第三百九十八話 妖精達の避難先
「ところで妖精王、外の世界に居るのは低級妖精だけなのですか?」
カインと妖精王の会話を苦笑いしながら聞いていたシャルルが言うと、妖精王は神妙な顔をして頷いた。
「ああ。高位妖精は妖精界の深い所に身を隠しているが、妖精の羽根をあちらが持っているという事は、妖精界にも出入りしだすかもしれん。そうなったら――」
今は妖精界の深層部に隠れている高位妖精達だが、あちらがもしも妖精の羽根を使って妖精界に侵入してくる事などがあれば、その時は高位妖精とてどうなるか分からない。妖精王は腕を組んで悩まし気な表情を浮かべる。
「すみません、それずっと不思議だったんだけど聞いていいっすか?」
オリバーの言葉に妖精王が頷くと、オリバーは話し出す。
「何でわざわざ外の世界に居る妖精だけ捕まえてんすか? フェアリーサークルを作る為の妖精の羽根がいるなら、それこそさっさと今持ってる妖精の羽根で直接妖精界に行って捕えるとかすればいいんじゃないんすか?」
「うむ。恐らくそれは最終手段だろうと思われる。何故なら、妖精界はたとえ羽根を持っていたとしても、外や島とは時間の流れが違う。妖精界に足を踏み入れても無事に戻って来られるのは、レスターのような強い加護がついた者だけだ。だからこそ、外の妖精の羽根から集めているのだろう。それで足りなければ奴らは妖精界にも遠慮なくやってくるだろうな」
「なるほど……規模によるって事っすね。で、外にはもう妖精が少なくなってるんじゃ、あんま時間ないかもっすね」
「そうなのだ。良い隠れ場所を探してはいるのだが、なかなか見つからない」
そう言って視線を伏せた妖精王にアリスはいつもの様にニカっと笑った。
「じゃあさ、じゃあさ、バセット領に来る? 森は既にカオスだから今更妖精がいっぱい来ても誰もビックリしないよ!」
「……お嬢様、森がカオスな事は自慢ではないんですよ?」
呆れたキリに頷くノア。
けれど、アリスはそんな二人を無視して言った。
「でもさ、妖精王達は妖精界に居るってあっちはきっと思い込んでるでしょ? だから裏をかこうと思ったんだよ! まさか高位妖精がしがない男爵領に居るなんて誰も思わないでしょ?」
アリスの一言にキャロラインは顎に手を当てながら頷く。
「アリス、それはいいかもしれないわ。妖精たちは一度こちらの世界に避難してくるのはどうかしら? 今の所行き来出来るのは女王達だけのようだし、万が一妖精界に入り込んで直接妖精達を捕えようとしているのなら、妖精界に妖精が居なければいいのよ」
「それは言えてる。妖精王、戦いの場を設けてくれるんですよね?」
ノアが真顔で妖精王に詰め寄ると、妖精王は慌ててコクリと頷いた。
「ああ。どこでフェアリーサークルが作られるのかが分かれば、そこからの出口を我が設定してやる。そこで思う存分戦え」
「待ってください。でも、それをしたら妖精の羽根を持っていない僕達は年を取ったり子供に戻るんじゃ?」
「いや、この場所のように我が作る特殊な場所だ。妖精界であって、その法則を解いた場所。故に何の作用も起こらん。安心せよ」
それを聞いてノアは頷いた。万が一戦争になった時、出来るだけ誰も巻き込みたくはない。その為には妖精達には一時的にこちらに避難してきてもらうのが一番望ましい。
「カイン、ルードさんは引き続きあいつらのアジト探してくれてるんだよね?」
「ああ、そう聞いてる。目ぼしい所は既にいくつか見つけたらしい」
「そう……多分、女王は本拠地をこちらに移し始めてるんだろうね。妖精王、妖精達の力を騎士達に貸してやってもらえませんか? あちらは目くらましを使ってアジトの存在を隠しているようなんです」
「それは構わんが、その後はどうするんだ?」
「偽シャルルに頼みます。一度、全ての外からの侵入者を排除してもらいましょう。女王がアメリアだと分かれば、僕が似顔絵を描けます。それが終わったら、妖精王は全てのフェアリーサークルの出口を妖精界に設定してください。それまでに妖精達にこちらに避難してもらいましょう」
「ふむ……島にはフェアリーサークルを繋がないようにするという事か。確かにそうすれば妖精たちは守れるか……」
腕を組んで頷いた妖精王は、おもむろに空中に魔法陣を描き出した。魔法陣が虹色に光り、妖精王がそこに腕を突っ込むと、またあの真っ黒の羽が飛び出した。
「皆の者、緊急連絡だ。よく聞け。もうじき、外の世界の者達が同胞達の羽根を使い妖精界に攻めて来るかもしれないと連絡が入った。その為、我々は魔法の島と手を組みあちらと戦う事に決めた。今、フェアリーサークルは全て魔法の島と大陸に繋いでいるが、その全ての出口をしばらく妖精界に繋ぐ。同胞達に告ぐ。次の緊急連絡を我が発信したら、全ての同胞たちは速やかに魔法の島に一時的に避難せよ。妖精界は戦場になる。我はそなたたちが巻き込まれるのは嫌だ。これ以上誰一人消える事のないよう、どうか頼む」
そう言って妖精王はよく通る声で全ての妖精達に告げた。こんな事は妖精界が始まって以来初めての事である。きっと、先代もどこかで聞いていて後で怒鳴られるかもしれない。
それでも、妖精王は同胞を守りたかった。古いしきたりにこだわって妖精が狩られるのはもう嫌なのだ。
妖精王の凛とした演説を聞き終えたルイスは、すぐさま立ち上がってカインとシャルルと顔を見合わせて頷く。
「うちは元より妖精との繋がりが強いので、余っている土地を妖精達に明け渡すよう指示を出します。ただ、これはあくまでも秘密裏に行わなければ。女王たちを排除する前に知られてしまう訳にはいきません」
「そうだな。俺達も各地の信頼できる領主達に掛け合おう」
「ルイス、グランもよ。エドワードさんはきっと事情を知れば妖精達を受け入れてくれるわ。それに、グランには開拓出来ていない土地も多いから、結構な数の妖精達を受け入れられると思うの。あとはセレアルね。あそこにはレスターの事で妖精の株が上がってる。むしろ喜んで保護してくれると思うの」
「イフェスティオとかフルッタも大丈夫なんじゃない? あそこも土地結構広いよ。それこそ岩系とか鉱石系の妖精には住みやすいんじゃないかな」
「リー君の言う通りね。特にイフェスティオは火山群の側は人間が住めないから、ひっそり暮らしたい人達にも向いてると思うわ。オルゾ地方は言わずもがなだし、うちの方も大丈夫だと思うわ。ね? リー君」
リアンの隣でライラが言うと、リアンもアリスもコクコクと頷いている。
「ほらね、妖精王、結構あるよ! 大丈夫!」
満面の笑顔を浮かべるアリスを見て、妖精王も嬉しそうに笑って頷いた。
「そうだな。後は古い者達が動いてくれるかどうかだな……」
そう言って腕を組んで考え込んだ妖精王は、この問題を一旦持ち帰る事にした。何かいい案があればお互い連絡し合おうと言う事で、アランは妖精王の分のスマホをすぐさま妖精王に送る事を約束して、この不思議な会議は幕を閉じた。
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