第四百八十四話 追加されたエンディング
「そういう訳だから、シエラさんは生きてるよ。ていうか、全部ちゃんと話すよ。最後は君にしてもらわないと」
そう言ってノアはポケットからゲーム機を取り出した。シエラに頼んでシャルルから取り上げたゲーム機をイライジャに送っておいてもらったのだ。
「それ! ど、どうしてあなたが……?」
「答え合わせは全部終わってからだよ。シャルル、さぁ、強制終了を」
そう言ってノアはシャルルにゲーム機を渡した。シャルルはゲーム機を受け取って画面を言われるがまま操作すると、強制終了のページを開く。
「待ってください! これを押したらどうなるんですか⁉ 私達は? この世界は?」
何だかよく分からないままうっかり押す所だったが、何の説明も無しに契約書に判子を押せと迫られているような気がしてシャルルが手を止めた。
そんなシャルルに、仲間たちもはたと気付いた。言われてみればそうだ。強制終了したらこの世界は一体どうなると言うのだ。
ノアは全てを知っているようだが、まだ何の説明も聞いていないのに押せと迫られても、そりゃシャルルも戸惑う。
そんな中、シャルルが持つゲーム機を横からアリスが取り上げて何かを確認するかのように操作して声を上げた。
「み、見て! ほら、これ!」
アリスはホーム画面に戻り、フルバージョンを確認して声を上げた。
そこには、アリスと向い合せで手を繋ぐ少しだけ幼いシャルルのイラストが描かれている。
このシャルルだ! アリスが初めてゲームの事を思い出した日に会ったシャルルは!
この間までは灰色だったアイコンも、今はとても幻想的でカラフルなイラストに変わっている。
「表示が変わってるわ……アリス! 他のゲームはどうなの? メインストーリーのカミングスーンは?」
「待ってくださいね! あった……凄い! クリアになってる!」
そう言ってアリスはゲーム機を皆に見せた。メインストーリーの最終決戦の後の戦いはまだ灰色のままだが、最終決戦自体はクリアになっていて、カミングスーンも消えている。
「ちゃんと反映されてるみたいだね、良かった」
「兄さま、どういう事?」
「言ったでしょ? 死んでる間に僕はフルバージョンを追加してきたんだよ。だから、これでハッピーエンドに向かう筈だよ、皆ね」
「皆……? シエラも?」
「もちろん。君もシエラさんも、僕達も。強制終了をするというのはゲームの強制力を切るって事なんだ。つまり、アリスとシエラさんの十八で死ぬって言う強制力も消える」
ノアの言葉にシャルルは唖然とした顔をして、震える手でアリスからゲーム機を受け取り操作し始めた。先程の強制終了のページを表示して、ゴクリと息を飲む。
「それに、もしもこの世界の構築がきちんとされていなかったら、君はそのボタンを押せないようになってる。だから、押せたら僕達はゲームクリアだ。ループは終わるよ、やっとね」
「! 皆さん、いいですか?」
シャルルはそう言って全員を見渡した。すると、皆はとても晴れやかな顔をしてにこやかに頷く。ノアのスマホの向こうのシエラもだ。そんなシエラを見てシャルルは大きく息を吸った。
「いいですね? 押しますよ?」
何度も確認するシャルルに、ルイスが苦笑いを浮かべて言った。
「シャルル、大丈夫だ! 俺達がついている。お前には……本当にすまなかったな」
「そうだよ。シャルルは一人じゃないんだ。そりゃ、ちょっとやりすぎた気も俺はしてるけど、ずっと仲間だよ」
「そうね、あなたには本当に酷い事をしたわ。ごめんなさい……でも、ちゃんと理由があったのよ。それを聞く為にも、シエラをこちらに戻す為にも押してちょうだい」
「ごめんね、なんちゃって妖精。でも、ループ抜けるには絶対必要だったんだよ」
「私からも、ごめんなさい。皆でシャルル様を騙してしまって……」
「……」
視線を伏せた仲間たちを見て、シャルルはようやく何かに納得した。これは絶対に必要な事だったのだと。わだかまりがすぐに消える訳ではないかもしれない。
けれど、まだここに居る皆を仲間だと思いたいという自分がいるのもまた事実だ。この気持ちを無視したくはない。
