第五百話 最後の戦い ※ここからしばらく気になる所で終わる事が多いです。苦手な方は510話の更新をお待ちください。

「余計に負けられないな」

「そうだな。国民全員を笑わせるのがルイスの野望だもんなぁ」

「野望って言うな! まぁでも、とりあえずはノアが言っていた、誰も殺さないを達成しなければな」

「そりゃそうだ。そこがまずスタートだから」


 ルイスとカインの関係は一蓮托生だ。どちらが欠けても成り立たない。親友と言うには軽すぎる関係だ。お互いに無くてはならない存在だと、今なら胸を張って言える。


「認めたくないけど、全部ループのおかげなんだよなぁ」

「何だ、突然」

「いや、俺達がここまで来れたのってさ、結局ゲームとループのおかげだったんだなってさ、ふと思って」


 ループをしていなければ、あれほど自分達が酷い振る舞いをしていたのだと知らなければ、きっとこんな風には思えなかった。


 同じ事を考えていたのか、ルイスも神妙な顔をして頷いた。


「そうだな。ノアは支倉が自分の為に作ったんだと言ってたが、俺はやっぱりそうは思えないんだよな。初めはそうだったのかもしれんが、本人も言ってたように、やっぱり途中から俺達の幸せだけを願ってたんだろうなって」

「あいつもなかなかややこしい上に素直じゃないから、そうだったのかもね。死期を悟って、色々吹っ切れたのかも。なんかさ、そう考えるとノアって、俺達の事大好きなんじゃない?」


 冗談めかして言うカインに、ルイスは顔を輝かせて頷いた。


「きっとそうだな!」

「……単純だな、ルイスは」


 あまりにも嬉しそうに顔を輝かせたルイスにカインは困ったように笑って王の執務室の扉を叩いた。

 


 ノアがエリスから得た情報は、大まかではあるが開戦予定日だった。エリスの仲間の妖精が、僅かに開いたシュタの結界の隙間から中に居る者達と連絡を取ったらしい。


「つまり、羽根だけでは足りず、妖精自身を使ってフェアリーサークルをくぐろうとしているという事か?」


 ルカの言葉にルイスとカインは頷いた。隣で聞いていたロビンはあからさまに顔を歪め、拳を握りしめている。


 何せ家では今も妖精王がメイド達にチヤホヤされながらおやつを食べているのだ。それが可愛くて仕方ないロビンである。


「ええ。フェアリーサークルを作る分の羽根は中に居る者達から全て盗られた後のようです。それでも解放しないのは、どうやらそういう意図があったようですね。妖精王曰く、羽を盗られた妖精達は長期妖精界に住む程の魔力は失っていても、妖精界を行き来する事は可能なのだそうです。逆に言えば、だからこそ殺されなかったとも言えるんですが……」


 全て終われば、躊躇うことなく妖精達を殺してしまいそうだと思う程度には、アメリアは非情だ。


「なるほど……それがシュタなのだな?」

「ええ。向こうのシュタには小さな祠があるそうです。その祠に触れるとどこかへ転移される仕掛けになっていると、エリスが言っていたようです」

「恐らくですが、こちらで女王が暗躍していたように仲間だけが通れる仕掛けになっているんじゃないかと俺達は推測しています。その転移先で全てが行われているのだろう、と。本当であれば俺達が直接行って調査したい所なのですが、それはエリスに止められたようです」


 カインの言葉にルイスも頷く。そんな二人を見てロビンが何かに納得したように頷いた。


「あちらでも戦況が変わってきている?」

「そうなんだ。エリスが教会を追い詰めた事で、元々レヴィウスと戦争をしたかったメイリングの兵たちが押し寄せてきたらしい。外の戦況はかなり悪いみたいだよ。そんな所に俺達が行ったら、最悪巻き込まれかねない」

