第三百八十八話 黒い覆面達

「だよね。でもさ、それまでもずっと女王は既にオピリアをロンド様に使ってたんだよ? 突然そんな覆面にオピリア畑なんて守らせるかな?」

「それまで隠してたんなら、確かにそんな分かりやすい事しないわよね……二回目の銀鉱山にしてもそうよ! わざわざこちらが罠を仕掛けて、それに乗って来るなんて馬鹿な事するかしら? 結果としてはあの一件でシャルルが大公になれた訳よね?」

「その通りだな! そう考えると他のもか?」

「グランのはそのおかげで聖女がキャロラインだって完全に根付いたし、バーリーもそうだよ。それまでは噂でしかなかったキャロラインの存在が、オルゾ地方に広まった。極めつけはシャルルの即位式のだね。あのおかげでフォルスとルーデリアは友好国になったんだから。ただ一つ分かんないのは最後のフォルス学園に出て来た奴だけかな。これは偽シャルル本人に聞かないと分からないんだよ」


 そう言って腕を組んだノアに、ルイスが言う。


「アリスの強さをフォルスに知らしめる為か?」

「何の為に? まぁそこは機会があれば聞けばいいけど、そう考えると偽シャルルもまた、僕達のお膳立てをしてたって事なんだよね。それに偽シャルルはダニエルがあの盗賊に襲われた時に言ったんだよ。僕の自慢の兵隊を見せる事が出来なかったって。それって、あの覆面の事なんじゃないかなって」

「……それにしたって、あんなにも動物を殺す事ないだろ⁉ 何であんな事までして覆面けしかけてくるんだよ!」


 動物にすこぶる優しいカインとしては、到底許されない事だ。それについてはオスカーもそうだったようで、隣で怖い顔をして頷いている。


「それについては僕から説明してもいいですか?」

「ああ、なんだよ」

「別に偽シャルルを庇う訳ではありませんが、一つおかしな事がありまして」

「おかしな事?」

「ええ。初めて僕達が覆面と対峙した時、僕達は元なんて壊してないんですよ。倒したら、自然と消えてそれ以降は増えませんでした。でも次からは必ず元があって、それを壊さなければ覆面は次から次へと現れた訳です。でね、思い出してください、キャスパーの魔法を」


 そこまで言ってアランはキャスパーの魔法を知っているであろうルイスとカインに視線を走らせた。


「あいつもトーマスと同じ……『増幅』だ」

「ええ。では『増幅』の禁断魔法は? 何をすればその力が増えますか?」

「生贄……か……くそ!」


 どうして逃がしてしまったんだ! それに気づいたカインは自分の膝を打った。それをオスカーが止める。


「つまり、どういう事なの? キャスパーがこちらの情報を入手して、偽シャルルの魔法を利用していたと、そういう事?」

「今の話を聞く限り、そういう事なんでしょうねぇ……問題はぁ、それをどうやったか、だよねぇ」


 のんびりとキャシーのバターサンドを頬張るユーゴをルーイが打った。こんな真面目な話をしているのに、よくのんきに食べていられるな、と思ったが、ノアの隣のアリスも両手にバターサンドを握りしめて必死に頷いている。


「それが偽シャルルが言ってた事なんじゃないかな。どいつもこいつも勝手ばかりする、それはそういう意味だったのかもね。女王の手下というよりも、キャスパーの手下が僕達の情報を流していたんじゃないかな」

「ねぇ、でも、それじゃあ継母の黒い覆面達は一体誰なの? 偽シャルルと女王に繋がりが無いのだとしたら、あの覆面達は……」


 キャロラインの言葉にルイスも頷いた。女王の護衛をしていた覆面はレスターも見ているし、あの当時のセレアルに居た人達は全員知っているはずだ。


「それは案外単純な事かもしれませんよ?」

「どういう事? シャル」

「簡単です。思い込みですよ」


 シャルルの言葉にシエラはさらに首を傾げる。


「例えばね、黒い覆面を見なかったか? と聞きます。そうしたら、他に特徴があったとしても、同じように黒い覆面をしていたら、人はイエスと言う。それを聞いた人達はそれだけの情報で勝手に覆面の敵は一つのグループだと思い込んでしまうと言う事です」


