番外編 それぞれの領地にて チャップマン家・スコット家
ケース4 チャップマン家・スコット家
ライラは戦争が始まったと同時に、ジョンソンに断わりを入れて仲間たちだけが集まる場所でリアンを待つと言って、颯爽と姿を消してしまった。
「そんな訳で、我々もご一緒してもいいかな」
「もちろんだ! すぐにマリオとレイシャもやってくる。全く、リアンにしてもライラにしても、一体誰に似たんだ」
そう言ってリトは、すっかり戦闘服に着替えたエデルを見て苦笑いを浮かべた。
宝珠の映像の中で、リアンが戦っている。敵兵をぶちのめす度にエデルは腰を浮かせて応援していた。そこにライラの母、アイラまで参戦して、深夜だと言うのにとても賑やかだ。
リトは戦争が始まると、まずは広場の掲示板の掲示物を全て取り払ってそこに宝珠をセットした。こうしておけば、領地の皆が見る事が出来るだろう。そして屋敷に戻ってくると、エデルはすっかり戦闘準備をしていたという訳だ。
「ライラの発案した武器、凄いわね! アイラ」
「そうでしょう⁉ あの子、あれを考えるのに二日も徹夜したんだって。どうすれば皆の力になれるのかしら? なんて私にも相談があったわ! でも、リー君も凄いわね! あの子、あんなに強かった?」
「私もびっくりしてるの! ずっと泣いてるイメージしか無かったのに……いつの間にかあんなにも逞しくなってたのね……」
そう言って誇らしげに胸を反らせるエデルを見て、リアンがずっと泣いていた本当の理由を察しているリトとジョンソンは苦笑いを浮かべた。
エデルが思っているよりもリアンはずっと強かだ。彼はとても芝居が上手いという事を、リトもジョンソンも知っている。何せそうやって今まで社会の荒波を乗り越えてきたのだから少々の事ではへこたれない。
ライラもそうだ。おっとりしているように見えて、彼女はとても芯が強くて頑固だ。こうと決めたら、それを絶対に曲げないのだ。そういう意味では、あの二人は本当にいいカップルなのである。
「リト、俺の言った通りになったろ? うちには娘が生まれて、お前の所には息子。そして俺達は、本当の親戚になるって」
「ああ、本当に。少しビックリしてる。途中ダニエルの所に嫁いでしまうのかと思ったけど」
リトが笑うと、ジョンソンは真面目な顔をして言った。
「いや、そうはならなかったよ、絶対に。だって、この筋書きはあらかじめ決められていたんだ。俺には何故か、そういうのが昔から分かるんだよ」
真顔でそんな事を言うジョンソンを笑い飛ばそうとしたリトだったが、それを聞いてアイラとエデルまで頷いたのを見て、リトはそれ以上何も言わずただ頷いた。
「じゃあ、この先はどうなるんだ? 預言者殿」
リトが問うと、ジョンソンは腕を組んで目を閉じた。
「女の子だな。女の子が二人、あの子達の間に生まれるぞ。それぞれがうちとここを継ぐ。なかなか波乱万丈な人生を送りそうだが、楽しそうだ!」
まるで何かを見て来たようにそんな事を言うジョンソンにリトは何だか怖くなって、とりあえず頷いておいた。
「うちのダニエルはどうなる? ジョンソン」
「マリオ! 随分早かったじゃないか!」
突然部屋の入り口から聞こえてきた声にリトが振り返ると、そこにはすっかり本来の元気さを取り戻したマリオとレイシャが立っていた。
「レイシャ! 早く早く! ダニエルの話では、あの子達は仲間を集めているんでしょ? まだ到着してないの!」
エデルが言うと、レイシャは眉を吊り上げて言った。
「まぁ! まだなの⁉ あの子ったら、一体どこで何してるのかしら⁉」
「まぁまぁ、落ち着いて、二人とも。ダニエルにも何か考えがあのるのよ」
今にも怒り出しそうなエデルとレイシャにアイラが仲裁に入る。家族ぐるみで付き合う様になってからもう随分経つが、この関係はずっと変わらない。
「よう、マリオ! まぁ座れよ。ダニエルか? ダニエルはなー……」
「うんうん」
マリオはジョンソンの隣に腰を下ろして、目を閉じたジョンソンの顔を真剣に覗き込んだ。
「嫁さんはエマちゃんだな。子供は女の子一人だ。ああ、うん……これでいいんだな、ダニエルは。大丈夫、安心しろ。娘はエマちゃんに似てしっかり者だ。チャップマン商会始まって以来、初の女当主だぞ!」
「そうか! やっぱりエマちゃんか! ママ! お嫁さんはエマちゃんだって!」
「本当⁉ 良かった! あの子なら安心だわ! でも、女の子一人なの? あの子、相当女好きなんだけど。子供が十人ぐらい出来ても驚かないわよ?」
不思議そうに言うレイシャにジョンソンは神妙な顔をして頷く。それを見て何かを察したのか、マリオとレイシャも居住まいと正して覚悟を決めた。何を言われても心を強く持とう。
「ダニエルはな、娘よりエマちゃんなんだ。エマちゃんを溺愛する為に子供は一人だけのようだよ」
「……あ、そうなんだ」
「……あの子らしいわね……」
てっきり何か良くない事を言われるのかと身構えた二人は、ジョンソンの一言に一気に力を抜いた。そんな二人に耐えられなくてリトもエデルもアイラも声を出して笑う。
宝珠の映像は明らかにこちらが不利だ。
けれど不思議な事に少しもこちら側が負ける未来が想像出来ない。それどころか、この大きな戦争を乗り越えて掴みとった未来は、きっと素晴らしいものになるに違いないと確信している。
「旦那さまぁ~。お客様達もぉ~アイス食べながら見ましょぉ~」
そこに、フワフワと氷の妖精一家が大きなお盆に人数分のアイスを皆で持ってやってきた。
「またそんな重い物持って! ケガでもしたらどうするんだい?」
「大丈夫ですよぉ~! もう、旦那さまは過保護だなぁ~」
「おお! アイス! ここのが一番美味いんだよな!」
「そうそう。舌触りがとっても滑らかなのよ~。ありがとう」
皆は口々にそんな事を言いながら氷の妖精からアイスを受け取ってお礼を言う。そんな家主達の反応に妖精は嬉しそうに身を捩り、机の上に足を投げ出してアイスを食べながら、戦う仲間たちを見ていた。
全く危機感の無い領地はここぐらいではないだろうか。そう思う程度には、皆のんびりしている。
それは領民達もで、広場にそれぞれ机を持ち出してきて食べ物を持ちより、リアンが出てくると聞こえる筈もないのに大声で声援をかける。
その後、仲間を連れてやってきたダニエルを見て歓声を上げ、戦況が一気に変わったのを見て感動に震えた。
「やっぱりチャップマン商会の社長たちは最高だな!」
「ああ! 最初はダニエル社長はひっどいもんだったけどな!」
「そうよ! 何人の女の子が彼に泣かされてきたか! でも、それは探してたからなんだって!」
「探してた? 何を」
「エマという、たった一人の運命の人に出会う為だったって! この女に会う為に俺は生まれてきたんだって! 本人が言ってたの!」
キャー! と両手で顔を覆う女子達と、どこか胡散臭げな男子達。反応は様々だが、今やチャップマン商会はどこへ行っても大人気だ。
「まぁ何にしても、社長たちが無事に戻ってきたら、お祝いしなきゃな!」
一人が言うと、広場に居た全員が歓声を上げた。その声は屋敷にまで聞こえて来て、皆は肩を揺らして笑った。
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