「……確かに」


 ロビンの問いにカインが答えた。


 それでもエリスはこちらの事も調べて情報をくれているのか。それほどエリスはまだこの島の事も愛してくれているのか。


 そう思うとロビンは胸が締め付けられそうになった。そんなロビンの顔を見てカインはイタズラに笑う。


「大丈夫だよ、親父。こっちの戦いが終わったら、アリスちゃんは自発的に向こうにゴーするんだってさ」


 エリスの話を聞いたアリスは、エリスにこっちが終わったらすぐにそっちに行くからね! とエリスに言い切っていたらしい。


 ノアが、いつになったら僕は幸せになれるんだろう、と嘆いていた。もう不憫だとしか言いようがない。


「それで、今のままでは一月以内に戦争が起こると考えておいた方がいいのだな?」

「そうですね。あちらの状況を聞いた限り、それぐらいだと思います。あと、万が一の為に海からの攻撃にも備えておいた方がいいかもしれません。空に結界は無いそうなので、こちらに来れないと分かった時点で、あらゆる手段を使ってこちらを襲おうとしてくる可能性があります」


 ルイスの言葉にルカが頷いて腕を組んだ。


「それについてはもう対処済みだ。島の周りにはこちらに移動してきた海の妖精達が配置についている。多くはセイレーンだが、彼女たちは海からの敵を全て歌で惑わせ海に引きずりこんでくれるそうだ」

「……エグ……」

「まぁ、そういう種族ですしね。久しぶりに誰に遠慮する事もなく狩りが出来ると喜んでいましたよ……」


 そう言ってロビンはつい最近会ったセイレーンの長を思い出した。見た目は相当に美女だったが、いかんせん気性が激しすぎて流石のロビンもその話を聞いて引きつってしまったのは言うまでもない。


「え、えっと……それなら安心……ですね」

「ああ。海の者は既に戦う気満々だ。地元の者達とも結託して色んな仕掛けを作っていたぞ」

「へ、へぇ……それは何よりです」


 どうやら女王の噂はもうかなり辺境にある土地にまで行き渡っているようだと認識したルイスとカインは、それを聞いて頷いた。


「そうだ、お前達に聞こうと思っていたんだ。本当に、戦争に参加するのか?」


 真顔で突然そんな事を言ってきたルカに、ルイスとカインは顔を見合わせて唇を引き締め、しっかりと頷く。


 そんな二人を見たルカは困ったように眉を下げて小さく頷いたのだった。


 

 アリスはゴクリと目の前の光景に息を飲んだ。


 何もない荒野に、続々と女王の兵が集まってきている。既に圧倒的に数では敵わないだろう。アリスは剣を握りなおして大きく息を吸う。


 アリス達は今、妖精王の目くらましの魔法によって隠れた状態で向こうの出方を伺っている。先頭に居るのは赤の騎士団の団長、ゾルと蒼の騎士団団長のルーイ。


 事の起こりは数時間前、戦争と言うからにははっきりと開戦日を告げてくるのかと思ったら、アメリア達はそんな事は一切してこなかった。


 それどころか深夜、こっそりと妖精王の作った戦場にやって来て右往左往していた所を、見張りをしていた妖精達が見つけて知らせてくれたのだった。


「性格わる!」


 リアンがクロウをガチャガチャと鳴らしながら言うと、ノアもカインも真顔で頷く。


 寝ている所を起こされた仲間たちの不機嫌度はマックスだ。それにしても、この期に及んで奇襲をかけようとしていたのか思うと、本気でアメリアの人間性を疑ってしまう。


 続々と巨大なフェアリーサークルから這い出て来る兵士達は、荒野に出た事を不審に思っているのか、辺りをキョロキョロと見渡して隊列を組む。まだあちらに捕らえられている妖精達は誰も連れて来られていない。


 アリス達がここに隠れているのには訳があった。


 エリスから聞いた情報によると、あちらの女王の兵士たちは足りない羽根の分を妖精達自身で補おうとしているというのだ。ただでさえ羽をとられて弱っている妖精達にどこまでの負担を強いるつもりなのか。

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