第四百四十三話 世界を滅ぼしてもいい程の理由
フィルマメントがそこまで言うと、カインが呆れたような顔をして言った。
「それ、妖精王には言うなよ?」
「言わない! パパ、プライド高いもん。ママにも口止めされた」
「まぁ、何にしても無事に全員が移動したんだな?」
「うん。動けない妖精も居るけど……そういう子達が居る場所から戦場は離してってパパに言ってある」
「そっか、ありがとう。それじゃあ、後は俺達の仕事だな。俺は妖精王に連絡するから、ルイスは兄貴にアジトの目星が着いてる所全部一斉に叩いてって知らせて。ノアは――」
「偽シャルルに連絡するよ。その場で全員の覆面取ってもらって」
「分かった」
「……いよいよね」
「そうですね……全て上手くいけばいいのですが」
キャロラインとアランは書類を束ねながらそれぞれに電話を始めたルイスとカインを横目に、スマホで何かしているノアを見て首を傾げた。
「ノア、あなたそう言えばどうやって偽シャルルに連絡をつけるの?」
「ん? ああ、これだよ。メッセージ機能を使って自分のアドレスにメッセージを送ってくれって言われたんだ。どうやら彼は昼と夕方はあんまり動けないみたいなんだよね」
「どういう事? だったらスマホを彼にも渡せば早いのに」
「そうしたいのは山々なんだけどね。ほら、あの人姿が無いからさ。でも、メッセージは見られるみたいなんだよね……何故かは謎なんだけどさ」
そう言ってノアは偽シャルルに渡されたアドレスにメッセージを送った。しばらく返信は無かったが、夜にようやく『了解。すぐバグハントします』と短い返信があった。
バグハントが終わりかけだとノアが偽シャルルから連絡を受けたのは、それから数日後の事だ。
ところが、その中に肝心のアメリアとキャスパー、そしてエミリーの名前が無かった。
「顔も分かってるのに無理だったという事か?」
「みたいだね。どこに潜んでるかが分からないって言ってたから、偽シャルルはどうやら場所と顔が分からないと追い出すのは難しいみたい」
「そうか。上手く隠れているという事か……」
「なるほど。じゃ、ちょっと国民を使って探してもらうか」
そう言ってカインは不敵な笑みを浮かべた。それを見てルイスがゴクリと息を飲む。その顔はまるで、ルードやノアと同じ類の笑みだったからだ。
あれから一週間、学園の中にいてもあちこちから女王の話を聞くようになった。
中にはあのマリカのギフトのせいで実際に中毒症状を起こした人が身内に出た人もいて、その話は尾鰭がついて瞬く間に広がっていく。
秘密基地でそれぞれに聞いた噂話を持ち寄って話をしていたが、ふとルイスが大きく深呼吸をして言った。
「上手くいってるみたいだな」
「うん。思ったよりも広がるのが早いのは、やっぱ兄貴の作戦なんだろうなぁ」
カインが苦笑いしながら言うと、ルイスも無言で頷く。
「ルードはわざと皆に見つかるようにアジトを一つずつ潰しているんだろう?」
「そう。一番人通りが多い時間を狙って、クリスさんに作ってもらった花火打ち上げて派手に捕まえてるって」
そうする事で一気に噂を流しているルードである。そんな中、妖精王からカインに連絡があった。
『フェアリーサークルの出口を全て妖精界に繋いでやったぞ! 敬え!』
と。
「そっか。じゃあ偽シャルルのバグハントが終われば、少しの間は安心かな。後は上手く女王達の隠れ場所が分かればいいんだけどね」
ノアの言葉に全員が頷く。
「どのみち強制力のせいでこちらにはまだ戦争は仕掛けてこられないはずなんだよな? ていうか、そこらへんどうなってんだろ。今、あっちはどんな作戦立ててんの?」
カインがアランに向かって言うと、アランは困ったように視線を伏せた。どうやら学園についていた花瓶の『反射』からは何も得られなかったらしい。
「すみません、音声が悪くて宝珠にも残せませんでした。ですが、一つだけ……女王はドロシーさんを諦めた訳ではないようです。戦争の混乱に乗じてドロシーさんを捕まえるつもりのようなので、それだけは注意しておいた方がいいかもしれません」
「なるほど、そういう強制力が働いたって事なんだね」
「兄さま、どういう意味?」
ゲームの強制力のせいで女王はドロシーを諦めた。そうではなかったのか?
