番外編 メリークリスマス! 4
いよいよ24日の夜19時頃。アリスは仲間たちと集まって入念に最終チェックをしていた。一軒一軒に配ってくれるのは妖精たちだが、その妖精たちにお菓子を渡す中継地点は仲間たちでやる事になったのだ。
「リー君、全世界に周知は出来たのか?」
「出来るだけはやったよ。こうなったらもう、うちの商会だけじゃ無理だから他所にも手伝ってもらった」
リアンはあらかじめアリス工房からのお知らせと題してビラをまきまくっていた。そのビラの内容は至ってシンプルだ。
『24日の深夜、子どもたちにサンタがプレゼントを配りに街にやってくる! アリス工房』それだけである。
これをしようと言い出したのはオリバーである。クリスマスプレゼントを配るという話になった時、ふとオリバーは言った。
『いや、お菓子配んのはいいんすけど、皆が寝静まった後に行くんすよね? 朝起きたら枕元にお菓子置いてあるって……相当怖くないっすか?』と。
それを聞いて「確かに!」となった仲間たちは急いでビラを作った次第である。ビラにアリス工房の名前が入っていれば大抵の人は「ああ、またアリスが何かしでかすんだな」ぐらいにしか思わない。
ノアは仲間たち全員に各国から集めた子供の居る家リストを渡しながら言った。
「じゃ、最後にアリスはここね。ダニエルがお菓子持ってくるからそれ受け取ったらそのままこのリスト見て数確認して妖精たちに渡して。このリストは相当大事だから絶対に無くさないようにね!」
何せ個人情報が載ったリストである。本来ならもっと沢山で中継地点をやりたかったが、このリストを扱うという理由で結局いつもの面子のみになってしまった。
「分かった!」
ことの重大さを流石のアリスも感じていて、リストを綺麗に折って大切にペンダントの中に入れるとそれをさらにドレスの中に仕舞う。
「お嬢様、終わったらすぐに戻ってきてくださいね。絶対に! 何があっても! 様子見たいとか言ってそのままフラフラ出歩かないように! 終わったら迅速にリストを返しにきてください!」
「分かってるよぅ」
「大丈夫です、キリさん。私もアリスさまについていくので」
怖い顔をして詰め寄ってくるキリを宥めたのはミアだ。仲間の中で唯一今回のアリスのもう一つの作戦を知っているミアは、自らアリスと共に行動する事を決めた。
「それじゃあ皆、時間になるまで現地で確認しつつ待機してて。お互い頑張ろう」
「おー!」
ノアの掛け声で仲間たちは笑顔を浮かべて妖精手帳に自分の行き先を書き込みそれぞれの場所に向かった仲間たちを見送って、アリスはミアに先程のリストを渡した。
「ではミアさん! お互い頑張ろう!」
「はい! それではまた後で!」
「それじゃ!」
二人は頷きあってその場で別れ、アリスはそのままスミスの小屋に移動した。
そこには既に森の仲間たちがハンナお手製のトナカイグッズを装着してそれぞれの組に分かれて待っている。ちなみにドラゴンたちはサンタ服だ。
「皆! それじゃあ練習通りに張り切っていこう!」
両腕を振り上げたアリスの言葉にドラゴンたちは「待ってました」とばかりに両手に一本ずつツリーを持った。
動物たちはそれぞれのドラゴンの背中に取り付けられたアリスお手製のソリっぽいカゴに飛び乗ると準備完了だ。
これで全世界にツリーを設置しに行く。お菓子を仲間たちが配りだすのは深夜0時だ。それまでにはどうにか終わらせたい。
「ルンルン、ブリッジ、レッド君、私達も行くよ! ドンちゃんお願いね! それじゃあ皆、世界の人たちに幸せのおすそ分けがんばろ~!」
その掛け声が合図だったかのようにドラゴンたちは次々に飛び立つ。
「それじゃあスミスさん、ザカリーさん、スタンリーさん、行ってきます!」
「おお、気をつけてな!」
「温かいスープ中庭で作って待ってるんで、ちゃんと戻ってくるんスよ!」
「気をつけるんじゃぞ、お嬢」
「はぁい! 行ってきます!」
さっきから何やらいい香りがするなと思っていたら、どうやらザカリーとスタンリーは中庭で炊き出しをしてくれているらしい。飾りを無事に作り終えた生徒たちの楽しげな声が、こんな時間だというのに聞こえてくる。
アリスは見送りに来てくれた3人に手を振ってドンに飛び乗り、あの笑い声をあげる。
「ホッホッホー! メリークリスマース! まずは中庭に一本植えよう!」
勝手に学園の中庭に昼の間に大きな穴を開けておいたアリスは、まずは学園の中庭に舞い降りた。それを炊き出しを食べに来ていた生徒たちが興味津々で見守っている。
「まずはここだ! さぁかかれ! 皆の者!」
アリスの声にドンからルンルンとブリッジとレッドが飛び降りて指示を出し、その指示に従ってドンが木を穴に突っ込んだ。そしてすかさず足で土を被せて大地を踏みしめている。
「よし! 中庭完了! メリークリスマース!」
アリスが叫んだ途端、中庭に居た人たちが歓声をあげた。
アリスの声に反応したかのようにクリスマスツリーと飾りが一斉に輝き出したのだ。飾りは楽しそうにクルクル回ってどこからともなく音楽が流れる(ちなみに音楽はこの日の為に駄々をこねてノアに作ってもらったクリスマスソングメドレーのオルゴールを元にしているので安心してほしい。決してアリスのトンデモ鼻歌などではない)。
「おお! 凄いな! おいバセット、これは誰の魔法だ? 本体はどこ行った?」
異様に統制が取れた動物たちに感心していたイーサンが、突然輝き出したツリーを見て触れないのを確認して言った。
「イーサン先生! これはね~妖精王のお子さん達の魔法だよ! 毎年12月の25日だけツリーが現れて曲が流れるようにしてくれたの! 本体は妖精界に移ったよ」
「……お前、とんでもない人たちまで巻き込んでんだな、相変わらず」
「テヘペロ! それじゃあ皆、クリスマス楽しんでね! あと! お菓子は一人一個だよ! お手伝いありがと~! 持ってけどろぼ~!」
アリスはそう言って持っていた袋の中をツリーの根本にぶちまけた。大量のラッピングされたお菓子の箱がちらばり、学生たちは大喜びだ。
そんな学生たちを横目にアリスは颯爽とドンに飛び乗ってまた森に帰って行く。そんなアリス達を見てイーサンは声を張り上げた。
「いいかお前ら! 絶対にああはなるなよ! あれはあいつだから出来るんだぞ! 憧れるのは構わないが、あれに近づこうとはしないように! 分かったら全力でクリスマスとやらを楽しめ!」
苦笑いを浮かべながらそんな事を言ったイーサンにあちこちから笑い声が上がる。その日学園は遅くまで中庭に楽しげな声が響いていた。
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