第四百四十二話 妖精達の引っ越し完了

 何故なら、やはりあのドロシー誘拐事件からぱったりと女王がドロシーを探すのを止めたからだ。ダニエルの身に起こった事や、ドロシー誘拐事件もそうだが、明らかにゲームの強制力だろう。


 逆に言えばこのゲームの強制力が無くなった途端、全てが襲い掛かって来る可能性もあるという事だ。そういう意味でも、偽シャルルは焦っているのだろう、きっと。


 そしてそれも踏まえた上で自分も参戦してくる気でいるのだ。


「じゃあ、あと俺達に出来る事は?」

「仲間を増やす事と、女王の存在を公にしていく事。あと、こちらに居る奴らを一斉排除する事だな。その為にあっちのアジトを全部潰さないと」


 カインの言葉に全員が頷いた。そんな中、キャラクター外の人達だけは、何とも言えない顔をしていたのだが、生憎それには誰も気付かなかった――。

 


 無事に学園に戻る馬車に戻った一同は、いつもように他愛もない話で盛り上がっていた。


「しかし何だな。こう寒いと無性にラーメンが食べたいな」

「ルイスは好きねぇ。でもこの寒さだものね。私はうどんが食べたいわ。あっつーい鍋焼きうどん。あれ、最高ね」


 どんなに体調が悪くてもうどんならツルツル飲み込める。アリスに聞いたところ、少し歯が生えたらテオにも食べられると聞いたので、早速キャロラインはうどん打ちの勉強を始めた。ヘンリーにも伝えると、早速ヘンリーも練習し始めたと言うので、やはり親子である。


