第四百六十四話 カップリング厨会員カード
「では、海の中とかからはどうかしら?」
キャロラインは落ち込むルイスを宥めながら言うと、やっぱりノアは白い目を向ける。
「聖女様、よーく考えて。海の中は確かに結界はないかもね。でもね、あっちは鎧とか着てるんだよ? それ着てどれぐらい泳ぐの? リー君が見せてくれた航路見る限り、恐らく島の何キロも離れた所に結界が張られてる。そっからずっと泳いでくるの? 無理でしょ?」
「……う……」
「単純にさぁ、妖精界から来ようとするんじゃないの? だって、あっち妖精の羽根持ってんでしょ?」
妖精王の話を思い出したリアンが言うと、ノアもカインも頷く。
「リー君正解。僕もそれが一番現実的だなって思う。恐らくアメリア自身は来ないよ。でも、手下は送り込もうとしてくるんじゃないかな」
「それしか考えられないよな。で、妖精界に妖精が居ない事に気付く。そこからどうにかしてこっちに来ようとする。それが一番妥当だな」
「でも、来られるものなのか?」
「来られるよ。レスターが行って帰ってきただろ?」
カインが言うと、ルイスはポンと手を打つ。
「だから僕達が今出来るのは、妖精界との境目を騎士達に見張らせる事だよ。カイン」
「ああ、ちょっと親父達に言ってくるわ。ルイス」
「ああ」
立ち上がって牢から出て行く二人を見送ってノアは牢の中のアーロを真正面からじっと見つめた。
そのあまりにも冷たい笑顔にアーロが思わずゴクリと息を飲む。どれだけ男爵家の振りをしていても、やはりレヴィウスの王子なのだ。こんな子供だというのに威圧感が半端ない。
「僕の願いはただ一つ、アリスを守る事だけ。それはきっと、アーロさんもそうでしょ?」
「……ああ」
「じゃあ、これからはこちらの言う通りに動いてくれますよね? 僕はあなたの事をあまり信用してないけど、アリスが懐いてるみたいだから悪い人ではないんだろうと思う。だけどもしも、あなたがこちらを裏切るような動きをしたら、その時はエリザベスが無事では無くなるって、そう思っておいて」
「!」
笑顔でそんな事を言うノアに、アーロは引きつった。そしてそれを隣で聞いていた仲間たちも引きつっている。
「分かってた事だけど、ここで人質取るとか、あんた何考えてんすか?」
「兄さまってば……さいてー」
振り向いてそんな事を言ったアリスの肩をノアが掴んだ。
「違うよ? これ、別に脅した訳じゃないから! だってね、よく考えて? もしもこの人がここで裏切ったら、僕達の作戦は全部パァだよ? そしたら結果的にルーデリアはアメリアに支配されて、リズさんだって無事で済む訳がないんだよ。ていうか、ルーデリアに住む人全員無事では済まないよ! ね? だから脅しって訳じゃないの! 分かる?」
慌てたノアの言葉に、アリスはしばし考えてニカっと笑って頷いた。
「そっかぁ! そりゃそうだ! うん、分かった! アーロさん、頑張って女王倒そうね! カップリング厨の名に懸けて!」
「……あ、ああ……」
かろうじてアーロは頷いて見せたが、チラリとノアを見ると、ノアはアリスの肩越しに冷たい視線を送ってくる。恐らく、アーロが裏切ればノアはエリザベスに何かをするつもりなのだろう。
「それじゃ、そろそろ戻ろっか! アリス、キャロライン、ライラちゃん先に戻ってルイス達にあの場所でって伝えておいてくれる? あとモブも一応護衛についてって。ていうか、アリス見張っといて」
「分かった! いこ! キャロライン様、ライラ!」
「っす」
「え、ええ。大丈夫……なのよね?」
「何もしないよ、大丈夫」
「そ、そう? それじゃあ、先に行ってるわね」
「うん」
そう言って女子達が出て行ったのを見計らってノアはもう一度アーロと視線を合わせた。
「冗談じゃなく、本当にリズさんがどうなっても知らないからね」
「……何を……する気なんだ? 殺す気か?」
アーロが言うと、ノアは笑って首を横に振った。そんなノアを見てリアンは何かに気付いたようにそっと視線を伏せる。
「殺さないよ。そんな事僕がするように見える? 僕がするのは、あなたがこれまでにしてきた事を全部、リズさんに話すぐらいだよ」
