番外編 メリークリスマス! 3
さて、アリスが思いつきで始めたクリスマスだったが、久しぶりに招集された仲間たちによってあっという間に物事が決まっていった。
「変態、レヴィウスのお菓子屋さんは30件協力してくれるって」
「ルーデリアはほぼ全ての菓子屋が協力してくれるそうだ。フォルスはどうだ?」
「うちも半数は協力してくれるそうです。アリスのレシピを見てそのまま販売してもいいか? という意見も来ていますよ」
「もちのろんだよ! クリスマス限定のお菓子って実は沢山あるから、他のレシピも今回助けてくれた所に渡すよ!」
アリスのお菓子レシピは今や大人気である。
「それはいいですね。アリスのお菓子レシピは喉から手が出るほどほしいのではないでしょうか。ではそのように伝えます。そうしたらもしかしたらもう少し協力してくれる店が増えるかもしれません」
言いながらシャルルは手帳に書き付けていく。
「楽しみだわ! クリスマスがこの世界にもとうとうやってくるのね!」
喜ぶシエラにアリスは大きく頷いた。
「そうだよ! 今まではうちだけでやってたお祭りだけど、やっぱこういう楽しいのは全世界に広めなきゃ!」
「アリス、私も大賛成よ。あなたの言う通り年末はどうしても気分が落ち込んでしまう人が増えるもの。来年への夢も希望も無いなんて人の話も聞くわ。でもね、キリではないけれど、どうしてもっと早く言わないのかしら?」
にっこり微笑んだキャロラインを見るなりアリスはすぐさまシエラの後ろに隠れた。その笑顔が美しいやら怖いやらで複雑なアリスだ。
「でもお嬢様、今から楽しみですね! ライアン様もきっと喜びますよ!」
「いやね、ミアってば。ライアンはまだ理解できないわ。でももう少し大きくなったらきっと喜ぶんでしょうね。その時が今から楽しみよ」
キャロラインが経験した初めてのクリスマスはまだ学生の時だった。深夜にアリスが怪しい格好をして壁をよじ登って部屋に侵入してきた日の事は今でも忘れられない。枕元にプレゼントが置かれてとてもワクワクした事も。
「ところでアリスちゃん、クリスマスにプレゼント配るのはいいんだけどさ、どうやって配んの? まさか一軒一軒回る訳じゃないよな?」
カインの疑問に答えたのはノアだ。
「そのまさかだよ。一軒一軒回ってもらうよ。全世界に居る小さなサンタさん達にね」
そう言ってノアは一通の手紙を取り出した。それは妖精王からの手紙だ。それを読んだカインもフィルマメントもギョッとしたような顔をしてノアを二度見する。
「お、お前、何て契約してんだよ!」
「そうだよ! パパの力をこんな風に使うなんて!」
「今は平和でどうせ妖精王も暇でしょ? それに契約内容見てよ。クリスマスのお菓子一式で喜んで引き受けてくれたんだから問題ないない」
どうやって子どもたちにお菓子を配るか。それが問題だったのだが、よくよく考えれば全世界に妖精たちは住んでいる。その妖精たちを使えば簡単だと言うことに気づいたノアである。もちろん対価はお菓子だ。
「それ、メイリングはどうすんすか? あそこはまだ迂闊に妖精近づけるの無理っすよ?」
「うん。だからあそこには姿を消すことが出来る妖精たちを集めたよ。師匠に頼んでもらったら快く引き受けてくれたみたい。とはいえメイリングにはもうあんまり子どもは居ないみたいだけどね」
あの戦争が終わって孤児や奴隷として売られていた子どもたちの殆どはレヴィウスに保護された。残っているのはわずかな一部の貴族の子たちと平民、貧民層の子どもたちだけだ。
「流石兄さま! やっぱ最初から頼んでおけば良かった!」
「ほんとだよ。どうしてこんなギリギリになってやるのかな、アリスは」
アリスのおでこを指先で軽く弾きながら言うと、アリスはおでこを押さえてニカッと笑う。
「えへへ、ごめんなさい」
「ごめんなさいなんて微塵も思っていないでしょう? 大体あなたはいつもいつも計画性というものが――」
いつもどおりのキリのお小言を聞きながらアリスの頭の中は既にクリスマスで一杯だった。
