第四百四十一話 キャロラインのドジっ子イメージ宝珠

『だよね。だったら問題ないと思うな。これからどっかでルウが新しい水辺作る時だけ返してやればいいんだよ! 一件落着!』

「……そんな簡単に……でも、そんな事も出来るって事か。ありがとう、フィル。ルウに聞いてみるよ」

『いいよ! カインの頼みだもん。もうちょっとでこっちも終わりそうだから、近いうちに帰るね』

「ん、気をつけてね。無茶はしないように」

『分かってる! それじゃカイン、愛してる!』

「はいはい、ありがと。じゃあね」


 そう言って電話を切ったカインは、ふと視線を上げて皆がこちらを見ている事に気付いて慌ててそっぽを向いた。そんなカインの耳は真っ赤である。


「ふひひ! ライラ、ミアさん!」

「もう、アリス、ニヤけすぎよ!」

「うふふ! 疼きますね! カップリング厨の血が!」 


 キャロラインだけはそこには混じらなかったが、内心では両手で顔を覆って何ともいないむず痒さににジタバタしているキャロラインである。


「と言う訳だって。誰かルウに聞いてみて」


 つっけんどんに言うカインに代わって、ルイスがルウに聞いてみると、あっさり返事が帰って来た。


『構わんぞ。新居に新しい川を作る時だけ返してくれれば問題ない』

『お前な! 何想像してんのか知らないけど、言っとくけどレスターにそんな気、一切ないんだからな⁉』

『想像っていうより、妄想じゃないのか』

『うるさいうるさい! チビロトとズタ袋カライスの癖に!』

『お前なんて赤ん坊ルウだろうが! 良かったな! ここにレスターが居なくてな!』

『レスター……ルウも学園に行きたい……』

『バカ言うな! レスターと約束したろ! 言っとくけど、ワガママ言ったり勝手したらすぐにレスターに言いつけるからな!』


 いよいよ本格的に喧嘩を始めた妖精達を見てルイスがどうしようか悩んでいると、カライスがルウの手からスマホを取り上げて頭を下げてくる。


『うるさくてすまない。とりあえず、そのカエルは好きに使えばいいと思う』

「そ、そうか?」

『ああ。どのみちしばらくはルウも使わないだろうし、こいつ多分妖精界に戻らない。あっちのルウの川に繋いでおけばいつでも水の行き来が出来るから、上手く使ってくれ』

「ありがとう、カライス。助かる。ルウにも礼を伝えておいてくれるか?」

『ああ。何かあったら知らせてくれ。出来る限り俺達も力になる』

「! ありがとう! 心強いな」

『こちらこそ、ありがとう』

「それじゃあ、また」


 そう言って電話を切ったルイスは、胸の奥がジンとしていた。レスターが繋いでくれた縁のおかげで、どうにかこれ以上の洪水も防げそうだ。


 電話を聞いていたキースとクルスとスルガはそれぞれ顔を見合わせて喜んでいたのだが、ふと何かに気付いたようにキャロラインが言う。


「でも他の場所でもダムは作るのよね? 他の所は大丈夫なのかしら?」

「特殊な気候で降水量が全く読めないのはここだけなんです。他の所は一応一番多かった年の降水量に合わせているので、滅多な事にはならないはずです。それに、今回の事でダムの弱点も分かりました。これはかなり大きな収穫です。戻ったら早速計算しなおさないと」


 そんな事を言ってすぐさまメモを取るクルスを見てキリは目を細めた。


「やはり、クルスさんには向いていましたね。とても楽しそうです」

「ははは、そうかな? でも君が背中を押してくれなかったら、まだ僕はグズグズしてたんじゃないかな」


 言いながらどこか誇らしげに笑ったクルスとスルガに後の事を任せた一同は、翌朝、オルゾ地方を後にした。


 別れ際、アリスは泣く泣く貯水池にカエルを返していた。友達一杯作るんだよ、とカエルに言い残して。

 