 そこまでシャルルが言うと、カインとノアは頷いた。


「そうか! 俺達はレスターに覆面を見たかって聞いた。レスターは確かに黒い覆面を知ってたんだ。でも、それは俺達を直接襲ってきた奴らじゃない」

「でも他に黒い覆面なんて……あ……マリカ教……会?」

「そう! あいつらも黒い覆面をして顔を隠してた。背中には特徴的な紋章が入ってたけど、聞かれなきゃわざわざ言わないよな? だって、レスター達からしたら黒い覆面は背中に紋章が入った覆面しか知らないんだから」


 つまり、どちら側も黒い覆面が一つのグループだと思い込み、それを前提で話していたから誰も気付かなかったのだ。だから余計に偽シャルルと女王が手を組んでいると思い込んでしまっていた。


「そうとなったら確認だ! ユーゴ、あの衣装はあるか?」

「ありますよぉ。門外不出だからキリ君に隠してもらってましたよぉ」


 そう言ってユーゴがキリを見ると、キリは頷いて徐に持ってきていた紙袋から覆面の衣装を取り出した。


「そんなもの持って歩いてんの⁉」


 リアンが言うと、キリは首を振った。


「いいえ。ユーゴさんも言った通り、これは抹消しなければと思ってどこかで焼こうと思ってたんです。かといって学園で焼くのはリスクが高いなと思っていましたが、都合よくバセット領に行くというので、森で燃やそうと思って持ってきておいたんです。ただ、もしかしたら今後も何かに使うかもしれませんし、ここに保管しておきます」

「キリ! 流石だね! ルイス」

「ああ!」


 ルイスはスマホを取り出してレスターに連絡を取った。レスターはすぐに電話に出てくれる。肩には相変わらずロトが乗っていて誰かと言い合いをしているが、それをそっとカライスが摘まみ上げて画面の外に連れ出してくれた。


「レスター、すまないな、忙しいだろうに」

『あ、いえ。今丁度休憩していたんです。そうだ! ルイス様、エントマハンターの薬のおかげで、虫が大分減りました! 成功ですよ!』


 そう言って嬉しそうに隣のカライスの肩を叩いたレスターに、カライスは照れくさそうに微笑んだ。こちらでもそれを聞いたキャロラインとアリスが手を取って喜んでいる。


「そうか! それは朗報だ! ありがとう!」

『はい! えっと、それでどうされたんですか? また何かあったんですか?』

「ああ、いや、少しレスターに聞きたい事があってな。レスター、よく思い出して欲しいんだ。継母を護衛していた覆面達は、他に何か特徴が無かったか?」

『特徴……ですか? そう言えば、背中にどこかの紋章が入ってましたよ。あれ、どこの紋章だろう……?』

「その紋章って、こんなのじゃなかった?」


 ノアはキリから受け取った衣装の背中の紋章を書き写したノートをレスターに見せた。それを見てレスターは驚いたような顔をして頷く。


『それ! それです! 皆さんも知ってたんですか?』

「ううん、これね、マリカ教会っていう所の制服についてる紋章なんだ」


 ノアが言うと、レスターは目を丸くした。


『教会、ですか?』

「そう。そしてこの教会の連中に、つい先日女の子が攫われた」

『そんな……教会が人攫いだなんて……その女の子は⁉』

「大丈夫。オリバーがちゃんと助け出したよ。でもそっか……やっぱり継母は女王だったんだね。ありがとう、レスター。その証言が欲しかったんだ」


 そう言って電話を切ろうとしたノアに、レスターが画面いっぱいに詰め寄ってきた。

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