ノア達にも話さなかったもう一つの秘密。これだけはアリスが実際に一人でやるつもりである。アリスからの皆へのクリスマスプレゼントだ。
説教の途中に「にひひ!」と笑うアリスのおでこをキリは平手で打つ。いつもの光景である。
こうしてクリスマス計画は殆どの人達に何も知らされないまま着実に進んでいった。
一方アリスは忙しく走り回るノアとキリを他所に相変わらずスミスの小屋に通っていた。
アリスが皆に秘密にしているもの、それは特大のクリスマスツリーだ。
これを全世界の広場に一斉に出現させる。もちろん運ぶのはアリスとドラゴン達だ。そのために毎日の練習は欠かせない。
「そこ! グリーン・ドラゴン! 木が斜めだよ! 真っ直ぐ立てないと倒れて事故起こすよ!」
「キュ!」
グリーン・ドラゴンはアリスに言われた通り地上に練習用の木を突き刺した。あらかじめ開けておいた穴に木を植えて素早く足を使って土で埋める。完璧だ。根本から抜いてきているのでこのまま根付いてくれれば言うことなしだ。
「よし! いいね!」
「ギュギュ!」
「他の皆もちゃんと真っ直ぐ立てるんだよ! レインボー隊はちょっと離れた所からちゃんと指示出すように! お手伝いに行く子たちはしっかり木が埋まるぐらいの穴を掘ってね!」
アリスの言葉に動物たちがそれぞれに返事をする。それを傍から見ていたスミスとザカリーとスタンリーが見て笑っていた。
「いや~しっかし壮観だな。よくこんなでっかい木集めてきたな! 下の方の枝はクマたちが取ったのか」
「ほんとっス。これ鉱夫のおっちゃん達に頼んだんっスよね?」
「そうじゃ。わしも手紙を書くのを手伝ったんじゃ。で、お嬢飾りの方はどうするんじゃ?」
「飾り? 飾りはね、私の秘密をバラしたあいつらにお願いしてきた!」
そう言ってアリスは親指を学園に向けてニカッと笑った。
学園では今、アリスの計画を聞いた生徒や教師たちがこぞってツリーにつける飾りを魔法や技術を使って作ってくれている。その中には動物たちが割ったり破いたりした飾り(?)も含まれていた。
最初は面倒くさがったイーサンだったが、案外魔法のいい練習になると言って今は毎日続々と飾りが届く。
「25日まであと4日か。よし! スタンリー、今年最後の仕事だ! 戻るぞ!」
「うぃ~っス」
「ありがとね~! 二人共~!」
歩き去っていく二人の背中にアリスは手を振ると、指揮官をスミスとレッド君にお願いして今度はチームキャロラインの元へ向かう。
「やぁやぁやぁ!」
「アリス様! ちょうど良かった! これさっき仕上がったってミアさんから送られて来たんですよ。一回袖を通してもらえますか?」
「おぉ~! これはどこからどう見てもサンタさんの衣装! 素晴らしいっ!」
アリスは言いながら袖に腕を通してみた。いい感じである。何だかすごくしっくりくる。ドラゴン達とアリスのサンタ衣装はあらかじめチームキャロラインに任せておいたのだ。それが功を奏して何とか当日までに間に合った。
「ありがとね皆! お礼はちゃんとするから!」
「お礼なんてとんでもない! こんな楽しそうなお祭りの裏方をやれるなんて滅多に無いことですから! 当日が待ち遠しいです」
裁縫がとにかくからっきしなアリスは最初はハンナに頼んだ。
けれどハンナは動物たちの衣装や角や赤鼻を作るのに精一杯で忙しすぎた。そんなハンナが頼ったのはサマンサとステイシアだ。それを聞いた二人は相談してそのまま情報をチームキャロラインに流したというわけである。
つまりごくごく一部の人たちはアリスが25日に何をしようとしているかは既に知っているのだ。そしてそれを今から楽しみにしている。
「24日の深夜、広場に現れるツリーを楽しみにしててね!」
「はい!」
そう言ってアリスはスキップしながら衣装を抱きしめて帰って行った。本当に毎度毎度お騒がせアリスだ。ちゃっかり色んな人を巻き込んでいた事を知ったノアとキリの怒りが怖いが、そこは多めにみてほしい。
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