気にミミリラが一番酷いことを口にしている。
危険度第7段階は歴史上存在が確認されている、大陸が滅びる程の力を持つ魔獣に当て嵌めた段階だ。
少なくともアーレイ王国が建国されて現在までその存在が確認されたことはない。そもそもその魔獣が現れた時点で我が国と周辺国家は既に存在していないから、記録になんて残る訳がない。いや、初代アーレイ王なら何とかしたかも知れないな。あの御方は存在が危険度第7段階だから。
そんな化物に主人を例えるとは、ミミリラは中々に口が達者だ。ある意味最上の褒め言葉に違いは無いが。
あと、どうしてヒムルルを的確に狙った発言が出るんだろう?
彼は彼女達にとっては副族長になる筈だし、非常に丁寧で好印象しかないんだが。強くて頼りにもなる奴なのに、何か恨まれるようなことをしたんだろうか。
そしてふと気づく。
こいつらが自分から男と戦うなんて言葉にするということは、だ。
「……ああ、お前らもしかして、あの武器防具類を新調してたのって男に触れないように戦う為か」
「正解。あれならギリギリ許容範囲……になる?」
「ああ、それなら許す。直接触れなきゃ誓いや契約の反故にもならないだろう。まぁ命懸けには違いないと思うが」
「分かった。離れたところから魔術で潰す」
もしかして苦しいのを我慢して革の胸当てを着けようとしてたのも、その辺りが理由だったのかな。胸とか尻は肌に触れなければいい、と言う部位じゃないから。
しかし本当にヒムルルは何をやったんだろう?
今度聞いてみようかな。
後日聞いてみた結果、単純にミミリラを除いて一番強いからだったそうな。
言い方を変えれば、遠慮無く全力で攻撃していい相手、と言う訳だ。哀れ。
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