「そうですよ、シャルル様! 兄さまもシャルル様もちゃんと戻ってきたし、ループなんて、ポチっとなしちゃいましょう!」
意気込んで言うアリスに、シャルルは小さく微笑んで頷いた。
「では、いきます。ポチっとな!」
強く目を閉じたシャルルは、とうとう強制終了のボタンを押した。その途端、全員の頭の中でカチリ、と音がして思わずお互いの顔を見合わせる。
「今の……」
「聞こえたわ……スイッチの音……」
「僕も聞こえた。ライラは?」
「私もよ!」
「お前達はどうだった⁉」
ルイスの言葉にその場に居た全員が真顔で頷いた。
「シャルル様! 画面、どうなってるの⁉」
「え?」
アリスがシャルルの手元を覗き込んできたので皆にゲーム機の画面が見えるようにすると、ゲーム機にはシャルルの知らない映像と音楽が流れ出した。
それを見た途端、アリスとシエラが奇声を上げる。
「クリアだ! シエラ! エンディングが流れてる!」
『ええ! 聞こえてる! ちゃんと聞こえてるわ! アリス!』
「シエラ!」
画面越しに叫ぶ二人を見て、仲間たちは何かを察した。終わったのだ――本当に。
それに気づいた途端、アランとキャロラインがその場にへたりと座り込む。
「長かった……本当に……長かった」
「ええ、分かります。気持ちは痛いほど分かります、キャロライン」
ポロリと涙を零すキャロラインを慰めるようにアランがハンカチを差し出すと、キャロラインはそれを受け取って声を上げて泣き出した。
そんなキャロラインを見てアリスもシエラも泣き始める。
「ねぇ変態、これで終わったの? 本当に?」
まるで伝染病のように泣き出してしまった仲間たちを見ながらリアンが言うと、ノアはゲーム機の画面を見つめながら頷く。
「見てて、エンディングの後にアリス達も知らないエピローグがあるから」
「エピローグ?」
「そう。強制終了が成功した時だけ現れる幻のエンディング。今、全世界の『花冠』をやってる人達の持ってるゲームのエンディングも、変わったはずだよ」
この世界で強制終了が発動すると、全ての『花冠』は自動更新され、この幻のエンディングとフルバージョンが配信されるようになっている。
それこそ、支倉乃亜が仕掛けたAMINASなのだ。
「え……なに、これ……」
しばらくしてエンドロールと歌が終わり、アリスの知らないその後のエピソードが流れた。
アリスの知っているエンディングは最終決戦が終われば、シャルルが消滅して世界は平和になった! で終わったのだが、今流れているエンディングは違う。
世界は平和になった! の後に、今自分達が居る場所が映し出された。あの虹色の木もちゃんとある。その木の根元には倒された筈のシャルルが眠っていて、そんなシャルルを揺り起こすのは、アリスだ。
『シャル、起きて。シャル』
『……あなたは……?』
『私は――。ずっと、ずっとあなたを待っていたの。あなたは最後の戦いに破れてここに辿り着いた。あなたが放った魔の力は、全てもう一人のあなたが引き受けたわ。だからもう大丈夫……全て、もう大丈夫なのよ』
『魔の……力? もう一人の……私?』
『ええ。もう一人のあなた。彼はずっとあなたの中に居た。あなたは気づかなかったかもしれないけれど、魔の力を表に出してしまわないよう、ずっとあなたの中であなたを守っていた』
『彼は……彼はどうなってしまうのですか?』
『彼は初めて自分の体を得たわ。彼もまた、自由を手に入れた。あなたも元の世界に戻ってそこで、幸せになるの』
『……幸せ……私一人で幸せになど……』
『いいえ、いいえ、あなたは一人ではないわ。私が、ずっとあなたの側に居る。今までも、これからも』
ここでシャルルがハッと顔を上げた。目の前に居る少女に目を奪われる。
少女はかつてシャルルが愛したアリスにそっくりだったからだ。そこで彼は気付く。違う。この少女がアリスに似ているのではない。アリスがこの少女に似ているのだという事に。
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