無能王太子の日々徒然

こうしゅう

囚われた精霊獣

檻の中の精霊獣

第1話 自己紹介

 唐突ではあるけれど、僕、カー=マイン・カラーレス・ジ・ガーランド・ル・カルロ=ジグル・アーレイは国王の第三子である。

 王の側室二人が子を産んだ後の、王妃である母上から産まれた待望の王太子だった。


 そう、“だった”のである。


 今では国王が所有する別宅の一つに十歳の頃から療養という名の軟禁を受ける、ただの子供だ。


 我がアーレイ王国は封建主義国家であり、また実力主義国家でもある為、強さが最も尊ばれる。

 御歴代でも最強と名高い今上きんじょうの国王と、国内でも有数の強者として名高い公爵家当主の長女との間に産まれた僕は、それはもう周囲から期待されたらしい。


 しかしながら、成長するにつれて如何に僕が能無しかが判明してきた。

 五歳になった時、王侯貴族の子であれば必ず受ける能力検査で、平民でもそうは見ることのない才能の無さが発覚してしまった。

 十歳になった時、二度目に行われる能力検査でもそれは変わらないままだった。五年経っても、僕には一切の成長が見られなかったのだ。


 我が国では才能が極端に無い王侯貴族は無能と呼ばれる。


 周囲は大層落胆したそうな。僕も検査結果を目の当たりにした周囲の表情と視線は今でも覚えている。


 本来であれば廃太子となるは必至、下手をすれば存在そのものを抹消されてもおかしくなかったのだが、そこは我が母上である王妃が黙ってはいなかった。

 黙ってはいなかったというか、周囲が黙らざるを得なかった。


 父上である国王は、王妃である母上にそれはもうベタ惚れだそうで。母上に僅かな無礼もあったなら、神であろうと斬り捨てんばかりに大切にしているとのこと。

 僕に才能が無いと分かった時、母上は泣きに泣いたらしい。僕の情けなさに涙したのでは無く、その結果訪れる僕の運命に落涙したのだそうな。


 そんな母上の姿を見た父上は僕を廃太子としない代わりに別宅で療養という形をとることにした。それも、絶対に冷遇をしないと母上に誓った上で。

 流石に王宮に置いておくわけにはいかなかったのだろう、国王として出来る最善の手がそれだったのだ。

 まぁそれを聞いた母上が「では私もカインと一緒に行きます」と泣くのを引き止めるのに大層父上は苦労したそうだけど。


 そして僕が無事でいれたのは、もう一つ、母上の生家の存在があった。

 母上の実家であるザルード公爵家は王国屈指の武闘派だ。強さを尊ぶこの国に於いてその存在感は絶大なものがあり、他国との戦争では当然のように当主自らが先頭に立つくらいには戦闘一族だ。


 僕はザルード公爵家長女と国王の息子で、王太子だ。つまり、将来の国王である。そんな僕が廃太子なんてことになれば、如何に強さを尊ぶ王国であろうとも公爵家としては絶対に面白くない。

 なにせ孫が国王になれば親縁となり、王国の中での発言力も上がるからだ。

 そういった事情もあってかは知らないが、僕は何とか無事に廃太子と命の危機を免れたということである。


 余談ではあるが、公爵家当主であるジード・フレイム・ル・ガージス・ド・ル・ザルードは、女は婚姻の道具として扱って当然の貴族の中に於いて、全くの異質であった。

 父上も母上にベタ惚れだったそうだけれど、公爵家当主の我がお祖父様は母上のことを目に入れても痛くない程に可愛がっていたらしい。


 そんな可愛くて仕方ない娘が産んだ孫である僕のこともまた可愛かったのだろう。普段領地に引き篭らなければならない筈なのに理由をつけては王城に参上していたらしい。

 もしかしたら公爵家の面目云々よりも、父上はお祖父様のその想いを知っていたから軟禁で済ませたのかな、と思わないでもない。


 そんな訳で、十歳の頃から大きすぎる別宅に閉じ込められていた僕も先日十五歳を迎えた。

 この国というか、この大陸では十五歳とは成人を意味する。本来であればさぞかし素晴らしい盛大なお祝いパーティーが開かれていただろうけれど、勿論そんなものは無かった。

 特定の場所からは盛大なお祝いと、また違うところからは当たり障りの無いお祝いが送られてきていたけれど、本来に比べたら些細なものだ。


 本題は、十五歳を迎えた時に気付いた僕の才能についてだ。気付いたというよりも、目覚めたといった方が正しいかも知れない。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

カー=マイン・ル・カルロ=ジグル・アーレイ

種族  人族・人種

魂位  1

生命力 100/100

精神力 100/100

状態:


力    1-1

速度   1-1

頑強   1-1

体力   1-1

知力   1-1

魔力   1-1

精神耐性 1-1

魔術耐性 1-1


魔術属性

光    0-0

闇    0-0

火    0-0

風    0-0

金    0-0

土    0-0

水    0-0


技能


攻撃系技能:

防御系技能:

補助系技能:

回復系技能:

属性系技能:

特殊系技能:

固有技能:

種族技能:

血族技能:

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 これが僕が十五歳になるまでの個体情報ヴィジュアル・レコード、所謂能力値ステータスだ。

 詳しい説明は省くとして、もうぱっと見で雑魚ということが伝わると思う。


 能力の数値は等級で表され、1から7まである。特に戦闘訓練を受けていない健康体を持つ成人の平民で大体3が平均だ。

 数字が左と右にあるのは簡単だ。左が現在の等級値、右がその等級値の中での1から7を表す。要は右側の数字は、左側の等級値のピンキリだ。1が最低で7が最高。

 勿論この数値が絶対とは言えないけれど、大凡の目安にはなる。


 そして僕は目安なんて関係ないくらいに雑魚。もう下手したらその辺の子供と喧嘩しても負けるかも知れないくらいに雑魚だった。


 しかし、これが十五歳の誕生日を迎えた時に変化した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

カー=マイン・カラーレス・ジ・ガーランド・ル・カルロ=ジグル・アーレイ

種族  人族・人種

魂位  1

生命力 100/100

精神力 100/100

状態:(全ての能力等級値が低下している)

   (全ての能力等級値が上昇しない)

   (個体情報が秘匿された状態にある)


力    1-1(1-1/6-7)

速度   1-1(1-1/6-7)

頑強   1-1(1-1/6-7)

体力   1-1(1-1/6-7)

知力   1-1(1-1/6-7)

魔力   1-1(1-1/6-7)

精神耐性 1-1(1-1/6-7)

魔術耐性 1-1(1-1/6-7)


魔術属性

光    0-0(0/6-7)

闇    0-0(0/6-7)

火    0-0(0/6-7)

風    0-0(0/6-7)

金    0-0(0/6-7)

土    0-0(0/6-7)

水    0-0(0/6-7)


技能


攻撃系技能:

防御系技能:

補助系技能:

回復系技能:

属性系技能:

特殊系技能:

固有技能:(【全能力低下】【能力固定化】【個体情報隠蔽】【技能解除】)

種族技能:

血族技能:

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 これを見て、何となく理解できた。


 多分僕は才能が無かったんじゃなくて――自分で言うのも烏滸がましいけれど――才能がありすぎたんだと思う。

 でもそれを子供の頃から発現すると身体と精神がもたないから、本能的なのか無意識なのか、あるいは誰かがしたのか分からないけれど、封印してしまっていたのだと思う。


 (6-7)とか見える数字は多分、出そうと思えばその能力値を使えるってことなんだろう。あるいは【個体情報隠蔽】とやらで隠している状態なのか。

 まぁ、言いたいことは分かる。生まれたての身体と精神しか持ってないのに、英雄級の能力を使えば一瞬で身体が吹き飛ぶか精神が壊れてしまうだろう。

 それでも自分の才能が自分の才能を殺すっていうのは、皮肉にも程があるだろうと、一人ベッドの中でため息を吐いたものだった。


 今更過ぎるのだ。


 幼い歳の頃から無能だと言われ親から離され、使用人と兵士だけの無駄に大きな屋敷で暮らす、ということを五年もしてきたのだ。

 今更英雄級の才能があります、なんて言われても「ああそうですか」というお話だ。


 どうせ次の国王は母上が二番目に産んだ、何故か僕に懐いていた弟がなる。そうでなければ第二側室が産んだ異母兄である第一王子がなることだろう。

 廃太子されてないとはいえ、実際には継承権なんてほぼ無い僕にはもう関係のないことだ。


 なので、僕はこれからものんびり死ぬまで余生を過ごしたいと思う。


 ただ、折角健康的な身体を得る機会を手に入れたのだから、ちょっとその辺で魔獣とかを狩って魂位レベルを上げたいとは思う。王城の一部と王宮に宮廷、後は馬車での移動や大貴族の屋敷しか歩いたことがないので普通に外にも出てみたい。


 婚姻することはないだろうけれど、女性との経験もしてみたい。仮にも王族の直系の胤を持つので、その辺の女性と子を成すことはできないだろうから実際には無理かも知れないけれど。

 もし子供ができたら僕はともかくその女性がどこか闇の中へと消えていくだろうしね。


 そんな訳で、成人を迎えたことだし、今日からという日を脳裏に焼き付けていきたいと思う。将来時間があればこれを自伝のように記していくのも良いかも知れない。

 それを読むのはずっと先の僕かも知れないし、完成した書物を開いた君かも知れない。けれど、よければどうか付き合ってくれたら嬉しく思うよ。


 これは十五歳を迎えた、無能と呼ばれた王太子の詰まらない日々の始まりだ。

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