「ねぇちょっと、食べ物の話止めてくんない? さっきから怪獣みたいな音がアリスからしてんだけど」


 リアンはそう言って呆れたような顔をアリスに向けると、アリスはキリが常備しているオートミールクッキーを食べながらお腹を鳴らしている。


「一体どんな構造になってんの? あんたのお腹。食べれば食べる程お腹鳴るってどういう事?」

「分かんない。でも、食べる事でエネルギー消費してさらにお腹減るから実質カロリーゼロだよ!」

「どんな理屈⁉ 意味分かんない! てか、こぼしすぎなんだよ、さっきから!」


 リアンはそう言ってかいがいしくアリスのスカートに落ちたオートミールクッキーのカスを拾っては窓の外に撒いている。


「あはは。リー君は面倒見いいなぁ」

「リアン様にはノア様怒らないんですね、触っても」


 そんな二人を見て楽しそうに笑うノアを見てキリが言うと、ノアはキョトンとして言った。


「え、だってこの二人、絶対ここから発展しないと思うし」


 それを聞いて他の人達が顔を顰める。


「いや、言っちゃなんだが俺もアリスとはどうやっても発展はしないぞ?」

「俺だって! 言っとくけどノア、ノアだけだからな? アリスちゃんの事そんな目で見てるの」

「俺もっす」


 思わず言うルイスとカインとオリバーに全員が頷いたが、そんな中ノアはチラリと三人を見て言った。


「発展するしないだけの話じゃないんだよ。君達はアリスと並んだって絵面が可愛くないんだよね」

「……酷い言われ様だ」

「絵面って……」

「てか、可愛い絵面って何なんすか。何求めてんっすか」

「……ねぇ、それって実はもしかして僕に凄く失礼じゃない?」


 相変わらずアリスのスカートの上の食べこぼしを集めていたリアンが引きつりながら顔を上げると、ノアが笑う。


「あ、気付いちゃった? そういう意味では僕も立派にカップリング厨だね。アリス、僕にも会員カードちょうだい」

「いいよ! キリも居る?」

「いえ、俺はミアさんが居れば他はどうでもいいので結構です」

「キ、キリさん!」


 突然のキリの攻撃にミアは慌てて顔を覆ってキャロラインの肩に張り付く。そんなミアに思わずニヤニヤしてしまうキャロラインである。


「そう言えばキャロ、学園にこのまま戻るのか? まだテオが気になるんじゃないのか?」

「ええ、このまま戻ると伝えてあるわ。テオも気になるけど、もうじき私達も卒業だしね。生徒会の仕事も立て込んでるでしょ? あまり長く休むわけにはいかないわ」

「別にいいのに、やっぱりキャロは真面目だな。しかし、そうだな。そろそろ生徒会の仕事も終わらせないとな。卒業したら、皆バラバラだな」


 少しだけ寂しそうに言うルイスに、リアンが呆れたように言った。


「どうせほぼ毎日会う事になるでしょ。何ならあんた達、下手したら全部片付くまでずっと一緒なんじゃないの」

「……カインとは本当にそうなりそうだがな」

「ほんとにね。仕事でも一緒、作戦会議でも一緒、もう最終的には一緒に住んでんじゃないの」

「……それは嫌だな」

「俺も嫌だよ」


 そう言ってお互い顔を見合わせてうんざりした顔をする二人を見て、ノアとアランが心底ホッとしたような顔をしている。


「ふぅ~危なかった。アリス工房とギルドが無かったら完全に僕も巻き込まれてた!」

「僕もです。別に仕事があって良かったですよね、ノア」

「ほんとだよ! あ、オリバーやばいんじゃない?」

「あ、俺チャップマン商会行くんで大丈夫っす。既に内定もらってるんで」

「あ、そうなんだ。じゃ、オリバーも安心だね」


 そう言って笑い合う三人を見てルイスは眉を吊り上げる。


「言っとくが、全てが終わった所でお前達とも一生仲間だからな!」

「そうだそうだ! 何なら俺達老後はバセット領だから! これからも仲良くしような、ノア、アラン、オリバー」

「え、俺もなんすか?」


 ゾッとしていうと、カインとルイスは真顔で頷いた。その必死さが少し怖い。


「何にしても、全てが終われば私達の憂いは晴れるわ。そうしたら皆、ようやく自分の本当にしたい事が出来るんじゃなくて?」

「本当に自分がしたい事か……難しいね」


 キャロラインの言葉にリアンが言う。それを聞いて、皆も考え込んだ。今はゲームの世界やら女王の事やらでやる事は尽きる事がないが、これが全て終わった時、一体自分達は何をすればいいのか、それも考え始めなければならないのだ。


 そんな中、アリスはクッキーを齧りながら言った。


「私はねー! ドンちゃんに乗って色んな所行って美味しいもの一杯食べるんだ~!」

「アリスは本当にブレないね。そういう所が私は大好きだわ」

「私もライラ大好き! ズッ友だよ! ライラも美味しい物食べに一緒に行こうね!」

「もちろん!」


 手を取って笑い合う二人に、仲間たちの沈みかけた心は簡単に浮上する。


 いつだってどんな時だって単純明快なアリスに、皆はいつも救われているのだ。

 


 学園に戻りしばらくした頃、生徒会室で作業をしていたカイン達の元に妖精界から戻って来たフィルマメントとマーガレットが突然姿を現した。


「カインー! 全員ルーデリアに引っ越し完了したよー!」

「やっと全員終わりました~! 長くて辛い旅でした……」

「やっとか! 頑張ったな、フィル」

「頑張った! だからカインと結婚する!」

「いや、それとこれとは別だから。でも、よく全員納得したね」


 カインの言葉にフィルマメントはコクリと頷いて大きなため息を落とす。


「あの宝珠のおかげだよ。やっぱキャロからのだって言った途端皆移動し始めた。でも、パパの部分が余計だった」


 最初は大人しくキャロラインの言葉を真剣に聞いていた妖精達だったが、これ見よがしにキャロラインに抱っこされる妖精王を見た途端、誰も彼もがキャロラインに何か妖精王が魔法を使ったんじゃないのか、などと言い出し始めたのだ。


 別にキャロラインは魔法になんてかけられてないと言っても信用してくれなくて、仕方なくフィルマメントは言ったのだ。


『じゃあ、皆でキャロラインの魔法を解きに行こう!』


 と。すると、今まで妖精界を出る事を嫌がっていた妖精達がこぞって移動を始めた。キャロラインを妖精王の手から救うという名目で。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る