第四百六十六話 死者を生き返らせる対価

「ほんとだね。支倉乃亜は、どのアリスを救いたかったんだろう……」


 今までアリスと言えば今アリスの事ばかりを中心に考えてきたが、アリスはキャラクターなのだ。それこそ、シャルルではないが過去アリスが山ほど居る中の、一体どのアリスを救いたかったというのだ。


 ノアはキャロラインの顔を思わず凝視してしまった。それに気付いてキャロラインが苦笑いを浮かべている。


「ごめんなさい、おかしな事を言ったわ。私にとっては、このアリス達以外には居ない。だから私は全力でこの二人のアリスを守るわ」

「キャ、キャロライン様ぁぁぁ!」

「夢なの……? これは……夢?」


 キャロラインに抱き着くアリスを片手で抱きしめて、もう片方の手でシエラを撫でるキャロラインを見て、リアンが隣のオリバーにコソコソ言う。


「ねぇ、やっぱりヒロイン、お姫様だよね?」

「……そんな気がしてきたっす」

「だよね。これで否定したら眼の医者勧めるとこだった」


 真顔でそんな事を言うリアンにオリバーは思わず咽そうになったが、今はそれどころではない。


「どのアリスを救いたいか……」

「言われてみれば考えた事なかったな」


 ノアとカインは頭を悩ませるが、ふとライラが何かを思い出したように呟いた。


「オリジナルのアリス……ではないでしょうか?」

「え?」

「ん?」


 ライラの言葉にノアとカインが同時に首を捻る。


「あ、いえ。以前偽シャルルが言ってたじゃないですか。オリジナル通りなら、アリスが十八で死んでしまうって。もしかしたらそのアリスを救いたいのではないでしょうか?」

「ライラ天才⁉」


 ライラの言葉にアリスはガタンと椅子から立ち上がった。


 けれど、次の瞬間リアンの台詞を聞いてすぐさま椅子に座りなおす。


「え……でも、オリジナルアリスはもう死んでるんでしょ?」


 リアンの言葉にライラは頷く。


「でもね、シャルル様は好きにキャラクターを追加出来るのよ? それに変じゃない? 偽シャルルって、どうしてあんなにも支倉乃亜さんについて詳しいの? まるで、偽シャルルが支倉乃亜さんみたいじゃない?」

「やっぱりライラ天才じゃない⁉」


 もう一度立ち上がったアリスに、キリのげんこつが降ってくる。


「⁉」

「!」


 そしてそんなライラの言葉を聞いた途端、ノアが頭を押さえた。まただ。あの時の痛みだ。それに気付いたアリスとキリが慌ててノアを支えたが、ノアは今度は倒れなかった。真っすぐにライラを見つめ、コクリと頷く。


「多分、ライラちゃん……当たりだよ。偽シャルルは支倉乃亜なんだよ。どうやってるのかは分からないけど、オリジナルのアリスをゲームに落とし込む気なんだ……その為に今アリスに十八の壁を超えさせようとしてるんだよ……」

「十八の壁……ですか」

「そう。アラン、ドロシーは死者も蘇らせる魔法を使う。それと同じような魔法、他にはない?」


 突然話を振られたアランは少し考え込んでハッとした。


 家で対オピリア用のブレスレットを延々作り続けていたアランだったが、この秘密基地に招集をかけられて急いでやってきたのだ。


「白魔法で死者を蘇らせられるのは死後数時間以内ですが、妖精王であれば……」

「妖精王?」

「ええ。妖精王はあらゆる生命そのものが具現化した者だと言われています。それは小さな妖精達もそうです。彼らは水や太陽、光そのものです。そしてその頂点に立つのが妖精王で、彼はあらゆる全ての生命の源だとも言えます。つまり、妖精王であれば、それが出来るのかもしれません」


 アランの言葉を聞いて、カインが悔しそうに髪をかき上げた。


「ああ、くそ! 何で妖精王をうちに戻しちまったんだ! 電話するか」


 そう言ってカインは急いで妖精王に電話をすると、妖精王は思いのほかすぐに電話に出てくれた。


『婿よ、どうした?』


 妖精王は食べかけのオヤツのカスを口の周りにつけてご満悦である。周りにライト家のメイド達を従え、チヤホヤされているのがここからでも分かってしまってカインは思わず顔を顰めた。


