第四百六十五話 救いたいのはどのアリス?
秘密基地に移動すると、そこには全員が揃っていた。もちろん、シャルルもシエラも妖精王も、何ならスマホを介してエリスも参加している。
「師匠。何かやつれた?」
ノアが聞くと、エリスが大きなため息をついてゆっくり頷いた。
『お前らがこっちにアメリア達を送り返してくれたおかげで、あいつらめちゃめちゃ暴れてんだよ。おまけにオピリア畑もう一個燃やしてやったからな! ざまぁみろ!』
「師匠、一杯食べなきゃダメだよ! 顔が土みたいな色してる!」
『……いや、食っただけでどうにかなんのお前ぐらいだからな、アリス。人間って言うのは、いくら食べたって休まなきゃ体調は戻らねーんだぞ?』
「え⁉」
『え⁉ じゃねぇよ! 本気でどうなってんだ、お前は!』
わはは! と楽しそうに笑うエリスにノアが言う。
「暴れてるってどういう事?」
『ああ。妖精王がフェアリーサークルの出口を変えたんだろ? そのせいでそっちに行けなくなったから、妖精界からそちらに入る算段を立ててるみたいだ。そのせいで既に何人もの信者が犠牲になってる』
エリスの言葉にカインは頷いた。
「やっぱりな。妖精王、さっき言った事、お願い出来るかな?」
「うむ。出来る。というか、もうしてきた。妖精界とこの世界の膜を分厚くしてきた。尋常じゃない程の強さの肺を持っていなければ、通り抜けられまい」
ただでさえ分厚い膜をカインに言われてさらに分厚くしてきた妖精王は、誇らしげに胸を張った。
本当の事を言えば、妖精王が本気を出せばアメリアなどみじんこのようだ。
けれど、強大すぎるその力は迂闊に使えば間違いなくこの世界に様々な天変地異を巻き起こしてしまう。それは絶対に避けたい。
「ありがとう、助かる。エリスさんも忙しいのにありがとう!」
カインが言うと、エリスは人好きのする笑顔で言った。
『ははは、役に立てましたか? だったら良かった。アリス、ちゃんと皆の言う事聞くんだぞ! 勝手な事すんなよ!』
「分かってるもん! 師匠もちゃんと元気にならなきゃダメだからね!」
『ああ、それじゃな! また連絡する! あとノア、後でお前あてにちょっと書類送るわ』
「分かった。何なの?」
『いや、これはレヴィウスの王家の問題だから。でも上手く使えば、これでアメリアを引きずり降ろせる代物だ。本人にも既に了承は取ってあるからいざって時に使え』
「うん。ありがとう」
そう言ってエリスとの電話は切れた。
カインはそれを確認して妖精王と肩に乗っていたフィルマメントに言う。
「で、妖精王もフィル達も後はもう、うちで大人しくしてて。シャルル達との最終決戦は俺達だけで片づけるから」
「分かった。フィル、カインの家で花嫁修業始める!」
「うむ。我は女王との闘いに備えて準備をしておくとしよう。そんな訳だ。シャルル、死なぬ程度に頑張れ」
そんな事を言うフィルマメントと妖精王の温度差にシャルルは苦笑いを浮かべて頷いた。
「ええ、まぁ適度に頑張ります」
そんなシャルルの反応を見て、キャラクター外の人達が何とも言えない顔をしたが、ふとシエラが口を開いた。
「そう言えばシャル、私ずっと聞きたかったんだけど」
「ええ、何です?」
「強制力って、どこまで働くのかしら?」
「? どういう意味ですか?」
「だってね、私達が知ってる最終決戦では、攻略対象とヒロイン達が勢ぞろいしてあなたを倒すのよ。でも、今回は攻略対象達が全て揃っている訳ではないのよね……それって、大丈夫なのかしら?」
「ほんとだ! 居ない人一杯いるよ⁉ 皆爵位が合ってるのは確認したけど、エマの攻略対象とかドロシーの攻略対象達は今も呑気に学園に通ってるのにどうするの⁉」
シエラの言葉にアリスが思わず声を上げると、シャルルが苦笑いを浮かべた。
「それは大丈夫です。大分前にノアにも言いましたが、数が合っていればそれでいい。例え攻略対象ではなくても」
