第三百八十九話 同族嫌悪
『僕にも、僕にも何か手伝える事はありませんか⁉』
何せ女王の仕打ちは誰よりもレスターとロンドがよく知っている。自分にも何か出来る事はないか? このまま何もしないままで平和に過ごしていていいのか?
レスターの問いにノアはゆっくり頷いて言った。
「じゃあ、仲間を探して欲しい。敵は恐らく外の世界から来てる。もしかしたら、大きな戦争が起こるかもしれない。外ではまだ奴隷制度や妖精狩りが横行してるんだ。レスターも知っての通り、女王はどうにかしてこの地を支配したいと考えてるようだから、僕達はここを守らなきゃならない。その為には、向こうをしのぐほどの戦力がいる。その戦力探しを君にも頼みたい」
真面目な顔をして言ったノアに、レスターは表情を引き締めて頷いた。そしてそれを隣で聞いてたカライスもロトも頷いている。
『分かりました。探します。これは領民達には言わない方がいいですよね?』
「そうだね。戦争が起こる前に女王を捕まえたいけど、どうなるかまだ分からないから秘密裏に動いてほしい。王達はもうこの情報を知ってるけど、あちこちに女王の仲間のキャスパー伯爵っていう奴の手の者が潜んでる可能性があるんだ。だからこの話は君達の中でだけに留めておいて」
『スパイが居るって事ですね……分かりました! もしまた何かあったら連絡します』
「うん、お願いね。ありがとう」
『はい! それではまた』
そう言って、レスターとの電話は切れた。
「レスターを巻き込むのか?」
怖い顔をして言うルイスに、ノアとカインは頷いた。
「リー君がね、言ったんだ。仲間外れにしたら一週間は口利かないよって。ルイス、レスターに一週間口利いてもらえなくなってもいいの?」
「い、嫌だが! そういう問題じゃないだろ⁉」
「レスター王子はレスター王子にしか集められない仲間が出来た。フィルじゃ集められない仲間だ。それに、レスター王子はもう弱くない。戦いには向いてないかもしれないけど、俺達よりも仲間集めは上手いと思うよ」
「言えてる。僕達よりずっと社交的だよ、ミニ王子は。ていうかさ、そこであの話持ち出すの違くない⁉」
「まぁまぁ。でもその通りだなって。これだけ普段から仲間だ何だ言ってるのに、黙ってられるの嫌だもんね。僕は心を入れ替えたよ」
そう言って笑顔を浮かべるノアを全員が胡散臭そうに見つめてくる。
「え、何その顔。アリスまで」
「え……だって、兄さまだよ? そんなの信じられないっていうか、私、兄さまのそういう言葉は信用しないよ、昔から」
それを信じて今までにも散々痛い目を見て来たアリスである。今までの数えきれないノアの嘘を、アリスはまだ許していない。
言い切ったアリスを見てノアは愕然とした。
「ア、アリス! 大丈夫! 僕はもう嘘つかないよ⁉」
「……もうそれが嘘だもん。兄さま、そういう人だもん」
「……」
「お嬢様の勝ちですね。ちなみに、俺もノア様がそんな事言う時は大抵裏で何か考えてる時だって思ってます」
「キリまで! 酷い!」
「酷くないでしょ。あんたが今までしてきた事振り返ってみなよ。結果的に上手くいったけど、中々最低だから」
シレっとそんな事を言うリアンにノアは苦笑いを浮かべた。そんな顔を見て、皆はやっぱり、と思ってる訳だが、それはもうあえて誰も言わない。ノアはノアなのだ。
「まぁこれで仲間探しはレスター王子にもお任せしたから、妖精たちはこっちについたも同然でしょ? 後は誰だろうなぁ」
「ほらやっぱりな! そんな事だろうと思った。本当に打算的だな、お前。でもまぁフィルや妖精王が言うのとレスター王子が言うのでは意味合いが違うもんな」
「そうそう。命令とお願いでは随分気持ちが違うよ。そんな訳で僕からの報告はお終いかな。多分、女王はアメリアだよ。彼女ならこの世界の事も花冠の事も知ってる。つまり、君達の事を知ってる。今まで以上に気をつけてね、皆」