「それだけ……か?」
拍子抜けしたアーロにノアはコクリと笑顔で頷く。その顔はあまりにも無邪気だ。
「それだけだよ。ずっと信じてた親友が、自分の為に悪に手を染めて? ルーデリアが崩壊してオピリアが蔓延っていく。それがぜーんぶ自分のせい。それに気づいたらどうなるんだろうね? リズさんは。おまけに最愛の旦那さんは既に他界してる。息子ももう子供じゃない。自分が居なくても十分一人で生きていける歳だ。何も僕が手を染めなくても、どうなるかなんて目に見えてるよね? だからさ、僕はこんな事もあろうかとあなたが捕まったって聞いた直後、すぐに手紙を書いた。もしも僕達に何かがあったら、すぐにリズさんに届くようになってる。……と、言う訳だからね? しっかりエリザベスを守って、アーロさん」
そう言って笑ったノアを見て、アーロは目を見開いてゴクリと息を飲んだ。
バカではないと思ったが、間違いなくノアもアメリア寄りの人間だ。
いや、オピリアを使ってのし上がろうと自ら動くアメリアよりもずっと質が悪い。子供の無邪気さを装ってこんな事をシレっと言うノアは、間違いなく王になれば冷酷だが賢王になれただろう。
「何故……君はこんな所にいるんだ……」
「何故? そんなの、アリスがここに居るからに決まってる。彼女の望を叶えるのが、僕の役目だからだよ」
「……そうか。肝に銘じておこう」
神妙な顔をして頷いたアーロを見て、ようやく視線を上げたリアンが言った。
「あのさ、言いたかないんだけど、ほんとにコイツの頭ん中、アリスの事しか無いからね。やるって言ったら、コイツは情の欠片も見せないでやるよ」
「分かった。信用しろとは言わないが、ここに居る時点で俺はもう向こうには戻れない。というよりも、戻るつもりもない。そしてキャスパーだけはこの手で引導を渡したい。これだけは……譲れない」
真顔で言うアーロに、ノアは頷いた。
「もちろん。好きに暴れてよ。そしてさっさとリズさんを攫ってやって。それがあなたの役目だよ」
「……ああ。これも貰ったしな」
そう言って取り出したのはアリスに貰ったカードだ。そのカードを見てノアは噴き出し、リアンは頭を抱えている。
「アリスはちゃっかりしてるなぁ。気づいたらルーデリアの人全員が持ってるんじゃないの。でも、アリスは嫌な感じのする人には寄りつかないから、それ持ってる人は大抵良い人だって目安になっていいね」
「僕は持たないよ! 最後まで抵抗するからね!」
「ははは! まぁ、そんな訳だからアーロさんはもう少しここで大人しくしててよ。僕たちはその前にやらなきゃいけない事があるんだ」
「やらなきゃいけない事? そんな悠長な事を言ってられるのか? すぐにでもあちらがけしかけてきたらどうするんだ?」
「それは絶対に大丈夫。向こうはそれをしたくても、今はまだ絶対に出来ないから。さて、じゃリー君、僕達も行こうか。それじゃ、アーロさんは体が鈍らない様に鍛えておいて」
そう言ってノアは立ち上がって牢を出て行く。その後をリアンが追おうとしたが、出て行く手前で立ち止まって同情的な目をアーロに向けた。
「まぁ、ご愁傷様。こいつらに目を付けられた事は本当に可哀相だと思うよ。頑張ってね」
「……」
そう言って姿を消したリアンを見て、アーロはドサリと椅子に座り込み、大きなため息を落とす。そんなアーロに牢番の男がそっと炭酸ジュースを差し入れてくれた。
普通、捕まっている者に出すものなど水だ。まさか毒でも入っているのかと思ったが、牢番はやはりアーロに同情的な視線を向けている。
「これ飲んで元気だせ。武闘派のアリス様と精神攻撃が得意なノア様。あの二人は誰にでもあんなだから。でも、味方に居たら心強いぞ」
「そうか……ありがとう」
アーロはそれを受け取って一口飲んだ。どうやら毒の類は入っていなさそうだ。そこでふと思い出す。
この男もさっきアリスのカードを持っていたな、という事を。それを思い出して思わず吹き出したアーロだった。
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