アリスの言葉にノアは頷いて説明してくれた。
「アメリアがドロシーを手に入れたいのは、もしもの時の為の保険なんだと思うんだよ」
「保険? 誰か蘇らせたい人が居るとかじゃなくて?」
「うん。戦争で自分がもしも死んでしまったら、蘇ろうとしてるんじゃないかなって。だからそこまで急ぐ必要もないって事」
「そんな……そんな事の為にドロシーを利用しようとしてるの⁉」
拳を握りしめて立ち上がったアリスに、ノアは驚く様子もなく頷いた。そんなノアの言葉に疑問を感じたのか、続いてキャロラインが言う。
「そうかしら? そうとは限らないんじゃない? もしかしたら大切な人を蘇らせたいとか、そういう理由なのかもしれないわよ?」
「だといいけどね。でも、それならドロシーの事が分かった時点でとっくにドロシーを攫ってたんじゃないかな。それに、ドロシーの魔法は万能って訳じゃない。亡くなってすぐでないと魂を呼び戻せないと思う。何よりも僕の知る限りアメリアはそんな人間じゃないよ。利己的で打算的、誰よりも自分自身を愛している、そんな人間。まぁ、そんな風になってしまったのはアメリアのせいじゃないのかもしれないけど、途中で気付かなかったのは自己責任だね」
「あなた、アメリアの事がよっぽど嫌いなのね……」
皮肉気なノアの言葉を聞いてキャロラインが言うと、ノアは真顔で頷いた。いつもどっちつかずな態度を取るノアにしては珍しい。
「大っ嫌いだよ。レヴィウスに居た時の事全部思い出したから、アメリアへの感情も思い出しちゃったんだよね」
「そ、そうなの……一体彼女に何されたのよ」
真顔でそんな事を言うノアにキャロラインが問うと、ノアは眉を吊り上げて机に激しく手を置いて立ち上がる。
「アリスの絵を破かれた! 可愛くないって何枚も! アリスが可愛くない⁉ アメリアの目は腐ってるんだよ、絶対に! あんな女大っ嫌いだ! 思い通りになんか絶対にさせてやるもんか!」
「に、兄さま……」
珍しく怒鳴るノアにアリスでさえも驚いたが、どうやらそれはアリスだけではなかったようで、皆が目を丸くしてノアを凝視している。
というか、アメリアを嫌う理由がしょうも無さすぎて何も言えない、が正しい。そんな中、やはりキリだけは違う見解を示した。
「流石ノア様です。俺はたったそれだけの理由で女王を陥れてやろうと思えるあなたのお嬢様への愛には、いつだって感服します」
「それだけの理由⁉ そんな事ないでしょ! 世界を滅ぼしてもいいぐらいの理由だよ!」
意気込んだノアにアリスが抱き着くと、ようやくノアは何かを思い出したようにアリスを抱きしめて頭をグリグリと撫でる。
「こんなに可愛いのに! ねぇ? アリス」
「う、うん……」
アリスの事をそんな風に言うのはいつだってアーサーとノアぐらいである。それが分かっているアリスはそれ以上は何も言わなかった。
「まぁ、とりあえず変態が女王を大嫌いって事はよく分かったけど、じゃあ最終決戦が終わった後は、本格的にドロシーをどこかに匿った方がいいって事だよね?」
「そうだな。あちらの真似をして目くらましの魔法でも使って隠すのが一番いいだろうな」
「フィル、頼める?」
「もちろんだよ! 何なら一杯護衛もつけとく!」
ドロシーは戦士妖精達の中でも評判がいい。可愛くて気立てが良くて優しい、と。
何よりもいつも一緒に訓練していたのも手伝って、戦士妖精達はドロシーと桃は仲間だと思って居る節がある。
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