 帰りの馬車の中でしばらく誰も何も話さなかった。そんな中、ふとカインが妖精手帳を取り出して言う。


「ちょっとあそこ行こっか。シャルルも呼んで」


 その一言に皆が無言で頷き、馬車の中から秘密基地に移動した。そこからシャルルにメッセージを送り、皆が揃うのを待つ。


 やがて、シャルルとシエラが姿を現した。シャルルは以前よりも幾分疲れた顔をしていて、フォルスでも飢饉の対応に追われているのだという事が嫌でも分かってしまった。


「お疲れ様、シャルル、シエラも」

「キャロライン様……何てお優しいお言葉……はぁぁぁ」


 言うなりシエラは椅子に崩れ落ちるように座り込んで、そのまま机におでこを打ち付けた。その途端物凄い音がしてシャルルとキャロラインがギョッとした顔をしてシエラに声をかけたが、本人はケロリとしている。


「相当疲れてるようね。大丈夫? 二人とも。少しやつれたんじゃなくて?」

「ええ、もう……大変です。前もって準備をしていたとは言え、やはり実際に来ると違いますね……」

「ほんと、そう……率先して手伝ってくれるところはいいんだけど、そうじゃない所はもうほんとに……何度アリス化しそうになったか……」


 言う事を聞いてくれない領主達を、何度殴ってやろうと思ったか分からない。シエラがポツリと言うと、その発言にシャルルが頬を引きつらせている。


「そっちはどうです?」

「こっちはどこも概ね順調だぞ。やはりあの聖女の発言が効いていてな。今やアンチ聖女というだけで迫害される勢いだ」

「それもどうかと思うけどね」


 嬉しそうなルイスとは反対に、リアンが眉を顰めた。色んな考え方があるのは別に悪い事ではないし、あまりにもキャロラインを神聖化するのもいかがなものかと思うのだ。それはキャロライン自身もそう思うようで、リアンの言葉に深く頷く。


「そうなの。だからそういう所には何か対策をしないといけないわね」

「それは簡単じゃん。お姫様の鶏に追いかけ回されるドジっ子イメージ宝珠を作ってばらまけばいいよ。そうしたらあっという間に親しみやすい聖女様の出来上がりだよ」

「それだ! リー君は天才だな! よしキャロライン、戻ったら早速取り掛かろう!」


 思わず名案だと立ち上がったルイスにリアンは慌てて止めた。


「冗談だよ! 鶏に追いかけ回されるお姫様見て誰が喜ぶの⁉ そんなの見て笑えるの変態ぐらいだよ!」

「酷いな。僕の笑いの沸点はそこまで低くないよ」

「そこじゃないよ! とにかく、変なイメージつけるのもダメだけど、このままじゃマズイよね。聖女が万能だって思われたら、今後お姫様は凄く生きにくくなっちゃうよ」


 心配そうに言うリアンに、キャロラインは顔を輝かせている。こんな風にリアンが心配してくれるのは何気に嬉しいキャロラインである。


「まぁそれはおいおい対策していくとして、どうしたんです? 突然」

「ああ、そうだった。キャロラインのドジっ子イメージ宝珠で本題忘れる所だった。シャルル、ちょっとゲーム機見せてくんない?」

「構いませんよ、どうぞ」


 シャルルはゲーム機をカインに渡すと、カインはそれを操作してメインストーリーの画面を立ち上げる。


「ああ、やっぱり……ほら、飢饉も洪水もクリアになってる。後はもう、最終決戦だ」


 カインの言葉に全員でゲーム機の小さな画面を覗き込む。すると、そこには大筋のメインストーリーが表示されていて、飢饉と洪水の部分にクリアした時に現れる赤い花のイラストが描いてあった。


「と、言う事は……?」


 アリスの言葉にルイスが続ける。


「クリアした。つまり、飢饉はこの先これ以上は酷くならないし、洪水も起こらないという事……か?」

「そういう事なんだろうね。そしてゲームの強制力は何があっても絶対に覆せないって事も分かったよ」

「ん? どういう事だ?」

「つまり、アメリアが何をしようとしても、ゲームが終わらない限りは絶対にこちらに戦争を仕掛けてくる事は出来ないって事だよ」

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