「分かった。ところでループの事は知ってんのかな?」
「どうかな。それは分からないけど、自由に行き来出来るのなら、ループを利用しそうだよ、彼女は」
「……そんな女なのか?」
「そんな女だね。僕史上最高に嫌な奴だよ。表面的にはニコニコして、裏で何考えてんのかさっぱりなんだから」
納得したように頷いたノアに、それを聞いていた一同は思う。
「なるほど、同族嫌悪か。まぁ分かった。ノアみたいな奴だって事ね。女版ノアか……やりづらいな」
カインの言葉にまたも一同は頷いたが、そんな中、アリスだけが胸を叩いた。
「大丈夫だよ! 例え女だろうが男だろうが、私は殴る! それがたとえ兄さまみたいな人だとしても、遠慮はしないよ!」
「……そうだね。アリスは僕にも容赦ないもんね……何なら僕に一番容赦ないよね」
「……かわいそ」
片思いもここまで来れば天晴である。
「お嬢様は本気で性別、年齢、種族は考えないので、そこらへんは安心してもいいと思います。ただ心配なのは、そんな女王なんて呼ばれる普段贅沢三昧してそうな人間がお嬢様の拳を食らって死なないでしょうか……」
「……」
キリの言葉に全員が口を噤んだ。それは言い切れない。何せクマをも倒してしまうのである。一般人がアリスに本気で殴られたら、一体どうなってしまうのか。
「まぁその時はその時だよ。で、これからの対策なんだけど、キャスパーが勝手な事をしてるって仮定して、こっちの情報はどこかから漏れてるって事が分かったから、これからは集まる曜日と時間をあらかじめ決めてしまおう。その日その場に来れなかった仲間には後からメッセージを送る。あとメグさんみたいな『傍受』とかを何かにかけられてる可能性もあるから、見つけ次第、カインの『反射』をかけておいて」
「了解。逆にこっちから『傍受』をするって事な」
「そう。その魔法、本気で便利だよね。それもある意味チートだよ」
「攻撃系には効かなくても、服従とかにも効くんですよね? 確か」
シャルルの言葉にカインが頷くと、シャルルは感心したように頷いた。
「便利ですね。服従させようとして近づいてきたら、逆に向こうが服従する……恐ろしいですね」
危険魔法と呼ばれるものの中には一定数他人を操る系の魔法があるが、カインの魔法はそれを全て相手に返してしまうという魔法だ。上手く使えばこれほど便利な魔法もない。
「まぁ、俺の魔法も大概特殊魔法だからな。俺の魔法は学園でもイーサン先生と校長しか知らないよ」
「ああ、ライト家はその魔法の情報を外に出さないですもんね。カイン、何度も言いますが、一度でいいからそれ、僕に研究させてくれません⁉」
鼻息を荒くして詰め寄って来るアランにカインは怯えた顔をして首を振った。
「嫌だよ! お前、絶対変な事するだろ⁉ 親父にも口酸っぱくして言われてるんだよ、クラーク家には気をつけろって!」
カインの父ロビンとアランの父、アベルは先輩後輩の仲だ。未だに先輩命令だと言って『反射』魔法を研究させろと言われるとロビンは嘆いている。
「それじゃあ決まりですね。私は女王の情報を妖精を使って集めます」
「俺達は今の話を父さんたちにしに行こう。ノア、シャルル一緒に来てくれ」
「もちろん。シャルル、全員運んでくれる? それとも切符使う?」
「いえ、私が運びます。切符はキャロラインの言う通り、まだしばらくは使わずにいましょう。どこかに捕まってください」
結局、妖精転移魔法は全てが終わってから始めようという事になったのだ。それまでこれはこちらの切り札として取っておくべきだと言い出したのはキャロラインだ。
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