「妖精王、死者を蘇らせる事って、出来ちゃったりする?」

『死者か? 出来るぞ。対価は契約した者の命だが』

「……出来ちゃうんだ?」

『無論だ。我ら妖精王に出来ぬ事など無い!』


 何せ世界の全てを司る者だ。何ならこの世界は妖精王が保っていると言ってもいい。


 胸を張った妖精王を見て、カインは頷いて礼を言って電話を切った。そしてチラリとノアを見ると、ノアも頷いている。


「当たりだね。支倉乃亜は妖精王と契約をしたんだ。その対価に自分の命を渡した」

「……みたいだな。で、オリジナルのアリスちゃんを生き返らせる為にゲームを作ったと、そういう事か。なんつうややこしい事する男なんだよ! お前って奴は!」


 そう言って思わずノアの頭を小突いたカインに、ノアは苦笑いを浮かべる。


「つまり、こういう事? 偽シャルルは支倉乃亜で、支倉乃亜はオリジナルのアリスを助けるためにこのゲームを作ったってそういう事なの?」

「そう、なんだと思う。詳しい所は僕の記憶次第だね。とりあえず今日はもう解散しようか。キャロライン、王妃教育放り出して来ちゃったんだよね?」


 ノアが言うと、キャロラインはハッとしてソワソワしだした。それに続いてアランも慌てだす。


「ぼ、僕もアリスに任せて出て来てしまったんですが……大丈夫かな……」


 何せおっちょこちょいなチビアリスである。少し目を離した隙にあちこちで傷を拵えてくるのだ。一応ドロシーと、ドロシー親衛隊の妖精達を側につけているが、不安一杯のアランである。


 そんなアランを見てノアは笑みを浮かべて言った。


「今日の所は終わりにしとこう。でも、近々最終決戦が起こるって思っておいてね、皆」


 ノアの言葉に仲間たちは全員頷いて、それぞれの場所に戻って行く。


「じゃ、兄さま私達も帰ろ! お腹減った!」

「そうだね、と言いたい所なんだけど、僕ちょっと今日は家に戻るよ。父さんから頼まれてた書類早く仕上げないと」


 ノアが言うと、アリスは少しだけ寂しそうに頷いたが、キリは何か言いたげにノアを見つめてくる。ノアはそんなキリに視線だけで頷くと、キリもそれに納得したようにアリスの手帳を取り上げた。


「お嬢様、ノア様はあなたと違って忙しいんですよ。そもそもまだノア様はまだバセット家の当主ではないのですから、これは本来あなたがすべき仕事で――」

「じゃ、帰ろっか! それじゃあ兄さま! いっつもありがと~! また明日ね~!」

「お嬢様、話は最後まで聞いてくださいといつもあれほど――!」


 キリが言い終わらないうちに、アリスがキリの手から手帳を取り返して鉛筆でスラスラと自室と書き込んでしまい、結局キリのお説教はそこまでだった。


 そんな二人を見送ったノアは、キャラクター外の仲間たちをもう一度招集する。


 

 しばらくしてリアンが一番にやってきた。続いて今日は非番だと言っていたユーゴだ。


「お待たせぇ~さっきぶり~って、リー君しか居ないじゃ~ん!」

「まぁ仕方ないでしょ。後の人達は皆仕事中でしょ?」

「だねぇ。皆従者だもんねぇ。ちょっとしばらく集まるまで時間かかるんじゃないのぉ~?」

「そうだろうね。じゃあちょっと僕達だけでも話進めとこうか。あの計画なんだけど、アリスが十八になったらすぐに事を起こすよ」

「え⁉ もうちょっとじゃん!」

「うん。そうしないとメインストーリーの最終決戦が始まるまでに、アリスが何らかの事故か何かで死ぬ確率が上がっちゃうから。実際、一回目のループでアリスが流行病で亡くなったのは、そういう事なんだと思う」

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