「そ、そうなの⁉ 強制力、適当過ぎじゃない⁉」
「その事実が起こった。それがスイッチなのでしょうね。だって、でなければあなたがした事が識字率を上げたのに、メインストーリーがクリアになっている説明が出来なくなってしまいます。だから多分、キャラクターに設定されたものとストーリーに関わる設定は別の問題なんですよ」
「そうなの……じゃあやっぱり、キャラクターに紐づけられた設定は絶対……なのね」
シエラはそう言って視線を伏せた。そんなシエラの心を読んだかのようにシャルルが言う。
「そうとは言い切れませんよ。キャラクターに設定された事も、必ずではない。何故なら、アリスは確かに十八で亡くなるという設定があるのかもしれませんが、それだとメインストーリーはクリア出来なくなってしまう可能性があります。そんな事を、果たして支倉乃亜はするでしょうか?」
『しませんよ、絶対に。支倉はどうやってもアリスを救いたい。だからあえて、ゲームはアリスが十八になったら最終決戦を仕掛けさせたんです。そこでアリスに運命に打ち勝たせる為に。本当なら追加のストーリーの実行をしてから、アリスが打ち勝つまでループをさせ続けようとしてたんですから』
突然の偽シャルルの言葉に、もう誰も驚かなかった。
ノアはチラリとキャラクター外の仲間たちに視線を送ると、彼らも誰にも分からないように何か言いたげな視線を返してくるが、ノアはそれを無視する。
「うち勝つまでループさせる……か。そう言えばシャルル、さっきその事実が起こればそれでいいって言ったよね?」
「ええ、言いました」
「メインストーリーとキャラクター設定では、どちらの強制力の方が強いんだろうね?」
ノアの言葉にシャルルは首を傾げた。
「……さぁ……どうなんですか? 偽シャルル」
『良い所に気付きましたね、と言いたいところですが、アリスが死ぬとその時点でゲームオーバーです。そして、最終決戦の人数を割ってもゲームオーバーなんですよ。あなたが考えそうな事ですが、その手は通用しません』
「そう……つまり、最終決戦をクリアして、強制終了しない事にはアリスの強制力は解除できないって事なんだね?」
『ええ、そういう事です。間違えても誰かがアリスの代わりに死ねば、アリスのフラグは折れるなんて考えないでくださいね』
「……」
実際チラリとそんな事を考えてしまったノアに、ルイスは白い目を向けてくる。
「お前だけは本当に……何て事考えるんだ」
「一瞬だよ。チラっと思っただけ。でもそうだよね……はぁぁ……何でこんな面倒な事になってるんだろう! ただ転生してるだけだったら、もうとっくに幸せになってたはずなのに! アリスと!」
思わず机に突っ伏したノアに、リアンが正面からポンと肩を叩いてくれた。
「あんたも大変だね。結局、敵は自分自身だなんてね。それにどっちみちあんたが転生してただけならアリス、ここに居ないよ、多分」
「うぅ……そうなんだけど。面倒だとは思うけどでも、それをしないといけない何かがあったんだろうね……きっと」
逆に言えば、こうでもしなければアリスが救えなかったという事だ。
「良く分からないけれど……そもそも、何がしたいのかしら?」
「ん? アリスを救いたいのだろう?」
キャロラインが言うと、ルイスが首を傾げながら腕を組む。
「そうなんだけど……でもねルイス、思い出して。私にはシエラとアリスが同じ人物には見えないのよ」
「それはそうだな。だが、それの何が問題なんだ?」
「だからこそ変なのよ。支倉という男が救いたいアリスは、どのアリスなのかしら?」
「! 確かに!」
ルイスはキャロラインの言葉に大きく頷いた。それを聞いて仲間たちも全員ハッとした顔をしている。
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