番外編 メリークリスマス! 2
アリスはクリスマスの事をこんな風に言っていた。
『クリスマスはね、大人だけが楽しいんじゃないんだよ! サンタクロース協会の人たちが全世界の子どもたちにおもちゃとかお菓子を配る日なんだ! この世界にサンタさんは居ないけど、誰かが代わりをやったらきっと皆喜ぶんじゃないかなぁ?』
それを聞いてスミスは楽しそうだと思ってしまった。
アリスに出会ってから驚くことも沢山あったが、それ以上に笑うことが増えた。今ではアリスに憧れて学園に入学してきた生徒たちがしょっちゅう尋ねてきたりする。アリスのように畑を耕し、料理やお菓子を持ってここに集まってくる。そんな子どもたちにスミスも何かしてやりたい。だから今回の計画を聞いて喜んで場所を提供したのだ。
目の前ではレインボー隊の指示に従って動物たちがそれぞれアリスに頼まれた仕事をしている。どこからともなく拾ってきた綺麗な布やガラスなどを割ったり破いたりして楽しそうだ。
それからしばらくして、ようやくアリスが戻ってきた。
「スミスさ~ん! 皆~!」
「おお、おかえり。これはまた凄い量じゃな! ほれクマ達、お前たちの仕事が出来たぞ」
それを聞いてクマ達が待ってましたとばかりに駆け寄ってくる。
「皆、おまたせ~! それじゃ、いつもみたいにお願いね!」
「ぐぉ!」
アリスの掛け声にクマたちはレインボードラゴンが持ち帰った物をそれぞれに加工しだした。それを見てアリスはうんうんと満足げに頷いている。
早朝から夕方までたっぷり作業をしたアリスが、疲れ果てたザカリーとスタンリーにアリス特製ポーションを渡してバセット家に戻ると、そこには怖い顔をして立っているノアとキリが居た。
「アリス、ちょっとこっちおいで」
「な、なに? 兄さま。私ちょっと疲れてるんだけどな~」
目を泳がせながらそんな事を言うアリスの耳をノアが容赦なく引っ張る。
「先に僕たちに何か言うことあるんじゃないの?」
「い、言うこと? な、ないよ?」
「ない訳ないよね? 最近毎朝どこ行ってるの? 僕たちに言えないような事してる訳じゃないよね?」
「してないよ! それだけは絶対にしてない!」
アリスはノアの言葉を真っ向から否定した。何なら褒められるような事をしている! 握りこぶしを握ったアリスを見てキリがスッと目を細めて一枚の紙を取り出した。そこには今日のアリスの行動が事細かく書かれている。
「ではこれは何です? 動物たちまで連れてスミスさんの所で一体何をしているんです?」
「な、だ、誰がこんな……!?」
「アリス、今や世界の至る所で君の名前はとても有名でね? 学園なんて特に君の悪事やらを知ってる人が多いわけ。そのうちの一人がまた何かアリスが始めたのか? ってご丁寧に手紙をくれたんだよ」
「そ……そんな……馬鹿な」
アリスはその場に膝から崩れ落ちた。まさか学園の生徒から漏れるとは思わなかったアリスである。
「残念だね。で、何してたの? 観念して全部ゲロしなさい」
「うー……皆を喜ばせようと思っただけだもん」
「それは分かってるよ。もうすぐクリスマスだもんね。今年もサンタさんやるつもりなんでしょ?」
「……うん」
とうとうアリスは観念した。こうなったらノアはしつこい。揚げ物をした後の換気扇にこびりついた油汚れのようにしつこい。
「お嬢様、早く全部話した方が身の為ですよ」
「実は――」
アリスはじりじりと近寄ってくる二人にたじろいだが、結果これで良かったのかもしれない。
用意していて思ったが、どう考えてもアリス一人でサンタをやるには無理があったからだ。こうなったらノアとキリにも手伝ってもらおう。途中からそう考えたアリスは嬉々として今回の作戦の全貌を話した。
「はぁ……また何を始めたのかと思ったら……」
腕を組んだノアは目を輝かせるアリスを見下ろしてため息を落とした。アリスは怒られるかもしれない、などとは一切思いもしない期待に満ちた目をしている。
「お嬢様、話はわかりました。一言だけいいですか?」
「うん! なに?」
「あなたは底抜けのバカですか!? どうしてそんな事を今月の! しかも中盤から始めるのですか! 25日までもうほとんど日がないではないですか!」
「うぐぅ」
確かにキリの言う通りである。本来クリスマスはどこの企業も会社も二ヶ月ぐらい前から準備するものだ。
「キリの言う通りだよ、アリス。しかもそんな事をどうして一人でやろうとするの。言っとくけどサンタクロース協会にはサンタクロースだけでも最低120人は居るんだよ? あとサンタさん達は別に自分たちでお菓子とかおもちゃとか作ってる訳じゃないでしょ?」
「うぅ……」
分かっている! 分かっているがどうしてもやりたかったのだ! 冬になると気温も冷え込むし気分も落ち込む。そんな時にクリスマスである!
「はぁ、まぁもう始めちゃったものはしょうがない。今更手伝ってくれた皆の事考えたら中止も出来ないし、これはこれで良い商売になりそうだからちょっとリー君達に相談しようか」
「そうですね。それがいいと思います。全く! 結局いつもこうやって俺たちを巻き込むんですから!」
キリはそう言って何故かピカピカの笑顔をしているアリスの頬を思い切り引っ張った。はっきり言って憎らしいの一言に尽きる。どうせ巻き込むならもっと早くから巻き込んで欲しかった。
「いひゃいいひゃい!」
「当たり前です! 痛くしてるんです! ではノア様、俺はチャップマン商会に連絡してすぐに来てもらうよう手配します」
「うん、お願い。ああ、あとどうせならもっと派手にしようか。アリス工房からのクリスマスって事で」
「はぁ、何する気ですか?」
「サンタさんを募るんだよ。面白そうでしょ?」
「面白そう! 私もやりたい!」
「当たり前だよ、言い出しっぺなんだから。そうと決まれば仲間内にまずは声かけようか」
「うん!」
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